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雨上がりの橋を

世界中の磁石が 不規則に 動いている 出会ったふたりの 磁力が 強まり弱まりをして その日を迎えたとき 磁石が壊れてしまった 雨の日に 虹のアーチがかかる 悲しみの連続で 色彩は 赤も青も 黒くなって 私は笑顔で 泣いています ただ 今日の日は 天気 その事実を握りしめて 散歩でもしましょうか 道端の石ころも 通りすがりの犬も あの子も この子も なんだか おもしろいでしょう そう 思えば全部 おもしろいでしょう 人生はつらく生きるために 与えられていないから

    • 夜会

      夜会 階段を 君が 登っていく 灯のついた 家が見える さっきまで 酒を飲んだ 名残り 私は 見つめている 見るよりも 強く 親しく 君は 一歩 一歩登る 君が振り返る 西日が 頰に当たる 君が大きく 手を振ると 波の音が聞こえる 雨が降る 霧雨の中で二重に 傘を差す ふたりそこにいる 階段を登る 人が 犬が 猫が たまに 涙が出る 手を翳す 夏の光 出会いから 砂が落ちて 乾いた 窓辺 うなだれて カーテンを閉める 家よりも 外よりも

      • 最後の叫び

        最後の叫び 春には 皆とうたを歌い 夏には 波のうねりを 聴いた 秋には 人を眺めて 冬には 雪化粧をした ひとり またひとり 仲間が旅立っていき 樹木の親と 仲間の思い出ばなしをした 私の番が来る予感がした日 寒風が吹き 人は 私を批評した 全体を一部に 一部を全体に 誤解され 散っていく葉の 落下する前の 木の全体が宿るときは 最後の叫び

        • 街灯

          街灯 快晴の日に さよならをした 昏い一日の瞼に ハンカチを当てる 小さな子供のように 街灯が私を静かにあたためた

        雨上がりの橋を

          瞳のコード

          瞳のコード 少年の目が 錆びぬよう せかいは 豊かな場所となれ 少女の目が 真っ直ぐに 恋できるよう 戦争を停止させよ 私たちは いつだって 生活者であるように 夢見るせかいの 旅人である 見たくない景色を 目に写し 輝いていた瞳の 灯火よ 消えるな いつだって 私たちは 少年や 少女の続き そのせかいでたったふたつの目が かなしい水で満たされぬよう 親は 大人は しあわせを小さな目に コードする

          瞳のコード

          雪が降り積もるまで

          あなたが 一番きれいだった日 私はそこに不在だった たしか雪が詩を編むような日だった あなたが 一番きれいだった時 私はつなぐ手を探しあぐねて きれいでない物語を紡いでいた あなたが 一番きれいだった時 祖母も母も 同じ道を通り きれいになることで 心が弾むような 雪の降りつもる 楽しみの前の時間のような あなたが 一番きれいだった日 私はいなかった あなたは違う男に抱かれて 幸せになれる あなたが 一番きれいだった日 僕はマグリッドの 絵画にうつつを抜

          雪が降り積もるまで

          秘密の話

          秘密の話を あなたにします あなたが 寝れない深夜に ずっと 秘密の話を あなたにします あなたが 苦しい昼間に そっと 秘密の話を あなたにします あなたが 不安な全ての 朝に 秘密の話を あなたにします あなたが 寂しい夕方 隣で 秘密の話を あなたにします 私のこころは 傷だらけ あなたでしょも 時には 傷ついて つらい日なども あるのでしょ

          秘密の話

          夜はあたたかくして

          夜はあたたかくして寝なさい 夜にあなたを責めるのは あなただけだから 夜はあたたかくして寝なさい 不安や心配の服を脱いで 毛布と布団を羽織って寝なさい あなたが泣いているときに笑っている人からは 離れなさい 夜はあたたかくして寝なさい 忘れないでください 心はそのままでいいし 顔だってそのままでいい 夜はあたたかくして寝なさい 好きになれない人を好きになる必要はなく 好きになれる人を好きになればいい 夜はあたたかくして寝なさい あなたが大事にすれば あなたは大事にさ

