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【読書メモ】今週読んだ4冊



『銃・病原菌・鉄』上・下 ジャレド・ダイアモンド (著)  倉骨 彰 (翻訳)


五つの大陸でなぜ人は異なる発展をとげたのか。
世界の富と力ははぜ現在のように偏在するようになったのか。
人類の歴史を動かしてきたものを、歴史学や考古学のみならず、
分子生物学、進化生物学から地理学、文化人類学、言語学、宗教学等
多様な学問領域の最新の知見を縦横に駆使することで明らかにする。
まったく新しい人類史像が立ち上がってくる知的興奮の書。
ピュリッツァー賞、コスモス国際賞受賞のほか、朝日新聞による「ゼロ年代の50冊」の第1位に選ばれている。

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・「比較的安全な社会でのうのうと生きてきたヨーロッパ人よりも、厳しい環境で生まれ育った東南アジアなどの住民のほうが優れた人間に育ちそうなものなのに、なぜ前者が後者を植民地支配するようになったのか?」という問いから始まる、人類史を包括的に捉える本。
・人類史が語られる時はヨーロッパ中心主義になることが多い。しかし本作はそこからは一線を画し、東南アジアや古代アメリカ、アジアにおける生活状況を考察して人類の成り立ちを追う。
・自然の中での厳しい環境で生まれ育って部族間の衝突を繰り返してきた、言ってみれば「弱肉強食」の世界に生きる人々。肉体的にはもちろん知性的にも優れた人間たちが長い年月を経て生まれ育つであろう環境なのに、比較的安全な社会のヨーロッパ人に支配された。それも少数の植民地軍に。その理由はタイトルの「銃・病原菌・鉄」にある。ヨーロッパ人が使う反則級の飛び道具、ヨーロッパから持ち込まれて植民地の住民に広まり弱体化させた病原菌、そしてヨーロッパで発展した製鉄技術。宗主国にはあって、植民地にはほぼ無いもの、この差が支配する者と支配される者を分けた。ざっくばらんに言うとこういう理論。
・「植民地の人々は厳しい環境で生まれ育ったから、本来なら優れた人間ばかりになるはずなのに」というのはざっくばらんとしすぎな気がするけれど、人類学ってそういうものなんだろうか。人類学ミリしらなので分からねえ。
・東南アジアや南北アメリカ大陸が植民地支配された理由を、銃という武器の存在、食料生産のプロセス、病原菌の蔓延などの多角的な視点から考察する。本来ならものすごく難しいのであろうことを言っているのに、まあまあ分かりやすく書いてくれているので私みたいな人類学ミリしらでも理解できる。


『86‐エイティシックス‐Ep.5 ‐死よ、驕るなかれ‐』安里 アサト


 探しに来なさい――。
 シンが聴いた〈レギオン〉開発者・ゼレーネと思しき呼び声。レーナたち『第86機動打撃群』は、その姿……白い斥候型が目撃されたという「ロア=グレキア連合王国」へと向かう。……だが。
 それは生への侮辱か、死への冒涜か。
「連合王国」で行われている対〈レギオン〉戦略は、あの〈エイティシックス〉たちですら戦慄を覚えるほどの、常軌を逸したものであった。
 極寒の森に潜む敵が。そして隣り合う「死、そのもの」が彼らを翻弄する――。
 《連合王国編》突入のシリーズ第5巻!
 雪山に潜む怪物たちが、彼らに、笑みとともに問いかける。

