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「コンプレックスとアイデンティティ」他【2021年4月の詩①(4編)】

アイム・エイジャン

 僕はジャパンで生まれたアジア人。
 昔読んだアメフトの漫画では、イエローモンキーと呼ばれていた。
 初めて好きになった野球選手。マーク・クルーンは、アメリカ人。ボールや帽子に合計で四回もサインを貰った。
部屋の壁に貼っているポスター。バスキアのオニオン・ガム。彼も、アメリカ人。
 大学生の時、喫煙所で悩みを打ち明けてくれた友だちは、中国人。彼が教えてくれたブルースのような音楽を聴いて、「ブラックミュージックってやつかな」と言ったら「それは差別用語だよ」と教えてくれた。
ゼミの合宿で一緒にお風呂に入った友だちは、香港人。みんなケヴィンと呼んでいた。たぶんイングリッシュネームってやつ。
二人は僕と同じアジア人。
染めたばかりの赤い髪。英語の授業が始まる前。少し笑われていたら、世界にはいろんな髪色の人がいるってプロジェクターに映して、みんなに写真を見せてくれたダミアン先生は、アイスランド人。
 女の子にあげた誕生日プレゼント。スペインで生まれたブランド。デザイナーはスイス人。イメージキャラクターとして起用されたモデルはブラジル人。
 京都駅で友だちと待ち合わせ。音楽を流してノリノリな人がいたから、控え目にノってみせたら話しかけてくれた。拙い英語にも付き合ってくれた彼は、カナダ人。
だからなんだよ。
僕はアースで生まれたヒューマン。
この星に生きる、みんなと生きている。

メンカウラー

僕は今日、君に会いに行く。
三年くらい前、君と終わることを選んだ。
時流れようとも心に巣食う後悔。

針山の上に立つような感覚。汗ばんだ手。
苦しくて堪らなくなるとわかった。
君が向こうから歩いてくるのが見えて。
また、君に会えた。

シンガポール料理屋に入って
君がアジアンモスコミュールを頼むから、
僕はマンゴーレモングラス。
付き合っていた頃と同じ。
君がまとめて注文をする。

どんな話をしても、
君の仕草や話し方が揺らしてくる。
もういっぱいいっぱいで、
わけもなく君の目を見つめてしまって、
何を話したのかあまり覚えていない。

店を出て、公園まで歩く。
謝らないといけない。
あれほどひどく傷付けてしまったから。
わかっているのに。
ただ君を抱きしめたい。

君と桜の写真を撮りに来た公園。
桜はもう散っている。
緑色の木を見て、
目を瞑った君の写真を思い出す。

もしかして君とは、これが最後。
借りたままだったカメラを返して、
もう二人を繋ぎ止める物はない。
僕はただ虚しくも、
この時間が少しでも長く続くことを願った。

別れを決めたのは僕で。
君は泣いて止めてくれたのに。
君のことがまだ好きだと、言ってしまいたい。

一枚だけ撮った君の写真を、何度も見返して。
また始まってほしいと願う僕は、こんなにも最低だ。

コンプレックスとアイデンティティ

 「私は君のそういうところを君の良いところだと思っていたけど、君はみんなにそういうところを批判されてしまって、そういうところを忘れていってしまったね。なにしろ私もそうして失われたものを取り戻そうと必死な一人だから、そんな君を責めるつもりはないけど、どうかまだカケラが残っているその状態から君自身を忘れないようにしてほしい。そういう風に本当に思うんだ。君がコンプレックスと言ったすべて君のアイデンティティだよ。そういうところを見て私は君が君であることを信じられるんだ。ただそれも私の自分よがりな考えを押し付けてしまっているだけかもしれないね。また息苦しくなってしまうかな。そうならないことが私の一番の願いだったんだけど。」と、二〇一八年一月二日の僕が言っている。どうやら僕の中にはまだ、私が生きているから、僕はまた君とあの場所で、帰り道を探す。

コンクリートの壁

玉虫色のレンズを覗けば、
不器用さの滲む舌足らずが迷子になっている。

もたれかかる偽りを憎めば、
全身を監獄に支配されて落ちていく。

ぶれた写真で瞬間を味わえば、
止まることのない時間に飲み込まれている。

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