必見→#一人起業についての注意ポイント
「1人起業」を始める上で押さえておくべきポイント
上記を踏まえ、以下では、起業・独立を考える上で押さえておくべきポイントを整理する。
1. 徹底的に経費を削減する
1つ目は、「徹底的に経費を削減する」ということである。経営の基本は、売上を最大化し、経費を最小化することにある。経費の中でも、毎月かかる固定費には特に注意を払う必要がある。実際、オフィスを借りるとなると、敷金や礼金、保証金などのイニシャルコストがかかることに加えて、毎月の家賃や共益費も必要になる。それに、オフィスは一度契約したら簡単には解約できないことも多い。
そもそも、リモートワーク前提社会においては、「オフィスすら必要ない」と考える風潮もある。大企業の中でもオフィスをなくす方向を打ち出す企業が現れている。筆者自身、オフィス賃料は月額3万円に満たない。
変動費についても、できる限り抑えるべきだ。経営者の中にはまだ売上が上がっていないにも関わらず、ミッション・ビジョン・バリューの策定に必要以上にコストをかけたり、見た目の凝ったコーポレートサイトをつくろうとするケースが見られる。
もちろん、事業成長に寄与しているのであれば全く問題はないのだろうが、世界有数のコングロマリット企業である、ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイのコーポレートサイトが依然として非常に簡素なつくりになっているという事実は頭の片隅に置いておきたい。
2. 安易に社員を採用しない
2つ目は、「安易に社員を採用しない」ということである。「社員を増やせば売上が上がる」と思いがちだが、必ずしもそうとは限らない。採用にコストをかけ、育成に手間暇をかけ、十分な休暇を与えたところで、思っている以上に社員は簡単に離職してしまうものだ。
社員数が多くなればなるほど、人間関係のトラブルも指数関数的に増えていく。また、現行法では、正社員を解雇するには高いハードルが設けられているため、解雇を言い渡すのも決して簡単ではない。従業員の意思で自然に辞めるタイミングを待つパターンもあるが、思わぬトラブルが発生するリスクもある。
むしろ、今は社員を採用せずとも優秀なフリーランスと業務委託ベースで仕事を進めることができる時代である。筆者自身、フリーランスの方々と協力しながら事業活動を展開している。クラウドソーシングなどのサービスについても、必要に応じて活用することがある。
キラキラした経歴の持ち主を「非常に優秀である」と面接で判断して採用したものの、「大企業とスタートアップでは求められる動き方が異なるため、入社してみたらまったく機能しない」という話を知人の経営者から聞くことがある。
社員の採用を考える前に、「雇わない経営」で事業成長を図る選択肢が存在することについて認識しておきたい。
3. 生半可な気持ちで外部資金調達をしない
3つ目は、「生半可な気持ちで外部資金調達をしない」ということである。短期間での上場を狙う場合や巨額の資金調達を実施しなければ競合との競争に破れてしまうといった特殊な状況下においては、エクイティファイナンスは非常に有効な手段となり得る。しかし、それは起業全般を考える上では極めて例外的な状況でもある。
ブートストラッピング(Bootstrapping:自分の靴ひもを自分自身で締め上げることから転じて、創業者が自己資本で起業することを意味する)という言葉があるように、できるだけ株式を放出しない方針を取るべきだという議論がある。仮に、株式を放出する場合でも、何らかのサービスやプロダクトをつくって、ユーザーが集まり、売上が立っている状態まで自己資本で粘った上で資金調達を行うことが望ましいとされる。
日本の著名投資家である、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの高宮慎一氏も過去の「なんとなくでVCから資金調達は絶対にしちゃダメ!」というタイトルの記事でそのように述べている。
お金は稼ぐよりも上手に使う方がはるかに難しい。厳しい話だが、資金調達したところで、「1万円を100万円にできない人間が何をレバレッジできるというのか」という意見もある。外部資本に過度に依存して、何回も「(投資の)おかわり」を求めると、結果として経営の難易度が上がってしまい、複雑性の海に溺れることにもなりかねない。
いわゆる“スタートアップコミュニティ”ではあまり知られていないが、スマホゲームを運営する「coly(コリー)」をはじめとして、外部資本ゼロで上場を果たすテック企業も少なくない。言うまでもなく、資金調達はあくまで手段である。手段の目的化に陥っていないかについては常に自問自答を繰り返す必要があるだろう。
「ハイリスク・ハイリターンな起業」だけではない
今回は「1人起業」を始める上で押さえておくべきポイントについて述べてきた。改めて強調しておきたいのは、筆者はスタートアップという起業形態を全く否定していないということである。
むしろ、繰り返しになるが、我が国の産業育成の文脈においてスタートアップが極めて重要な役割を担っていることは間違いない。海外に比べると、国内のスタートアップエコシステムはまだまだ厚みが不足しており、イノベーション創出に向けた素地を作るべく、スタートアップの育成を図っていくことは極めて重要な取り組みだ。
しかし、当然のことながら、スタートアップが起業の全てではないし、誰もがイノベーティブなビジネスアイデアを着想し、形にできるわけではない。それに、スタートアップを起業する際に求められるリスクテイクは決して万人向けとは言えないだろう。
多くの人々が起業に対して「ハイリスク・ハイリターン」という印象を持つ傾向にある。「成功すれば巨万の富が手に入るが、失敗すると多額の借金を抱えて悲惨な人生を送ることになる」という両極端な印象が世の中に浸透していると感じる機会が少なくない。
しかし実際には、最小限の費用で自宅で起業し、充実した毎日を送っている「1人起業家」が多数存在していることもまた事実である。我が国における起業を盛り上げていくためにも、「ハイリスク・ハイリターンな起業」ばかりでなく、安定・着実なスモールビジネスの魅力も広く伝えていくべきだ。不確実性の高い危機の時代においては、その必要性はますます高まっていくだろう。
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