秘密の互助会<掌小説>

ガガっと造る。トントンとやる。
(ふうっ)
息を吹き掛る。オガクズが飛ぶ。咳込む。ゲボゲボ。幾らマスクを着用してても、避けられまい。
新聞を購読している家で良かった、後で丸めて捨てればいいもの。
完成した貯金箱の美しさ、完璧さにうっとりしながら、視線を落とす。
(紙やすりぐらいは、やらせるか。でも、ちゃんと磨けないわ、奴では。完璧さが失われてしまうわ)
思った所に、「これでいい?姉貴」
プロも顔負けの出来栄えのワンピースを手にした弟が、部屋に入って来た。

世に双子は沢山いるけど、わたし達みたいなのは、珍しかろう。
男女であって、二卵性。
似ているようで、似ていない。
背丈に殆ど変わりがなければ、学力だってトントントン。
が、手先を使う分野では、全く逆。
姉のわたしは技術系。大工関係が得意である。弟は家庭系。編み物・洋裁・和裁の類いが、何でもござれのお得意だ。
お菓子作りや、普段の料理も嫌いではない。
わたしも作るが、弟程に興味がない。

「逆だったらねぇ」
母は何回、嘆いたか。
「一寿(かずとし)が寿子(としこ)で、寿子が一寿だったらな」
父も時折、言う。
「だったら今から、作ればいいじゃん」
「そうだよ。俺達を足しで2で割ったようなのを」
「いやぁ、出来るかしらね?お互い50歳近くになって」
「まず無理だと思うけど、やり方さえ思い出せば出来なくもないかも」
双子の遺伝子パワーが、見事に結集。偶々(たまたま)ぴったり嵌(はま)った我々の会話に、両親は何故か顔を赤らめ、目を逸らした。

わたし(女の子)が、技術系。弟(男の子)が、家庭系。
本来ならば、あるべく姿の逆である。=ならば、利用した方が良い。
今春、目出度く揃って我々は、高校に入学した。
距離は近いが、通う学校は違う。偏差値トントン。
選択科目に「技術」「家庭科」がある。
何故故(なぜゆえ)か、我々は共に、自分の苦手とするのを選択したのだ。
中学からの友達、幸子(さちこ)ちゃんが選択したから、釣られわたしも「家庭科」を。
弟は、高校で初めて出来た友達の勇太(ゆうた)くんが、「技術」を選択したから、という。
「へぇ~っ、あんたも?」
「えっ?姉貴も?姉貴もなの?」
ここまで双子のパワー遺伝子は響く。
「あ~っ、これから地獄が始まるねぇ。お互いに」
「普段の課題や、夏休みの課題とか。どうしよう」
「だったらしましょ、こうしよう!」
秘密の互助会誕生の巻き。

そして今、夏休み。何回目かの互助会が結集した。
「おおっ!素晴らしい!この貯金箱!木製のポスト型!いいねぇ!」
「やったぁ!若草色のワンピース。ポケットに四葉のクローバー模様を施すなんて、サイコーじゃん!」
次回の団結と、喜びをも予感させる。
                              <了>  

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