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【読書メモ】今週読んだ3冊【数字タイトル縛り】



『777 トリプルセブン』伊坂 幸太郎


・「死にたくても死ねないホテル」を舞台に繰り広げられる、殺し屋小説。ブラッド・ピット主演映画『ブレット・トレイン』の原作『マリアビートル』の実質続編でもある。
・布使いの殺し屋女子コンビ、爆発物使いの「コーラ」と「ソーダ」、呪いめいた記憶力を持つ一般女性と、彼女を狙う6人の殺し屋集団。そして何も知らずに巻き込まれる世界一不運な殺し屋男性。非常識なまでに個性的な殺し屋たちが入り混じる死闘がはじまる。
・物語の最初から最後までひとつのホテルの中が舞台となる。目的はひとつ、一般女性を連れてホテルの外に出ること。限定的なロケーション設定とシンプルな目的で物語が分かりやすくなっていいね。
・6人組の殺し屋集団が登場するも、名前が「飛鳥」「奈良」「平安」「鎌倉」「戦国」「江戸」と非常に覚えやすい親切設計となっている。こういうネーミングいいよね。
・「混乱する」「愕然とした」「当惑する」など、伊坂作品にありがちな固い表現が今回も多い。これは伊坂先生が小説において正確な表現を重視しているところもありそう。
・SNS、ネットミーム、ChatGPT、ぶつかりおじさんなど、最近の話題を取り入れている感じがある。ルッキズムを意識したセリフもあるのも今風。
・伊坂ファン向けの表現を使うと、今回は「城山枠」が6人+αいる。伊坂ファン以外向けに解説すると、「顔と頭が良くて人格が最低最悪な悪役」がいっぱい出てくる。伊坂作品にはときどき、こういう魅力的で分かりやすい悪役が出てくる。
・自己啓発本に影響される殺し屋が出てくる。「自分のために生きなさい」と「他人のために生きなさい」という本を両方読んでいたり。妙に人間臭い裏社会の人間がいるのが伊坂作品っぽい。
・「シャンプーまみれのエレベーター内での格闘戦」という特殊な戦闘シーンがあって面白い。『マリアビートル』でも新幹線の座席に座ったまま隣の敵と格闘するシーンがあったな~
・スーパーハッカーおばあちゃんの生い立ちが「プロ野球投手の息子が野球ゲームでノーコンキャラ扱いされているのが不満だったので、野球選手のデータベースにハッキングして情報を改ざんした」という、伊坂作品によくある「おかしみ」がある感じ。
・伊坂幸太郎作品は伏線の張り方が大きな特徴だと思っている。今作の伏線レベルは、・・・・普通!
 他の小説でもよくあるぐらいの伏線の張り方だった。伊坂作品は「あれ、伏線だったの!?」「ここで回収する!?」という驚きが魅力的だったから、最近のキレの低下は寂しく感じる。クライマックスで絶体絶命になって、さあどうする!? となった時に怒涛の伏線回収で状況を一気に逆転するのが気持ちよかったのよ。今回は
・キャラクターの生存率の低さに定評のある伊坂幸太郎の殺し屋シリーズで、女性の殺し屋コンビが生存したのは嬉しい。いつ死ぬのかとハラハラしてた。伏線とはあまり関係ない形で逆転が成されたので拍子抜けした。


