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すべつな~大事なことはみんなお風呂で教わった(僕らはみんないきしてる・呼吸の話)


その昔、溺れたことがある。
保育園の行事で訪れた遊園地の中にあった、体の小さい私でも何とか足がつく深さの子供用プールでの出来事だった。
母が目を離したほんの僅かな瞬間に足を滑らせ、あっという間に水中に沈んだらしい。
驚いた私は、そのあと水の中へ入ることをためらった。
と、そこまでなら良かったのかもしれない。

水に入りたがらない私をみつけた一人の先生がやってきて、嫌がる幼気な子供だった私を無理矢理脇に抱えると、大きな波の出るプールの足がつかない深みへとどんどん進んで行くという・・あれ、地獄?

もうね、恐怖の記憶しかないっす。完全なるトラウマで。水はこわいし大人は信用ならないと。

それ以来私は泳ぐことができないばかりか、水に対する恐怖心を克服することもないまま大人になった。
だからどちらかと言えばカラスの行水派だったのには、熱い湯が苦手という理由の他に、つい最近まで風呂の深さの水圧にさえ圧迫感でうまくリラックス出来なかったということもある。



こんなに散々お風呂記事を書いておきながら、風呂タイムを楽しめるようになってきたのはわりと最近の話。
きっかけの一つは今年の再放送ではじめて観たドラマ「あまちゃん」にあり、海女のアキちゃんが何とも楽しそうに海に潜る表情にひかれた。
俳優さんの演技のタマモノだということは重々承知の上だが、水の中はとても気持ちが良さそうに見え、私にも潜れるんじゃないか、何だか楽しそうな所じゃないかと、不覚にも思ってしまった。
そう思いながら湯船に浸かると、不思議なことに水圧があまり気にならない。圧迫感を感じないということは、呼吸が楽に出来ているということ。呼吸が楽だと緊張がほどけ、リラックスできるようになる。
気付けば、湯船に浸かることに対する苦手意識はなくなったようだ。
苦手意識、恐怖心、不安感。
ストレスは緊張を生み、緊張は筋肉を硬くして体を強張らせる。
過度のストレスは本来の動きを制限し、それが持続してしまうと心身の自由度は奪われていく。

ロシアに「システマ」という武術があるが、システマの強みは恐怖心をコントロールすることにある。
恐怖心は心身を強張らせパニックを引き起こしパフォーマンスを低下させる。それを防ぐためのトレーニングとして、システマでは意識的に「呼吸」をするのだ。
緊張が解ければ呼吸が出来るし、呼吸が出来ていれば緊張しない。
どちらが先に来ても成立するんだ。

たかが呼吸。
されど呼吸。
息を吸って、また吐き出すだけの行為。
誰かに教わったわけでも言われたから始めたわけでもないけれど、生まれてから一度も休むことなく続けてきたからには、疎かにするわけにもいかない。

この年になって初めて、深く湯をはった湯舟に浸かっていても呼吸が深くなるという感覚を知った。
何年生きていても、まだまだ知らないことだらけだなと思う。
ただ一つ言えること。それはあの日あのトラウマが植えつけられていなければ、気が付かなかったこともあったんだということ。
そして「ゆるめる」とは、もしかすると心をゆるめることなのか、とも思ったり・・

生きるって、奥が深い。<つづく>



あ。でも皆さん。子供にトラウマ植えつけるのはお願いだからやめたげて~


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