捨て犬

母「チャッピー、今までありがとうね」

子「なんでチャッピーはもう飼えないの？」

母「チャッピーはお隣さんに噛みついたり、夜にうるさく吠えたりするからよ。悪いことしちゃったからなのよ。」

子「そっかあ…」

犬「あのー。」

子「チャッピーがしゃべった！」

母「えっ！」

犬「あ、僕非常時だけ喋れるんですよ。

まあそれはいいとして、今日はお母さん、あなたにお話したいことがあるんです。

とはいっても、別になんで僕を捨てるんだ！みたいな説教とか命乞いではないんですけどね。

僕のこと捨てるのは本当に構わないんですよ。
腐っても獣なんで。
今捨てられても生きていけるくらいの本能は持ってるんで。

お母さんの気持ちもわかりますしね。

当時は子犬だったからかわいくてつい…みたいな。

だけど今は人に迷惑をかけるからダメ…みたいなね。

まあ、僕はあなたほど知能ないからわからないですけど、色々あるんでしょうね。

すいません。結局何が言いたいんだって感じですよね。

じゃあ単刀直入に言いますけど、

そこにいる子供はどうなんですか？

その子も悪いことしたら捨てるんですか？

その子がお隣さん刺したりしても捨てるんですか？

いや、うちの子はそんなことしませんって、そんなのわからないでしょ。

じゃあ世の中の犯罪者はみんな犯罪者になるようなサイコパス英才教育受けて育ったんですか？

違いますよね？
どんだけ全うに育てられても罪を犯すことがあるのが人間ですよね？
子供が将来どんな奴になるかなんて運でしょ、運。

だから、あなたの子供が人殺す可能性もみんなと同じようにあります。僕がお隣さんに噛みついたみたいに。

自分の子供が自分の思い通りに育つと思ったら大間違いですよ。

え？もし子供が罪を犯しても捨てることはしない？

そうですよね。

それでこそ人間の親だと思います。

いやだから、じゃあ何で犬は捨てるんだっていう話じゃないですよ。

そこらへんの違いは薄々感づいてたので。大丈夫です。

人間の子育てって、犬の子育てとは違って生んでちょっと世話したら終わりじゃないんですよね？

だからこそ、子供が何をしようと自分だけは無償の愛を注ぎ続けるっていう覚悟が必要になってくると思います。

言い換えれば、生んだからには、これからの人生は全てその子に捧げるという覚悟です。
要するに、自分のための人生との決別ですよね。

でも、たまにそんな覚悟もないのになんとなくで子供が欲しいとか言ったり、本当に子供を作っちゃう人間がいるじゃないですか。

そういう人たちは、こっち側の人ですよね。
こっちって、獣側の。
あんまり後先考えずに交尾するみたいな。
まあ『こっち側』ったって僕は去勢されてるんですけど（笑）

なんか、命を奪うことはもちろん残酷ですけど、そういう犬みたいな親の元に人間の命を宿すことも残酷だなーって思います。

とにかく、あなたがこっち側の人間じゃなくてよかったです。

で、それを踏まえて聞きたいんですけど…

どうしてあなたはそこまでして子育てをしているんですか？

自分が老いた時に介護してもらえるから？
だったらヘルパー雇った方が安く済んでいいですよね。

かわいいから？癒されるから？成長を見るのが楽しいから？
ならそれこそ犬飼ったほうが安く済んでいいですよね。
育て方間違えても、人間の子供よりは簡単に捨てられるし。僕みたいに(笑)

僕犬だからよくわからないんですけど、人間界って子供育てるのすごい大変なんですよね。

さっきも言いましたけど親子の関係は何があっても一生続いていくし、めちゃめちゃお金がかかるんですよね。

半端な気持ちでこなせることじゃないと思います。

僕毎日この家族のこと見てましたけど、ご両親とも、とても大変そうですよね。

共働きで、帰ったらすぐ晩御飯作って、寝て起きたらすぐ弁当作って子供保育園に送って。
時にその役割分担のことで夫婦喧嘩して。

お二人とももう、自分の時間なんか１秒もないんじゃないですか？

正直、僕が人間だったら自分の人生投げ打ってまで子供作ろうなんて思わないです。
大変だし、自分の時間もとれないし、かといって自分の子が全うな人間に育つ保証もないし。

そしてそんなデメリットを凌駕するほどの、人間が子供を作るメリットについて、考えれば考えるほどわからなくなります。

親は子を選べないし、子も親を選べない。
そんな理不尽なギャンブルに人生を懸けることが、人間にとっては恐ろしくないことなんでしょうか？

でも僕には人間みたいな知能がないから、説明されても理解できないんだろうなあ…。

すみません。最後だからつい長々と話してしまいました。
何年間もこの家族を見てきて、ずっと気になっていたんです。

とにかく、僕はこれからこの山の中で生きていくんで。もう大丈夫ですよ。

なんだかんだで、今までありがとうございました。」

ナレーション「…と、ここでようやくネタバラシ！」

スタッフ「すいませーん！モニタリングでしたー！」

母「なーんだ、モニタリングかあ！」

子「これで安心して捨てられるね！ママ！」

犬「ワン！」