誰でも『ファン』を名乗れるエンタメになろう〜宝塚とラグビーと〜
(トップリーグ2021開幕前に書き綴っていた『ラグビーとジェンダー』シリーズを加筆訂正しました。)
目次
1、知らなくても困らない
2、知らなきゃダメですか?
3、ラグビー界、もうファンを選ばないで
1、知らなくても困らない
宝塚歌劇 雪組公演『ひかりふる路』
劇団随一の実力派、望海風斗のトップお披露目公演、
でありながら、私は観劇の記憶がほとんどない。
これがはじめての観劇だった。彼女が『歌うま』らしい、という事以外何一つ知らなかった。たまたまチケットが手に入り、最後列に近い所から、この摩訶不思議な
ヅカの世界
に足を踏み入れたのだった。
一言で言って、芝居はラストが尻切れトンボだったし、その後のショーは、ひたすら題名である
『Super Voyager』
なるフレーズを連呼するばかりだった。
しかし、幕が降りた後、私は今まで感じたことのない幸福感にも似た興奮を覚え、それ以来、必死でチケット探しに明け暮れ、毎月劇場に通う日常が始まった。
あれから月日が流れたが、今や各組主要メンバーの序列からニックネームから入団の期に至るまで、当たり前のように口からスラスラ出てくる。
もっと自由がきく友人達は、あっという間に
宝塚大劇場遠征、タカラジェンヌの個人ファンクラブ入会、その会が公演ごとに開く懇親会(通称お茶会)参加、
とコアな活動を楽しんでいる。
宝塚に初めて触れた人が、この程度のファン活動にまで達するのに、おそらく平均2年はかからないだろう。
宝塚は来る者拒まず、なのだ。
劇場内には、親子3代、4代のファンも珍しくない。しかし、初めて行って気後れすることはほとんどない。しかも、
それなりに楽しめるプログラム
に必ずなっているので、よほどの事がない限り、
行かなきゃ良かった
にはならない。
人事については、色々難ありの劇団ではあるが、エンタメとしての完成度は高い、と思う。
大衆演劇は『客を選ばない』
2、知らなきゃダメですか?
ラグビーを再び観るようになってから、スポーツ全般に、
ある種の敷居の高さ
を感じるようになった。野球にもサッカーにもラグビーにも、マニアなファンがいる。主に男性だ。そのせいだろうか。
女性が『ファン』を名乗り辛い。
いちいち『にわかですが』『ルールとかよく分からないんですが』って、前置きする必要があるって、おかしくないか?
宝塚でも歌舞伎でも、マニアファンはいる。彼らが初心者ファンについて何を考えているかは知らないが、少なくとも劇場で『何も知らないくせに』みたいな捨て台詞を吐かれたことはない。
しかし、スポーツの現場では『普通』にある。
おそらく男性には
『俺たちは純粋にこのスポーツを愛している。女たちは選手に黄色い声をあげてるだけだろ。このスポーツ自体を愛さない奴は許せない。でていけ!』
という、『そのスポーツそのものを愛せ!』という信仰に近い信念がある。
しかし、『スポーツそれ自体を愛する』とはどういうことだろうか。
試合には勝ち負けがある。勝つためには、選手の獲得と育成、チームの運営方針、監督のチーム作り等が必要になる。
『スポーツそれ自体を愛する』ことは、詰まるところ
『勝つ』
という目的に集約されがちだ。
それって、本当に美しい話なのか、と思う事がある。
負けてばかりのチーム
こういうチームを応援する人がいるのはなぜだろう。
暗黒時代の阪神、Jリーグ草創期の浦和レッズ、
もちろん野球、サッカーが好きなのだろう。しかし、それ以上に自分を惹きつけるものがあるから応援せずにはいられないのだ。
私は女性ファンが、特定の選手を応援している姿を否定する気にはならない。彼が頑張っている姿が彼女の心を打つなら、彼が活躍しなくても、彼のチームが負け続けても、彼女はそのチームを応援し続けるだろう。その行為がなぜいけないのか。
3、ラグビー界、もうファンを選ばないで
ラグビーの世界にいると、野球、サッカー以上に
『ラグビーを知らない奴許さない』
という雰囲気を感じる。それはコアファンだけではない。より問題なのは、現役選手、チームスタッフ、解説者、あらゆる場面で、
『知ってる人間だけと繋がっていたい』という内向きのエネルギーを感じることだ。
『儲けなくて良かったからファンを選べた』という事情はあるだろう。女性ファンがいようがいまいが、チームの経営も選手スタッフの給与も変わらなかったのだから。
でも、これからは違う!
ということを関係者達はどこまで理解しているのだろうか。
『その選手』を応援する人は、チームの勝ち負けでチームを見捨てたりはしない。
それに、そもそも彼の『プレー』する姿に惹かれるのだから、ラグビーという『スポーツ』にも魅了されているに決まっている。
チームに勝ち負けが大事なことは当然だが、
『勝ち負けは二の次』という気持ちで、声援を送る女性ファンの『価値』にも気づいて欲しい。
バカでもない。人畜無害でもない。都合のいい金蔓でもない。独自の貴重な価値があるのだ。
彼女達は、『彼も』、『ラグビーも』愛している。
新リーグ発足への準備が着々と進む今こそ、選手スタッフの皆様に、まずはこの思いを伝えたい。
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