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「歯医者さんがご当地グッズ!?」をデザインする

この記事では、僕たち86400"(はちろくよん)がデザインしたものについて、どんな問題に、どう応えたのかを振り返って記しています。

今回は「古(いにしえ)の都の鏡」についてのお話です。

一喜一憂しながら進む手探りの商品開発記。
それでは、はじまりはじまりー。




step1. ヒアリング

僕たちの活動をSNSでご覧になって、興味をもっていただいた方が今回のクライアント。共通の知人を介してご連絡いただきました。

早速オンラインにて、ヒアリングスタート。
いつもの通り、2時間程度の雑談形式で行いました。
お聞きした内容はざっくりとこんな感じです。

・依頼の動機
・お仕事の内容
・趣味や休日の過ごし方
・どんなものを作りたいか、もしくはどんなことを実現したいか

クライアントは歯科医院を営む歯医者さん。
生まれ故郷の三重県名張市にクリニック(名張かめい歯科・矯正歯科)を構え、高齢化が進む地域にあって、子供の治療や矯正、食育に力を入れてきました。
そうするうち、お母さん方の希望もあって始まったホワイトニングなどの美容事業。美容事業については、奈良県橿原市にクリニック(大和八木 かめい歯科・矯正歯科)を新設して、さらに展開していく予定とのこと。

また歯ブラシや歯磨き粉、化粧水などのオリジナル商品を開発したり、書籍を出版したりと、いわゆる歯医者さんの枠を超えて活動されています。
「面白そう」というアンテナが立ったら即行動がモットーということで、今回僕たちにご相談いただいた、というわけです。


「お客さんの声に応えるように、できることを増やしていったのが今の状況」
「いろんなことにチャレンジできるのは、人に恵まれているから」
「他業種と一緒に活動していく中で、受ける刺激がなにより楽しい」
これらの言葉は特に印象的でした。
僕たちも何か刺激になれるよう、頑張らねば。

作りたいものとしては、「直感的に面白い!と思うもの」「歯医者なのにこんなモノがある!というもの」と、なかなか楽しそうなお題。完成したら準備中のECサイトで販売したいというお考えです。

こちらからは、熟練の金属加工職人によるヘラ絞りを得意としていることや、金属が経年変化しながら長く使われることを大切にしていることをお伝えしました。
また、以下のような過去の事例を紹介しながら、プロジェクトにかかる時間や料金、今後の流れについてご説明しました。


〈case1. 個人の趣味を楽しむグッズ〉

〈case2. プレゼントキャンペーンのグッズ〉




step2. 企画提案

さて、ヒアリングを元に案出し。
「歯医者なのにこんなモノがある!というもの」とは言っても、歯科・美容と全く関係のないものだと、ECサイト全体で見たときにお客さんが混乱してしまう…
ということで、「歯科・美容と関係はあるけど、“普通”こんなのは扱ってないよね」を落とし所に、進めることに。

加えて、もう1つの懸念。
それは、歯医者さんのような衛生的な場面と、経年変化って同居していいの?ということ。

真鍮や銅の経年変化は決して不衛生なものではないものの、水に濡れれば水跡が残ります。これを不衛生と感じてしまう方も少なくはないはず…
ということで、例えば歯ブラシ立てのようなものは今回提案から除きました。

まずは歯科・美容関連グッズや、歯科・美容の場面にまつわる体験談などのリサーチから始めていきます。
そして、これらを形にするにはどんな企画がありうるか。クライアントが真に何を望んでいるのか。そんなことを考えながら提案をまとめていきました。
ここでそのいくつかをご紹介。


案1) 歯医者さんのお守り

「痛かったら左手を挙げてください」と言われてもなかなか挙げることが出来ず、手をぎゅっと握りしめて我慢する。多くの方に刻まれている歯医者さんあるあるです。こんな時に、治療の恐怖を紛らわせるような、握っていることで安心できる“お守り”をつくろうという企画です。

お守りは金属でできていて、ツルツルした触り心地がいいものか、はたまたトゲトゲした形でマッサージ的な刺激のあるものか。神社にあるお守りの形を金属で再現してもいいかも…色々とイメージが膨らみます。


案2) 歯抜けのご褒美コイン

子供の頃、散髪屋さんに行くと、帰りがけに「よく頑張ったね」とお菓子をくれた記憶が。ちょっとしたご褒美はやっぱり嬉しいものです。
また、欧米では抜けた乳歯を枕元に置いて寝ると、夜中のうちに妖精が来てコイン(20〜50セント)と交換してくれるというお話もあるそう。

ということで、子供が歯科で抜歯した時にご褒美としてもらえるコインをつくろうという企画です。
コインはそのまま貯めてもよし、5枚で〇〇と交換、みたいな仕組みも楽しそうです。〇〇はただのおもちゃではなく、学ぶ要素を組み込むことで、子供の治療・食育に力を入れている医院としてのあり方を表現できるかもしれません。


