ラップの中身は
旦那は、ハンバーグが好きだ。
今日の夕飯のリクエストを聞くと、7割くらいの確率で
「ハンバーグ」と言う気がする。
一方の私はというと、
ハンバーグはまあ普通くらいに好きで、
ハンバーグを作るのは嫌いである。
・牛豚合いびき肉をこねこねするのは手が冷たい。
・こね終わったあとに手が油まみれになって、洗っても洗っても取れないのが嫌。
・分量通り作っているはずなのに、なぜか私のハンバーグはつなぎが緩くて原型をとどめない。
だから、7割くらいの確率でリクエストされたとて、
私が頻繁につくるかというと、そうではない。
*
ハンバーグを作るに至ったその日は、いろいろ条件が重なった。
旦那から、
「ほうれん草のソテーが食べたい」とハンバーグに合いそうな付け合わせのリクエストを受けた。ヒット。
そのタイミングでお休みしたと思っていた食材定期便が届き、ほうれん草が家に飽和。(すでに冷蔵庫に1把入っていたが、2把になった。)
ほうれん草選手の連打でハンバーグが2塁ベースへ。
牛豚合いびき肉はミートソースにしようと思って買ったが、ちょうどトマト缶を切らしていたし、なんなら前日はトマト味の料理を作っていた。トマトのタイムリー。
料理の引き出しがないので、トマト味以外の豚ひき肉レシピは餃子かハンバーグくらいしか咄嗟に思いつかない。
で、餃子の皮が日常的に入っている冷蔵庫を持ち合わせていないので、消去法でハンバーグ選手がホームイン。
前述の通り、
ハンバーグがホームインすることは滅多にない。
もう直ぐ帰ってくるであろう旦那は、きっと驚くだろうなと思った。
まあたまには、好きなものをつくってあげよう。
ほうれん草のソテーも食べたいって言ってたもんね。ついでに炊き込みご飯にしちゃお。
ハンバーグを作るのはしぶしぶであるが、私はなんとなくワクワクしているみたいだ。
あー、旦那の好きなもの作ってあげる私って、まじでいい女。いい妻。
なんていうかな。嬉しいっていうかな。
*
なかなか帰りの連絡がこないと思っていたら
彼は「今日遅いかも。」とのこと。
最近遅くなかったから油断してた。
一緒にご飯食べれると思ったのに。
レアなハンバーグなだけに、尚更残念だった。
すぐには手をつけないハンバーグたちにラップをする。
そういえば昔、実家で帰りの遅かった私のご飯は、同じようにラップをかけてもらっていた。
全部チンで食べれるように。
おまけにご飯のおひつも全部洗われていて、食べたら自分の皿だけ洗えば大丈夫なように支度してあった。
もちろん当時の自分も、ありがたいなとは思っていたのだが、いつもご飯が用意してあるというのは、言葉を選ばず言うと一種の融通の効かなさもあった。(本当に何様すぎる。ごめんなさい)
たまにはバイト仲間や同僚とご飯を食べて帰りたかったのだ。
そういう時には、祖母に電話して謝っていたが、毎度多少の文句を言われるので、それが面倒でご飯に行くのを控えたり、こっそり食べて二重でご飯を押し込んだりしていた。
せっかく用意したのに、って自分だったら殴りかかってしまうかも。
こんなに頑張ってしまった日は、きっと往復ビンタ。
仕事でちょっと遅いだけで残念なのに、さらにご飯はいらないって言われたらと思うと、私だったら恨み言では済まさない。
そうなると、祖母は聖人である。懐が深すぎて、もはや懐が宇宙って気もしてくる。
*
彼は、遅くなる日は申し訳なさそうに連絡をくれる。
帰ってきてからも、仕方がない事情でも、ごめんねと言う。
過去の私と似た気持ちだと思う。
けれども、誰かの帰りを待つ時間の長さは、
こちら側になってみないと分からないものだ。
今度実家に帰ったら、ご飯を作るのを手伝って、ゆっくり食事をして、おいしいとたくさん言おう。
(いつも言葉少なに食事をしてしまうので、反省している。)
子供の時は、ラップを外してご飯を食べていると
「ひとりじゃさみしいから」と祖母が私が食事するのを見守ってくれた。
昔は食事など、何人で食べても同じだと思っていたが
自分で食事を用意するようになってからは誰かと一緒に食べたいと思うようになった。
自分のためだけにハンバーグなんてつくらないから。
美味しいって言って欲しいから。聞きたいから。
いろいろ理由はあるけれど、私が作りたいのは多分料理じゃなくて、
料理を囲む空間を作りたいのだと思う。
せっかくハンバーグだし、それはいつもよりきっと素敵な空間になるはずなのだが、今日のところはお預けらしい。
わたしの残念が、彼に届きますように。
以前は素通りしていた気持ちも一緒にラップにかける。
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