コンビニで標的にされ危険な目にあった話

コンビニのアルバイトの昼休憩、店裏の狭い敷地で持参した惣菜パンを出そうとしたところ、何故か食パン一斤が出てきた。

しかも切られていないタイプの食パンであった。
食パンはあれど財布は無く、あまんじて口中の水分を奪われる事となった。
一人ベンチに腰掛け食パン一斤をむさぼるという非常に悲壮感漂う絵面が仕上がってしまった。
鳩が慰めるかのように寄ってきた。

一方レジの方では、私にフラストレーションを溜めていた同期のアルバイトが出勤し、苦情を申し立てる為私の姿を探していた。
レジの木村の裏切りにより、私の位置情報が明かされ同期は私のいる店裏へと足を運んだ。

しかし、そこには同期が予想していた昼食をとる私の姿はなく、代わりに大量の飛び交う鳩に揉まれている私の姿が映った。

最初は2羽の戦いであったが、気がつけば戦火は拡大し、いつしか 私は大きな戦いへと巻き込まれていた。
戦うもの、無闇やたらに飛ぶもの、混乱に乗じて私のパンを狙うものと鳩の個性を垣間見た。
しかし、徐々にパンを狙うものが増え始め、今や私とパンは鳩の新たな火種となっている

平和の象徴が反旗を翻した瞬間であった。
その日、私は鳥についばめられるパンくずの心情を知った。
近くにいるカラスでさえ、その惨状に引き我々と距離を置いている。
平和の象徴はもういない。
いるのは戦闘狂とパンに目の色を変えた鳥類である。

同期はただ立ち尽くしていた。
至らぬ私を絞める為にお越し頂いたところ申し訳ないが、私は既に鳩に絞められている。
同期の目的は鳩によって果たされた。

私は同期がいる事に気が付き、助けが来たと勘違いし歩みを寄せた。
しかし、鳩も共に移動した。
同期はコンビニへ踵を返し、開口一声に
「やーこさんがヤバい。鳥に襲われてる!」
と木村と店長に助けを求めたらしいが、実際のところ

「やーこさんがヤバい鳥に襲われてる!」

と一息で申した為、余程の怪鳥がいるのではないかと木村は怯えた。

私が鳩を踏まぬようコンビニの正面へ移動している最中、助けに来た木村と店長と鉢合わせた。
鳩の塊が移動して来ている様を見て木村は悲鳴をあげた。
その顔は竜巻を見た民衆の顔に似ていた。
私が近づくと木村と店長は逃げだした。
何の為に来たのだろうか。

しかし、広い所に出てしまえばこちらのものであり、私はコンビニの正面のスペースに到達すると同時に走り回り鳩を撒いた。

その惨劇を、いつの間にか客達が少し離れた所で眺めていた。
いつも横暴な態度のオヤジは、鳩から逃げま回る穴だらけの食パンと羽だらけの私を目にしてからというもの、心なしか態度に暖かみが出た。

同期は鳩に先を越され私を絞める機会を失ったが、余程恐ろしい光景であったのか敢えて絞め直そうと私に近づく事はなく、互いに棲み分けが成立した。
一周回りやはり平和の象徴であったのかもしれない。

今でも街中で鳥につつかれるパンくずを見ると、妙な親近感が湧く。

【追記】
まさか日本で鳥葬の擬似体験をする事になろうとは思わなかった。
私がこの世を旅立った際は、もしよろしければ火葬か土葬か放置でお願いしたいところである。
因みに私は今も鳩がいれば鳩に話しかける程鳩好きである。

そして、鳥などにパンやご飯など人の食べ物を与えると、鳥の体内で腐りやすく病に繋がるという。
鳥に限った話ではないが、人の食べ物はやはり動物達には与えぬ方が良い。

鳩にとっても人にとっても悲しい事態とならぬよう、可愛いと思う気持ちがあるがこそ、気をつけたい事である。


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