【日本株】神戸物産(3038) - 業務スーパーは”食のユニクロ”!
先日、久しぶりに「業務スーパー」に行ったのですが、店内はかなり混雑していて、「えっ、これ流行っている?」「お客さん、すごく増えている!」と感じるレベルでした。
それで、業務スーパーの直近の業績について少し調べてみたのですが、そのあたりのことについて書いてみたいと思います。
ポイントとしては、
業務スーパーが大きく業績を伸ばしてきた背景は、日本の構造的な賃金の下落
そして、その構造は変わりそうにない。むしろ、足元の物価高が消費者の生活防衛意識をさらに強化し、その受け皿としての業務スーパーの存在価値を上げている
よって、業務スーパーは今後も業績を伸ばしそうだ
しかし、株価のバリュエーションが高いので、これまでのようなスーパー・パフォーマンスは望めないかもしれない。それでも、そこそこのパフォーマンスにはなるかもしれない(=ここは個人的な意見ですので、ご注意ください)
と、こんな内容になっています。
まず、どんな会社なのか?
「業務スーパー」は、兵庫県加古川市に本社を置く株式会社神戸物産(3038)という会社が運営する食品スーパーです。
名前の通り飲食店などの業務用ユーザーをターゲットに、2000年にスタートした食品スーパーで、商品が段ボール箱のまま雑多と置かれていたりする食品スーパーです。
その代わり、「安さ」を圧倒的なウリにしており、その「安さ」によって多くの一般消費者の支持を集め、今では一般のお客様が売上げのほとんどを占めるまでになっています。
2023年10月末時点で、店舗数は1,048店舗(直営4店、FC1,044店)。
終わった期(22/10期)で、売上高は 4,068億円、営業利益 278億円、当期利益 208億円、ROE 24.3%です。
同社はこの「業務スーパー」をFC形式によって全国展開しており、同社自体はその本部機能を担っています。具体的には、業務スーパーのブランドや運営ノウハウの提供、商品の企画・開発・調達、販売管理システムの提供などを行っています。
同社の売上げは、①商品の(FC店舗への)販売と、②FC店舗からのロイヤリティー(FC店舗への商品販売額の1%)の2つから構成されています。
そして、同社の最大の特長は「製販一体体制」という事業のやり方です。これは、店舗で販売する商品の多くを国内の自社工場(25工場)や海外の協力工場(350工場)で生産し、プライベート・ブランド(PB)として業務スーパーで販売するという方法です。例えるなら、「ユニクロの食品スーパー版」といった感じです。
それから、同社は業務スーパー事業のほかに「外食・中食事業」と「エコ再生エネルギー事業(太陽光発電)」も行っていますが、売上げは2つあわせて全体の2.6%ですので、(現状の)事業のほぼすべてが「業務スーパー」といった感じです。
過去10年間の業績は?
同社の過去10年間の売上げ、営業利益、当期利益、ROEの推移を下記します。
過去10年間で、売上げは(平均すると)年率10.1%の伸び。そして、その期間に営業利益は14.1倍に。当期利益は7.1倍になっています。
また、ROEは驚異の20%台を維持しています。
上記の業績にあわせて株価も大きく上昇しており、過去10年間で56倍になっています!
今後の株価は、どうなりそうか?
(前述のように)同社の株価は過去10年間で56倍になっています。そして、現在の時価総額は1兆1,395億円あります。PERは 43.1倍で、PBRは 8.6倍です(なかなかいいバリュエーションです)。
ここからさらに投資をしてもいいのか? それとも、もういっぱいいっぱいなのか? が気になるところです。
どう考えたらいいのでしょうか?
① そもそも、食品スーパーの市場規模はどれくらいあるのか?