『86‐エイティシックス‐』安里 アサト


・本作の舞台は有色人種の国民の人権を剥奪して兵士として戦場に送り込む戦争を続けている差別主義国家。そんなクソ国でひとり差別撤廃を志す、貴族にして軍人の少女が主人公。彼女は「86(エイティシックス)」と呼ばれる有色人種の少年少女の戦闘部隊を、安全圏である「第1区」から指揮する任務に就く。マイノリティとして迫害されてきた86の隊員たちは特権階級である彼女を簡単に信用するはずもなく、不和や衝突、軋轢を繰り返す。それでも彼女は挫けることなく、彼ら彼女らが置かれた非人道的な状況を改善しようと行動を続ける。そんなある日、86に指令が下る。それは「敵陣の奥へひたすら進軍せよ。期間は無期限。他部隊の救援は一切禁ずる」という、死刑宣告に等しいものだった。
・特権階級の人種だけが人権を認められて、その他の有色人種は「人間以下の豚」として強制収容所に送られ、やがて兵士として死地に送られる。というなかなかな設定。しかもそれをやっている国は「人道主義を掲げてジェノサイド等に反対している」という。なんか、最近もっぱら流れている痛ましいニュースを思い出しますね。具体的に言うと、ナチスドイツによるジェノサイドを批判していたはずなのに現在パレスチナで虐殺を行なっているイスラエルを思い出しますね。
・反差別作品というより、単に差別を作品のネタにした感じが否めない。架空の世界が舞台とはいえ、人種差別という現実にもある差別問題を扱う時は慎重になってほしい。なんか、扱い方が軽率な気がする。
・本作で差別をするキャラはだいたいが「嫌な奴」で、主人公などの差別に反対するキャラはみんな「良い人」。これ、差別を扱うフィクション作品が陥りがちな罠です。人格と人権感覚は別なので、現実においては周囲から「良い人」とされている人でも差別をすることはザラ。ド直球の差別を描くなら、そのへんの解像度は高いほうがよかった。
・ただ、差別に反対している主人公でも知らないうちに差別を内面化していた、という展開があり、それは素直に良いと思った。現実でもよくあることなので私も気をつけたい。
・86の少年少女たちは「ジャガーノート」と呼ばれる四足歩行の戦闘兵器に乗って、敵国の凶悪無人機軍団と戦わされている設定。ジャガーノートの性能はハッキリ言ってポンコツであり、劣勢をひっくり返す戦況をいかにして作り出すか、というロボットバトル物としての熱い展開もある。
・せっかく名前と特徴を覚えたキャラがいつの間にか死んでいることが多々あり。私の記憶力を返せ。
・本作はたぶん男女物。あとがきでも「ボーイミーツガール」と表現されていたし。
・本作の舞台となる国は、おそらくナチスドイツが元ネタの一つになっている。しかし同じ枢軸国であった大日本帝国も中国人や朝鮮人への差別や弾圧を行ない、さらには特攻兵器という本作のジャガーノート以上のクソ兵器が作られ、本作と同じように数多くの若者が犠牲になった。
 そして現代。日本の差別問題はすっかり改善したかというと、胸を張ってYESとは到底言えない。中国人・韓国人差別に加えて最近ではクルド人への差別も見受けられ、入管の劣悪な収容環境は死者を出す事態までをも引き起こした。本作の舞台となる国を、果たして他人事のように「ひどい国だ」と言えるだろうか。あとがきでは本作の舞台が「ディストピア」と表現されていたが、私たちがいまいる現実もだいぶディストピアだ。
 また日本以外においても、現在パレスチナではイスラエルによる虐殺が行われているにも関わらず、アメリカをはじめ国際社会が明確なNOを突きつけられないでいる。本作で描かれる差別と虐殺は決してフィクションの中だけの出来事ではなく、まさにいま、私たちがリアルタイムで考えなければならない問題である。「自分がするべきこと」を信じて行動し続けた本作の主人公の少女のように、「自分はいま、何ができるか」を、いま一度じっくり考えてみてはいかがだろうか。本作『86‐エイティシックス‐』はまさに、そのことの大切さを私たちに教えてくれる作品であるといえるだろう。たぶん。


『64(ロクヨン)』横山 秀夫


・地方の県警の広報官の男性が主人公。マスコミと上司との板挟み、警察庁長官の視察に向けた関係各所との調整。家庭では娘が行方不明中。読んでいて胃が痛くなるような状況のなか、14年前に発生した未解決事件が浮上する。昭和64年、わずか7日で終わった昭和最後の年を舞台とする少女誘拐事件。
・警察物だけど事件は後半まで起こらない。県警広報官という特殊な立場の日常業務が主で、それがまた面白い。事件が無くても警察物って十分面白くできるんだ・・・。
・「初っ端から事件が起こって刑事が颯爽と解決に乗り出す!」という警察物ではなく、終始物語のテンションは低め。刑事ではなく広報官という特殊な立ち位置だし。けれども噛めば噛むほど味が出るスルメのような味わいがある作品です。渋めの警察小説が読みたい人にオススメ。
・作者が元記者だからかマスコミ描写の解像度が高い。県警に鋭く食ってかかる記者たちの姿は高圧的ながらも、型通りの「マスゴミ」描写にはなっていない。よくあるよね、ありがちな「マスゴミ」描写。

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