「普段はその場に馴染んで、ふと気づいたときに存在感がある灰皿」をスタイリングする
スタイリングとは、あるべき姿に大きさや色合い、形を整えること。
こんにちは。86400"の山本です。
この記事では、僕たちがデザインしたものについて振り返って記しています。
今回は銅・真鍮製の灰皿「Ashtray」についてのお話です。
目指したスタイリングは以下の通り。
手探りの商品開発記。
それでは、はじまりはじまりー。
きっかけ
きっかけは、僕たちにとってはじめての見本市。
展示していた「ケーキのお皿」を見ながら、たとえばこういう形の灰皿ってお願いできますか?と尋ねられたところから始まります。
問いの主は、JT(日本たばこ産業株式会社)が運営する会員向けオンラインサービス「CLUB JT」を担当されている方。
僕はタバコを吸わないのでそのサービスを知らなかったのですが、同僚はすぐにピンときた様子。普段から利用しているサービスだったということもさることながら、喫煙者同士特有の空気感とでも言いましょうか、すぐに打ち解けた様子で盛り上がっていました。
僕はそんな2人を尻目に、たしかに側面の切り欠きはタバコ休めっぽいよなぁと思っていました。
step1. ヒアリング
その後すぐにご連絡をいただき、早速詳しいお話を伺うことに。
ざっくり言うと、オリジナル灰皿の製作を依頼したいとのこと。
CLUB JTでは“Japan Crafts”という特集記事とオリジナル灰皿のプレゼントキャンペーンを行なっていて、その第10弾としての企画です。
僕たちがこれまで主に金属製の商品を開発してきたことや、デザイナーである僕たちと荒川区の職人さんと協働して活動を行なっていることを伝え、これらを前提に製作を進めることに。
そこで、前述の「ケーキのお皿」。
金属製で、ヘラ絞り※ という職人技、たばこ休めとしての切り欠き。
なるほど、まさに。
ということで、「ケーキのお皿」をベースに検討していくことにしました。
つまり、今回の開発は何かを解決するというゼロからの“デザイン”というより、既にあるモチーフに対して使いやすさや使いたくなる部分を確認しながら大きさや色合い、形を整える“スタイリング”が求められます。
つまり、使う人に対する理解がとても重要な場面です。
そうなると、ここからは愛煙家である同僚の領分!
非喫煙者の僕は横からチャチャを入れる人になってきたので、せめて言葉にする係としてこの記事を書いているという次第です。
※ ヘラ絞り:回転する型に丸い金属板を沿わせ、ヘラをあてて側面を立ち上げていく職人技)
step2. デザイン提案
あるべき姿って?
まずは使用する場面。
金属(真鍮や銅)製ということで、重さがあって、傷もついてしまいがちなので、携行には不向き。
普段はテーブルやデスク、ときには縁側のような気持ちいい場所。そんなシチュエーションをイメージします。
また、僕たちの他の商品同様、手触りの良さと経年変化は大事にしたいと思いました。
テーブルの上にあって悪目立ちせず、その場に馴染む。
使うときに手触りの良さを確かめつつ、改めてその姿を眺める。
さらに、使い込んでいくうちに経年変化していく。
「普段はその場に馴染んで、ふと気づいたときに存在感がある灰皿」
手を動かしながら、そんな姿を目指したいということがわかってきました。
影のようなサラ
タバコを受けるサラは、「ケーキのお皿」と同様に銅製。
(そもそも金属製ということでたばこの熱がテーブルに伝わらないか心配しましたが、実験してみると気にしなくていいことがわかりました。)
ヘラ絞りにより、側面にくびれを作ります。
サラを持つとき、くびれが指に引っ掛かって持ちやすく、触り心地もGOOD。
そこにタバコ休めとして、切り欠きを設けました。
また、タバコの灰や焼き付けで銅が黒くなってしまうのは、あまり美しい変化ではないかも。
ということで、銅にいぶし加工を行ない、あらかじめマットな黒とすることに。木を隠すなら森の中的なやつです。
月のようなフタ
机の上で吸い殻が見えている状態ってどうなんだろう。
においも気になる。
あと、風で灰が飛んでしまうのはイヤだな。
ということで、フタ。
サラ同様、こちらにもヘラ絞りを採用して、丸い金属板の端部を巻き込みました。
表情も柔らかくなって、触ったときの指の当たりも優しくなりました。
材料は真鍮で、満月みたい。
フタはいぶし加工を行わず真鍮素材そのまま。
ランダムヘアラインでマットな印象に磨きました。
真鍮は時間と共に鈍色に変色していくので、黒いサラとの相性もどんどん良くなっていくはずです。
フタとサラ、2つを重ねるとこんな感じ。
くびれに指をかけたときのフィット感、気持ちよさをぜひ体験 してもらいたいです。
step3. サンプル製作〜納品
ということで、最終的に出来上がったのがこちら。
少し使い込んだサンプルを撮影してみました。
ケーキのお皿から出発して、試行錯誤しながら辿り着いた灰皿。
目指す姿を形にしていくスタイリング。
見出した問題を解決していくデザイン。
僕たちはデザイナー2人のチームですが、
スタイリングとデザイン、それぞれ得意な分野を活かしながら1つの商品を一緒になって開発しています。
この合わせ技のバランスは開発する商品ごとに異なるので、落とし所を見つけるのは毎回楽しみでもあり、まだまだ課題としている部分でもあります。
なお、その後取材いただき、記事はすでにJTのサイトに掲載されています。
製作した灰皿や、僕たちの活動について、ぜひご覧ください。
ちなみに、灰皿のプレゼントキャンペーン、応募締め切りは3/27(2022)とのこと。
閲覧・応募には会員登録が必要。
20歳以上の喫煙者の方で、もしご興味があればぜひ。
<CLUB JTの記事はこちらから>
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