食品スーパーの市場規模は、(諸説あるのですが)15~19兆円くらいのようです。
一応、確かめ算をしておきます。
総務省の家計調査の中に月々の「消費支出」という欄があるのですが、その中に「食品」という項目があります。2023年10月の「食品」向けの支出額は87,387円でした(2人以上の世帯の場合)。
シンプルな概算ですが、この数字を年換算して、世帯数を掛ければ大凡の市場規模が推計できそうです(2人以上の世帯の数は 3,491万世帯)。
87,387円 × 12か月 × 3,491万世帯 = 36.6兆円
一方、一人世帯ですが(簡易的な概算として)上記の月額支出 87,387円を2人以上の世帯の平均人員(3.03人)で割って、1人あたりの食品支出額を出します。すると、28,841円。これを年換算して、1人世帯の数(1,841万世帯)を掛けると、約6.3兆円となります。
36.6兆円 + 6.3兆円 = 42.9兆円
食品スーパー以外の業態も含めた「すべての食品市場」といった感じでしょうか。
一方、全国スーパーマーケット協会(会員数1,335社)が発表している統計によると、会員企業の年間売上高の合計額は約12兆円となっています。
(食品スーパー以外の売上げも含まれてしまいますが)セブン&アイとイオンの売上げを合計すると14兆円になるので、食品スーパーの市場規模は12兆円よりも大きそうな気がします・・・。
かなりゆるい計算ですが、最低でも12兆円あり、最大で43兆円あるという感じでしょうか。
すると、業務スーパーの前期の売上げ4,068億円は、市場規模が12兆円と仮定すると3.4%。市場規模19兆円と仮定すると、2.1%になります。
他社のシェアを奪っていくのは並大抵のことではないと思いますが、市場規模としてはまだまだ十分なサイズがありそうです。
② 低価格の食品スーパーという市場はまだ残っているのだろうか?
食品スーパーという市場が十分に大きいことはわかりましたが、業務スーパーという「低価格の食品スーパー」にまだ成長の余地はあるのだろうか? という疑問があります。
結論は、「まだまだ成長に十分な市場がありそう」と思いますがいかがでしょうか?
以下の2つのグラフは、(前述した)総務省の家計調査から「(月々の)食品」への支出を指数化(2020=100)して表現したものです(2000年1月~2023年10月)。「上」が名目値、「下」が実質値です。
ポイントは2点。
まず、「下」の実質値のグラフから、食品向けの消費支出は2000年以降、一貫して減少し続けていること。消費者が、より安い商品への移行やぜいたく品の買い控えなど生活防衛意識を働かせていることが原因だろうと思います。
この「より安い商品へ移行」に対して、業務スーパーがその受け皿になっており、それが同社の売上げ拡大の重要な背景ではないかと考えます。
もうひとつは、2つのグラフの赤い斜をかけた部分です。2022年から消費者物価が上昇しており、その影響で「上」の名目値のグラフでは消費支出が大きく上昇しています。一方、「下」の実質値のグラフだと引き続き「消費支出は下落(=減少)」です。
一般消費者は引き続き生活防衛意識を強めている証拠だと思いますが、実質賃金が1年以上減少している中では、「(商品の)値段が上がった!」というインパクトは非常に大きく、消費者の「より安い商品へ」という需要はより強くなっているのではないかと想像します。
そして、その受け皿として業務スーパーが一層、いいポジショニングになっているのではないか、と。
少しくどくなりますが、多くの消費者の生活防衛意識は引き続き強いままなのではないか? というデータを追加でご紹介します。
以下のグラフは、厚生労働省が行っている国民生活基礎調査の中から「世帯年収の中央値」を抜粋し、それを時系列で並べたものです。中央値とは、世帯年収を大きな金額から順番に並べ、(順番として)ちょうど真ん中になる世帯の年収です。よって、中央値を境にして「それより下が50%」、「それより上が50%」となる数値です。
すると、1995年以降、日本の「下半分の世帯」は年収がどんどん減少していることがわかります。「より安い商品」を求める潜在的な消費者が年々、増えている状況です。
同じ内容ですが、別の角度から。
下のグラフは、世帯年収を金額別に割合(%)で表示しています。グラフの一番左「400万円未満」のところを見ていただくと、2001年から2022年にかけて、その割合が39.4% → 47.0%へと増加しています(7.6%の増加)。日本の世帯数は大凡5,000万世帯ですので、この20年間で「年収 400万円未満の世帯」が380万世帯(5,000万世帯×7.6%)増えたことになります。ちなみに、愛知県の世帯数が333万世帯ですので、それを超える数の世帯が増えました。
「より安い商品」を求める潜在的な消費者は、確実に増えている現状です。
(さらにくどいですが)もうひとつデータを。
以下のグラフは、財務省の法人企業統計調査から抜粋したデータですが、大企業・中堅企業・中小企業の「平均給与」の推移です。
中堅・中小企業の平均給与額はそれぞれ456万円、356万円となっており、2008年以降、あまり伸びていません。
そして、中堅企業で働く従業員の割合は(全体の)20.6% 、中小企業は56.1%。よって、全体の労働者の76.7%が中堅・中小企業で働いています。
そして、以下のグラフは「従業員一人あたりの経常利益額」の推移です。賃上げの原資となる利益の動きです。
この数字を見る限り、中堅・中小企業の賃上げ余力は小さく、(日本全体として)大きな賃上げが実行される可能性は非常に低い。よって、引き続き生活防衛意識を強める消費者は増えることはあっても、減ることはない、という状況に見えます。
(あまりいいことではないのですが)業務スーパーの潜在的な顧客基盤は構造的に拡大してきており、そのトレンドは(特別なことがない限り)変わらないように見えます。
以上のことから、業務スーパーがさらに成長する余地は十分に残されており、かつその潜在顧客もどんどん増えている状況が続く、という風に見えます。
③ そこで、業務スーパーは勝てるのだろうか?