          夜はあたたかくして

          喫茶店でぼくは 詩を書いている さっき通り過ぎて行った女は 何人目の女だっただろう ぼくはまた  駅で待ちぼうけすることになる 女は遠い 時間どおりやってくるとも 限らない 喫茶店の アイスティーの氷が溶ける 上手くいかない 全ての物事を置き去りにして ぼくは 女という霞を待っている

          紫陽花

          紫陽花の速度で 人生が進んでいく 6月の 透明な水滴の中に 忽然とあらわれた 球形の華やぎに 重ねあわせる 紫陽花の温度で 肌が火照っている 雨粒の中 傘一つ 人間ふたりの しあわせな 空間 紫陽花の表情で 梅雨が終わっていく 雨足は強まり 弱まりしつつ 地面で煩悶し 忘れがたみのような 水たまりを残す 紫陽花の花が 今年も咲いている 色とりどりの花が 一瞬の生を歌うとき 枯れた花弁が 夏に落下する 紫陽花の花が 去っていく雲間に 夢中で女を 追いかけた 掛

          紫陽花

          寂寥

          空が破れて 大男から 涙が零れ落ちた 空高く 突き上がる鉄塔の 螺旋階段を登って 風が吹く  匂いがする 日暮れの囁き 鉄塔の窓辺に 老婆が 鼻をくっつけている 息子が 旅立っていった空に 手紙を送りたい 空間に シュプールに 描き空と会話する 一層の涙を  人は迷惑そうにして 足早に家路へ 老婆の窓は 永久に外と 会話する

          新しい旅

          悲しみの洋服を捨て 新しい旅に出るの プーケットの 深いあおいろを 肌に染み込ませ 九份の猥雑な雑踏で skirtをひらめかせる 爆発音を聴くと 日常が思い出される 戦地 目はフィレンツェを向いて 耳はモンサンミシェルの教会の囁き ギニアの密林で 顔にひとすじの傷痕 帽子を熱海の海岸線で飛ばされて ポルトの港で風の宅配便 楽しくなることばかり 洋上の船で 記号的な着物で赤と白に染まる 旅はまだ続く 習作のような私の人生 #キナリ杯

          新しい旅

          淡々と1日が 終わっていく 病室の窓からは 凪の海が見える 夕暮れの砂浜に 麦わら帽子の女 あの向こうにも あの向こうにも 島が続いている 女の視線の先 岬には 青い家がある 気の良い住人が拵えた 鐘は正午になり響く 療養で散歩をし 鐘を鳴らした日 私は少しだけ 変わった気がした 突然に凪の中に 一陣の風が吹いて 麦わら帽子が 風に飛ばされた 岬の方まで 高らかと舞う帽子を 女と私は 目で追いかけて 同じものを 見ていた ふいに 帽子が落下して

          草原

          草原 夢の中で 草原の列車に 乗った 時刻表 12時丁度に 駅を発つ列車に   乗客は 疎らに居て 皆俯いていた   15時には 分岐点が現れて 17時に止まった 窓を開けると 草原が続いている いつだってそこに 19時には 夜の風にあたり 文庫本を開く 21時には 大きな駅で止まる 一斉に人が降りる 24時 ひとり残される 草原の海の中を 窓を開けると 草原が続いている いつだってそこに 不安な日に 夢の中で 旅に出る 駅があり 列車がくる 行きたい場所

          部屋

          がらんどうの家で 本を読んでいる だんだんと 空の色彩が 変わっていく 化粧をするように 家には 老いぼれた猫がいる 自分を忘れたかのように たまに欠伸をする 8年前の 新聞が部屋の隅にある 月日が部屋に散らかっている グラデーションのように アルコールの入った缶に タバコの吸い殻を捨てる 嗜癖の二重奏 自分を駄目にする 焦燥と喧騒の街の 片隅で つばめが 巣を作る 家の 軒先に

          休日

          休日 河川敷に 親子が歩いている 小さな歩幅で 小さなマスクをつけて 手を引いて どこまでも歩く 風の通り道 可視化できる質感 犬にボールを投げる 白髪の老人 ボールの軌道 鮮やかな弧を描いた シロツメクサ咲く 土手の斜面 白い絨毯のよう 日を浴びて揺れる ランニングをする 若い人たち いつまでも いつまでも 走っていける 声が響いている 白鷺が飛んでいる 飛ばない鷺もいる 風が強く吹く 草が波立っている 快晴の昼間の 何不自由ない休日 思い出し