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【1Q決算】トヨタ自動車(7203)- 好決算。但し、2つの心配と1つの期待。

世界中の株式市場が乱高下していますが、基本に立ち返って「1Q決算のレビュー」をしてみたいと思います。

こういう時だからこそ、長期で保有できる優良企業の株式が「割安」になっている可能性もありますので。

その第一弾はトヨタ自動車(7203)です。

2025年3月期 1Qの決算は、トータルとして「良かった」と思います。

ただ、詳しく見ると、心配な点が2点(アジアの売上げ減と、PHEV・BEVの少なさ)と、大きく期待できる点が1点(インドでの成長)ありますので、そのあたりを含めて決算をレビューしたいと思います。


1.四半期決算のサマリー。

トヨタ自動車の1Qは、営業収益(売上げ)11.8兆円(前年同期比+12.2%)、営業利益1.3兆円(同+16.7%)、当期利益(同+1.7%)という内容でした。

トヨタ自動車の決算短信を一部抜粋

売上げと営業利益が2桁成長していますので、「好決算」だと思います。

ただ、(それらに比べて)当期利益の伸びが+1.7%と小さいのですが、これは ①「その他金融収益」と「為替差益」が前年1Qに比べてやや小さくなった(▲358億円)のと、② 法人税が多くなった(+1,147億円)のが原因です。よって、本業とは別の部分ですので、大きな問題ではないと思います。

ご参考までに、今期の会社予想も貼っておきます。

トヨタ自動車の決算短信を一部抜粋

今期(通期)の会社予想は、売上げ+2.0%、営業利益▲19.7%、当期利益▲27.8%、というかなりコンサバな予想です - 1Qの売上げや利益は、通期予想に比べてかなり強い内容でしたので、今期の滑り出しは良いのではないかと思います。

一方、販売台数で見ると、今期1Qは225.2万台です。前期1Qが232.6万台でしたので、7.4万台(▲3.2%)の減少となっています。

同社の決算説明会資料より抜粋(5ページ)

減少したのは、日本(▲20.8%)とその他地域(▲2.6%。中南米、オセアニア、アフリカ、中東など)。

特に、日本の落ち込みが大きいのですが、これはトヨタやそのグループ会社で認証不正などの問題が発生し、生産・販売を停止していた影響です。(認証不正などの問題は、もちろん悪いことなのですが)それによる生産・販売の停滞は「一過性」になると思いますので、大きな心配にはならないと思います。

よって、「1Qは好決算だった!」という印象を持っています。

2.心配なところが2点あり!

全体として好決算だと思うのですが、2点、ちょっと気になるポイントがあります - ひとつは、アジアで中国メーカーに負けていること。もうひとつは、電動車の中でHEV(ハイブリッド車)の比率が高いことです。

まず、前者から。
以下は、アジア地域におけるトヨタの販売台数です - 上段が「販売台数の国別内訳」。下段が「対前年同期比での販売台数の伸び率」です。

同社の販売実績データをもとに弊社で作成
同社の販売実績データをもとに弊社で作成

上段のグラフを見ていただくと、「中国」が圧倒的に大きなシェアになっています。中国は、トヨタにとってアジア・ビジネスにおいて54%の販売台数を占める最大のマーケットです。全世界におけるトヨタのビジネスの中でも、中国はアメリカに次ぐ大きな市場になります - 全体の16%の販売台数の構成比です。

中国に続いて、「インドネシア」と「インド」がそれぞれ約10%。「タイ」と「フィリピン」が7~8%で続く販売構成になっています。

その上で、下段のグラフを見てください。販売台数が(対前年同期比で)しっかりプラスになっているのはインドとフィリピンだけです。

これは、トヨタが中国メーカーとの戦いに苦戦をしているためで、中国メーカーがいないインドと、そのプレゼンスが低いフィリピンでは売上げを伸ばしているのですが、中国メーカーの活動が活発な地域では売上げを落としているという内容です。

今後、中国メーカーとの競争はさらに激しくなると思いますので、とても心配になるポイントです。

そして、後者(電動車)についてです。
心配になるポイントは、「仮に、PHEVやBEVへのシフトが想定よりも早いタイミングで訪れた場合、トヨタは苦戦するのではないか?」という点です。

HEV=ハイブリッド車。
PHEV=プラグイン・ハイブリッド車(充電機能も付いたハイブリッド車)BEV=バッテリーEV(完全な電気自動車)。
FCEV=燃料電池車(水素で走る車)。

ご参考まで。

トヨタの自動車販売台数は、ガソリン車57%、電動車43%という内訳です。その電動車の内訳をグラフにしたのが、以下です。

同社の決算説明会資料より数字を抜粋

トヨタの電動車販売は、HEVが93%を占めており、PHEVやBEVはほんの僅かです - そのHEVが売れているので好決算になっているわけですが、「次への布石」という点ではちょっと心配になります。

現状、BEVは走行距離の短さ、充電施設の不足、中古価格への不安などから販売が鈍化していると言われています。

しかし、2023年のPHEVとBEVの世界における販売台数は1,380万台で、対前年比で+35%伸びています。全自動車販売に占める割合も18%と、無視できないサイズになっています。

もう一歩踏み込んで言うと、「EVが苦戦している」というのは、販売台数の「成長率」が鈍化している点(2022年は+54%増でしたが、2023年は+35%に鈍化)と、価格が急低下しており、利益率が下がっている点が大きいと思います。

前者は、成長率は鈍化しているが、それでも年率2桁成長をしていること。よって、新車販売におけるEVの比率はどんどん高くなっていること - 決して、減少しているわけではない!