市場規模も、潜在的なお客様の数も十分にあるように見える「低価格帯の食品スーパー」という領域で、同社は引き続き勝ち続けることができるのだろうか? という点です。
強敵が現れない限り、勝ち続けるだろうという印象です。
まず、ずっと上の方にグラフを貼り付けた通り、業務スーパーは過去10年間、コンスタントに成長してきました(平均 年率10.1%の売上げ成長)。
その原動力は「安さ」だろうと推測しますが、それを創り出しているのは「製販一体体制」によるコスト競争力と、FC展開による出店コスト負担の回避の組み合わせだろうと考えます。
そして、店舗数が1,000店舗を超え、売上げが4,000億円を上回る現在、規模によるさらなるコスト競争力と、知名度の向上による集客力を獲得しているものと思います。もちろん、運営ノウハウの蓄積や販売管理システムの改善による業務効率の向上といった側面もあるものと思います。
ちなみに、以下は業務スーパーの過去5年間の店舗数と店舗あたりの売上高の推移です。店舗数は5年間で235店舗増加しています(平均 47店舗/年の増加)。店舗あたり売上高も(グラフの通り)年々増加しています(328百万円@19/10期 → 450百万円@23/10期)。
業務スーパーというフォーマットは、現在でも(少なくとも)年間50店舗の増加余地があり、かつ店舗あたりの売上高も増加させられる力があるということだろうと思います。
と、いうことで、「業務スーパーは低価格帯の食品スーパーで、絶対王者として君臨しそうだ」。そして、「業務スーパーの成長は当分、続きそうだ」という風に見えます。
④ 最後に、バリュエーションはどうなの?
(上記のように)事業としての価値は十分にあるように思いますが、「投資できるほど割安なの?」「企業価値よりも割高だったりしない?」という点が気になります。
結論は、「なかなか高い!」「投資するには、ちょっと躊躇してしまう!」といった印象です(あくまでも、私の個人的な感覚です)。
PERは43.1倍、PBRは8.6倍。ROEが24.2%とはいえ、なかなか高いバリュエーションです。
また、EBITDA倍率は31.7倍くらいになると思います。やはり「高い!」という印象です。
同社の過去15年ほどの業績推移を見ると、売上げの拡大(平均 年率10%)とともに営業利益率が大きく拡大してきました。2007年10月期の営業利益率は1.6%。それが、2022年10月期には6.8%まで拡大しています。この利益率の拡大が同社の企業価値の拡大の大きな原動力だと考えます。
問題は、この利益率が今後も拡大するのだろうか? という点かなと。
利益率がさらに拡大し、15%を目指すようだと(売上げの成長=年率10%を前提に)株価の上昇は続くのではないかと考えます。
反対に、あまり拡大しないようだと、(良くて)売上げの成長率程度の株価上昇。ひょっとして、バリュエーションの縮小から株価が伸び悩む、ということも(近い将来)ありそうな気がします。
そして、業務スーパーという業態が「低価格帯の食品スーパー」という領域で勝負している以上、さらなる利益率の拡大はあまり見込みにくいのではないか、という印象を持っています。
それでも、同社の売上げと利益の拡大は続くと思いますし(年率10%程度)、すぐにバリュエーションの縮小が起こるとも思えませんので、株価はもう少し「上」まで行きそうな感じです(こちらも、私の個人的な感覚ですのでご注意ください)。
ひとつの目安として、ファーストリテイリング(9984)の株価パフォーマンスがイメージされます。
ファーストリテイリングの株価は、過去3年で1.2倍に。過去5年だと1.8倍になっています。スーパー・パフォーマンスではないですが、着実な株価上昇だと思います。3~5年くらいのスパンで考えると、業務スーパー(=神戸物産)の株価もこうしたパフォーマンスになるのかな・・・という印象を持っています。
最後は、私の個人的な印象論になってしまいましたが、神戸物産について書いてみました。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
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