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残暑


残忍だった。

君は僕に「夏が終わってしまうね」と寂しそうに言ったけど、その言葉の本意を理解できない僕は、ただぶっきらぼうに、「またすぐやってくるよ」

君は僕より先に歩道橋の階段を降りて行った。

その時の間ほど残忍なものはなかった。

切断された四肢のそれぞれの先から蛆虫が体の中心へと向かって食い破って進んでくる感覚が僕の体じゅうを走っていた。

「もう来ないのよ」

「そう、来なくていいの」

「夏も、あなたも、もう」

その日は妙に涼しかった。

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