後者は、価格低下を主導しているのは「中国メーカー」だという点。よって、EVにおけるコスト競争においては、中国メーカーが一歩、先を行っていることになりそうです。

もし、PHEVやBEVの価格が消費者の需要を大きく喚起する水準まで引き下がったり、バッテリーなどの技術革新が一気に進み、走行距離などの問題が解消したりといったことが、想定よりも早く訪れた場合、トヨタの販売台数がどうなるのか? についてはちょっと心配です。

今すぐにやってくるリスクではないとは思いますが、心には留めておきたいポイントかなと感じます。

3.大いに期待する点もあります!

これは「インド市場の成長」です。

急成長するインド市場は、トヨタにとっても大きな成長をもたらす可能性があると思います。

まず、世界の自動車販売台数をご覧ください - 上段は台数(万台)。下段は構成比です。

日本自動車工業会の資料をもとに当社作成
日本自動車工業会の資料をもとに当社作成

2022年とちょっと古いデータなのですが(全体像はわかっていただけると思います)、世界の自動車販売台数は8,163万台です(ちなみに、トヨタは約1,000万台ですので、12%のシェアになります)。

ポイントは、インドの経済成長と人口(14億人)を考えると、インドの自動車販売台数は早晩、アメリカを超え、中国に迫るのではないかという点です。

現在、中国の自動車販売台数は年間2,686万台、2位のアメリカは1,423万台です。日本(第4位)の販売台数が420万台ですので、中国は6.4倍、アメリカは3.4倍の市場規模です。

そう遠くない将来、インドがこれら2ヶ国に割って入ることになり、世界の3大市場を形成するのだろと思います。

それは多くの自動車メーカーにとって大きなチャンスなのですが、トヨタにとってももちろんチャンスになります。

以下は、2023年度のインドにおけるメーカー別の販売シェアです。

JETROの資料をもとに当社作成

トヨタ(現地の合弁会社)は、5.8%のシェアで第5位です。

インドの自動車販売台数は、2022年 → 2023年に8.5%伸びています。(仮に、2024年4-6月期も同じくらいの伸び率だったら、という前提ですが)この期間にトヨタの販売台数は+35%伸びていますので、同社はシェアを7.2%程度に伸ばしていることになります。

インド市場が成長する中で、トヨタが販売シェアを高め、例えば世界におけるトヨタのシェア(12%)やアメリカにおけるシェア(16%)の水準まで拡大した場合、トヨタの売上げは(インドの貢献分だけで)17~23%拡大することになります。

売上げで20%前後の拡大余地ですので、とても期待できる部分だろうと思います。

4.バリュエーションとリスク。

最後に、トヨタ自動車の株価バリュエーションと、想定されるリスクについて考えてみたいと思います。

まず、バリュエーションですが、8/6の終値(2,452円)ベースで、PERが9.4倍、PBRが0.92倍です。

成熟産業である自動車メーカーのPERは安くなりがちなのですが、それでもPER9.4倍だと「ゼロ成長が前提」という水準ですので、「割安」だと思います。

また、PBRが1倍割れしていますが、トヨタのROEは15.8%(昨年実績)あるので、こちらもやはり「割安」だと思います。

株価が、これだけ大きく下げましたので、やはり「割安」テリトリーだと思います。

一方、リスクについてですが、2点あります。

電動化へのシフトと、その中での中国メーカーとの戦いです。

前述したように、電動化の流れは着実に進んでいくと思います。その中で、「BEVやPHEVにおけるコスト競争力」はとても重要になると思います。

現在、中国市場において中国メーカー同士が激しい価格競争をしているようですが、そこを勝ち上がってくる中国メーカーのコスト競争力はかなり大きな脅威だと思います。

トヨタが、PHEVやBEVにおいても中国メーカーに負けないコスト競争力を維持できるかどうかは大きなポイントだろうと思っています。もし、コスト競争力で大きな差をつけられた場合、中国メーカーとの戦いは厳しいものになると思います。

あわせて、電動化への流れは自動運転などを可能にするSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル。ソフトウェアによって動く自動車。そのソフトウェアがアップデートされる自動車)として発展していくのだろうと思います。

SDVにおいても中国メーカーはかなり技術やノウハウを蓄積していると考えられますので、トヨタにとっては厳しい戦いになるように思います。

仮に、価格、走行距離、充電施設などの課題が想定よりも早く解決され、PHEVやBEVの普及が前倒しで進んだ場合、トヨタ(および、日本の自動車メーカー)にとってはさらに厳しい戦いになる可能性があるのでは・・・と感じています。日本勢にとっては、十分な準備が出来ていない段階で”試合開始”になってしまうような感じなのでは、と。

こうした「大きな変化を起こそうとしているライバル・メーカーからの攻勢」と、それが予想よりも早く訪れてしまうシナリオが、トヨタにとってのリスクになるのかなという印象です。

トヨタ自動車の1Q決算をチェックする中で、このような印象を抱きました。

こんな感じです。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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