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【第39回】「シェアの場のデザイン」

第一線で活躍しているクリエイターをゲストに迎え、クリエイティブのヒントを探るトークセミナーシリーズ「CREATORS FILE」。

第39回 クリエイティブナイト
ゲスト:成瀬友梨氏(代表取締役・建築家)、猪熊純氏(建築家 )

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今回は、株式会社 成瀬・猪熊建築設計事務所の代表取締役兼建築家・成瀬友梨氏と猪熊純氏をゲストに、「シェアの場のデザイン」について探ります。

西澤:おふたりは、業界でもいち早くシェア空間が生み出す個性や公共性という新たな価値に注目され、数多くのシェア空間を設計されています。今日はそんなおふたりに、これからのシェアのかたちについてお伺いしたいと思います。

成瀬・猪熊:よろしくお願いします。

「役割分担」の社会から「シェア」の社会へ

猪熊:「シェア」の考え方は、建築に関わらず「シェアリングエコノミー」のような話も含めてよく聞く言葉ですよね。「10年で終わる流行だ」と言う方もいますが、これからはずっとシェアの時代だと思っています。

<スケッチ>画像提供:成瀬・猪熊建築設計事務所

猪熊:これは、社会の移り変わりのイメージを手書きのスケッチで描いたものです。前半はツリー状に分かれている矢印で、後半は消えたりくっついたり、ちょっと離れたりを繰り返しています。

西澤:この絵の意味は?

猪熊:矢印は近代社会の縮図をイメージしました。ヨーロッパの産業革命以降の「近代」は、成長して他者に勝つための戦いを続ける社会です。この戦いはいろいろなところで起きています。例えば組織です。肥大化すると誰もが同じ行動をするわけにはいかないので、「□□さんは△△の役割」と分かれていきます。これが町であれば、100人の村だったらなんとなく過ごせるものが、1,000万人になると「このエリアは△△の場所」と役割分担されるのです。我々が関わる街や建築に対しても、こうした役割が強く色濃く出てきます。

猪熊:これは東京の用途地域です。用途地域とは、地域地区によって用途の混在を防ぐために、「赤いところは工場地帯」「緑は住宅地」のように、地域によって建設できる建物が決まっています。人々が良好な住環境に住めるよう、都市計画法のひとつとして定められたのですが、結果的に通勤に1時間かかるといった弊害を生んでしまいました。こうした地域は、上空から見るとひたすら同じものが並んでいて、よく考えると不思議な風景です。それでも工場での効率的な生産を優先した結果、国土全体が工場のようになり、生産のための仕組みに巻き込まれています。

猪熊:これは設計の教科書の「設計資料集成」ですね。

西澤:大学1年生の時に買わされる、あれですね!

猪熊:そうそう。建築系の学生は全員が買う教科書です。目次には「図書館」や「事務所」などと書いてあります。

西澤:用途別ですね。

猪熊:要は、「ここを見ればこの建物を量産できる!」という参考書です。全てが単機能で、オフィスならオフィス、図書館なら図書館の作り方しか書かれていない。ある意味切実なマニュアルですが、現代は場所が限られているので単機能ではなく複合化しないといけません。僕は「この設計資料集成、もう古くない?」とインパクトを与えたくて、アンチ資料集成として『シェア空間の設計手法』を作ったんです。そうしたら設計資料集成の制作チームから呼ばれて「一緒に作ってくれ」と(笑)。今は「複合化建築ワーキンググループ」に参加して、用途別の設計資料集成を複合化しようと試みています。「分割と分担」から「シェア」への移行ですね。

西澤:猪熊さんが定義する「シェア」とは、「統合」の意味でしょうか。

猪熊:うーん。「統合」だと完全にくっついてしまうので少し違います。

西澤:くっつくけど、融合はしないということでしょうか。

猪熊:そう。どのくらいくっついているか、その距離まで含めて、ずっと動的に微調整し続ける状態の社会かなと思っているんですよ。

西澤:おもしろい!

猪熊:「シェアリングエコノミー」のように制度や仕組みで解決することもあれば、僕らのように空間を正しくバージョンアップすることで、比較的苦労なく成り立つ場づくりをする人たちがいてもいいかなと思っています。

直談判でカタチにした「ひとへやの森」

成瀬:ここからは他では話したことがない、裏の話です。

西澤:待ってました!

成瀬:私と猪熊くんは東京大学の同級生でした。当時から仲が良くて、2人で参加したコンペだけはなぜか勝率が高かったんです。「成瀬、もっとよく考えろ!」といつも怒られていました。「眠いから、もうよくない?」と言ったらすごく怒られる構図は今でも続いているんですけど……。私が怠け者のせいで、彼が危機感をもって主導していくからか、いろいろな賞が取れて、「独立するときは一緒にやったらいいね」という流れになったんです。

西澤:お二人とも独立志向でしたか。まだギリギリ建築なら一本立ちしてなんぼと言われた世代ですもんね。

<ROOM101>画像提供:西川公朗

成瀬:これは、私が大学院時代に最初に手がけたリノベーションのプロジェクトです。留学生の女友達がいて、その子の彼氏の友達の家で、成り行きで引き受けた案件でした。まだ経験が浅く、竣工までに2年ほどかかったんです。ほかにも、並行して小さなコンペを繰り返しているうちに私は就職の機会を逃しました。そのころ、猪熊くんは「日本盲導犬センター」や「大多喜町役場」の建築で有名な千葉学さんの設計事務所で働かせてもらっていて、彼が独立するタイミングで事務所を立ち上げることになったんです。

\ 引き続き、成瀬さん、猪熊さん場のデザインに迫ります /
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「CREATORS FILE」をまとめて見るには、こちら(外部サイト)


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