案3) 古の都の鏡

こちらはちょっと別の角度から。
奈良県橿原市に新設する美容クリニックを記念して、“ご当地グッズ”をつくろうという企画です。

奈良県橿原市は県立考古学研究所やたくさんの古墳群がある歴史的なまち。それにちなんで、出土する古鏡をモチーフに、鏡を製作するというものです。
美容グッズである鏡がECサイトにあっても違和感はないですが、“歯医者さんがご当地グッズ?”という感覚はちょっと面白いなと思いました。


こうして、初回ヒアリングから約1ヶ月、2回目のミーティングに臨みました。
上記を含む企画をいくつかクライアントに提案したところ、「直感的に、案1と案3、どっちも進めたい」とのご返事。
(案2はすでに取り組んでいて、子供は治療後にガチャガチャを回せるとのこと。さすがです。)

まさか2つ採用とは思ってもみませんでした、びっくり。
ということで、ここからは企画を形にしていく作業に移ります。




step3. デザイン提案

2案採用いただきましたが、「歯医者さんのお守り」と「古の都の鏡」の2つ同時は双方にとってなかなかの負担になってしまいます。
納期や予算のこともあるので、今回は鏡の方を進めることになりました。

古鏡といえば、博物館や教科書でもお馴染みの、円形で、裏面には同心円の模様が描かれているアレです。
本来、古鏡は溶かした金属を使い、鋳物として成形しますが、それではあまりに重くなってしまう。今回は真鍮板を使い、ヘラ絞りで成形する計画です。

古鏡をそのまま再現しても、レプリカ販売はネタにしかならない。
ということで、古鏡はあくまでモチーフとして、ちゃんと使えるものをデザインしていきます。

そして、デザインしたものはこちら。

直径80mmで、歯など顔の一部を見るのにちょうどいいサイズ感の手鏡です。

裏面は、古鏡をモチーフにヘラ絞りで同心円を描き、現代的な手鏡としてデザインしました。

最終的には、フェイスミラーくらいの大きいサイズのものを加え、2案をクライアントに提案。小さい方が使用するシーンが想像しやすいということで、上記の手鏡のサンプルを製作することになりました。




step4. サンプル製作

まず、職人さんに樹脂型を作ってもらいました。
樹脂型は木型より高価ですが、硬くて今回のようなくっきりと模様を出したい場合に向いています。

この型に、円形の金属板を当て、「ヘラ」と呼ばれる金属の棒で押して成形し、同心円模様が完成。

横から見るとこんな感じ。中央部分のぷっくりが特徴です。

また、1つは医院の受付に飾りたいということで、クリニックのロゴを入れていきます。
古鏡感を出すために、ロゴはレーザーのようなくっきりしたものではなく、エッチングという金属を溶かして浮き出す作り方を採用。溶かしてつくった分、ロゴ端部が揺らいでアンティーク調の表現になり、古鏡の雰囲気と相性ピッタリ。

こちらのサンプルをクライアントにお送りし、手にとって確認してもらいました。
ロゴに加えて文字も入れたいというご要望がありましたが、鏡の部分についてはこのままOKをいただき、いよいよ本製作に。




step5. 本製作

職人さんに本製造を依頼。
仕上げとして、あがってきたものを研磨していきます。
一つずつ手で磨くことで、細かくランダムな“傷”が重なり、高級感のあるマットな仕上がりに。


金属部分が完成したら、鏡を取り付けていきます。

ロゴ入りの1個についても本製作を開始。
溶液で金属表面を溶かすエッチング加工を施していきます。あらかじめマスキングしておいた文字部分だけが溶けずに残ることで、ロゴが浮き出る表現です。

裏面はヘラ絞りで同心円模様があり、この3次元曲面にマスキングを施すのはかなり難しい…ただどうしても入れたいという強いご要望だったので、調整を何度も繰り返しながら加工していきました。
仕上がりは、ぜひクリニックでご覧ください!




step6. 納品

商品本体に加えて、付属品も準備。

貼り箱に、コラボレートロゴを入れたロウ引き帯で巻いて完成。
お手入れの方法などを記載した説明書も同梱します。


追加でご依頼いただいたECサイト用のテキストや写真も合わせて納品し、これにてプロジェクトは終了です。
初回ヒアリングからここまで約7ヶ月
ゼロからのスタートということで、どうしても時間がかかりますね。

今回は、新たなチャレンジを続ける歯医者さんに、僕たちは“ご当地グッズをつくる”という提案をしました。
ものづくりで拓く、新しい歯医者さん。この試みが何か刺激になって、また新たなチャレンジに繋がるのであれば嬉しいなと思います。




使うほどに古鏡へと育つ

手鏡には変色防止加工を施していません。そのため、時間が経つと黒く変色したり、指紋跡が残ったりします。これを重ねることでアンティークのような深い味わいが出てきます。

写真左は新品のもので、右は経年変化しつつあるもの。

使うほどに古鏡へ。
デザインプロジェクトは終了しましたが、手鏡が古鏡のように育つ物語はこれから始まります。




オンラインショップ、ご覧ください

古の都の鏡はSAREBE Online Shopにて販売しています。
(以下の画像をクリックしてください。)

https://sarebe.online/products/sarebe_mirror/



企画・デザイン・製造

86400"(はちろくよん)


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