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・戦争モノの男女物ラノベ。恋愛要素はあるけど薄めで、戦記要素がメイン。1巻の感想はこちら
・舞台設定は泥臭いSFといった感じで、多脚戦車(キャタピラではなくクモみたいな足で移動する、SFでよく登場する兵器)での戦闘シーンがなかなかに読み応えがある。未来的なスタイリッシュ建造物やガジェットは無いので、SFに小綺麗なイメージを抱いていて苦手意識がある人にもオススメかもしれない。
・ジャンルとしてはバトル系というより戦記モノと言ったほうが近い。多脚戦車でのバトルシーンはあるけれどクライマックス付近に集中しており、そのほかは外交や戦況を描くシーンのほうが多い。戦記モノはファンタジー作品に多い印象があるので、こうしたSFで読めるのは珍しく思う。
・作中では人種差別が描かれるが、現実に存在する黒人・アジア系・白人をそのまま登場させて差別をガッツリ描くのはおそらく手に余るため、本作では架空の人種を登場させて架空の差別を描く。こういった「架空の差別」を用いて作品世界の情勢を表現する手法は最近よく見る。ゲーム『ファイアーエムブレム 風花雪月』でも架空の人種に対する差別が描かれていたなー、と思ったり。
・今回は新たにクセの強い若い男性キャラが登場。女性キャラの割合が多めだけど、男性キャラも魅力的なのが本作のいいところ。男主人公以外はほとんど女性キャラのハーレム物ってちょっと苦手なので。
・少年少女兵が過酷な戦場に身を投じる、いわゆる悲惨な戦争を描く。そういうハードな設定の作品が読みたい人には向いているんでないかな。おぞましいシーンはあるけれど、読むに堪えないというほどでもないので。逆に、若者に重荷を背負わせたり戦わせる作品が苦手な人には向いていないです。

『古代ギリシャのリアル』藤村 シシン


赤紫の海・極彩色の神殿の 真実の古代ギリシャへ!! 青い海、青い空、白亜の神殿、ロマンチックな神話といった、私たちが日ごろイメージする古代ギリシャとはちょっと違う、「古代ギリシャのリアル」がわかる一冊。なぜ古代ギリシャ人は血や涙を「緑色」と表現するのか? なぜ古代ギリシャの主神ゼウスはあんなに浮気性なのか? そして「壺絵の落書きにみる同性愛」に至るまで、ネットやツイッターで大人気の著者が詳細かつ面白く解説。

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・古代ギリシャの「白亜の神殿」は西洋人が古代ギリシャブームの中で抱いた幻想である。真っ白な神殿は今でこそギリシャのイメージとして定着しているが、それは塗料が長い年月で剥げ落ちた姿であり、本来は極彩色に彩られていたことが分かっている。そして「黒いアテナ論争」。白人の姿で描かれがちなギリシャ神話の女神アテナは出生からして有色人種の可能性が高い、という論説である。このように古代ギリシャ世界は西洋人によって言わば「漂白」をされて、都合良くイメージを変えられてきた。本書ではそのような色眼鏡を外して、古代ギリシャやギリシャ神話の世界の真の姿に迫る。
・文体や本の構成は、神話関連の本としてはかなりカジュアルなほう。ギリシャ神話ミリしらの人でも最後まで付いていける作りになっている。そのためギリシャ神話を学んだことがある人には「それ知ってるよ」という記述が多いわけだけど、初心者の入門書としては最適だと思う。とにかく読みやすさを重視しているので。あえて本書に失礼なたとえを出すと、本書のカジュアルさは学術書とゆっくり解説動画の中間に位置する。
・ゼウスがなぜ浮気しまくりのクズ男になったのか、という理由が解説されており興味深い。ゼウスはギリシャ神話の最高神ということもあって人気があり、古代ギリシャ人がこぞって「俺の先祖はゼウスなんだぜ」と言いたがるようになった。古代ギリシャではギリシャ神話はおとぎ話ではなく、自分たちのいる現実と地続きなのである。ゆえに「ゼウスの子孫」があちこちにいることになってしまったため、ゼウスが色んな女と浮気しまくる神話エピソードが作られまくったわけ。「なんで最高神なのにクズなの」とよく言われるけれど、実際は因果関係が逆であり、最高神で人気があるから結果的にクズにされてしまったという。このように、ギリシャ神話に関するイメージをさらにアップデートしてくれる一冊。


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