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暗黒労働おとぎ話 『のっぺらぼう』(上)

むかし あるところに、与太郎という名前の工場勤務の男がおりました。

夕暮れ時、与太郎は、工場の外に鉄のカゴ車を移動させておりました。

これな。


薄暗くなった工場の敷地を歩いていると、なにやら近くで騒ぎが起きておりました。

与太郎は駆け寄って近くの人に事情を尋ねました。

いつも、つまらないことでかんしゃくを起こしているパワハラ副工場長が、乱暴に鉄のカゴ車をどかした拍子に、カゴ車から飛び出している鉄の棒が、パートの女性従業員の目に刺さってしまったのだそうです。

この中小企業の工場ではパワハラもほったらかしでしたが、半壊した鉄のカゴ車もほったらかしにして、ずっと使い続けていたのでした。

救急車が来て、たくさん人が集まってきました。

与太郎は恐ろしい現場に居合わせて、心の底から震えあがりました。


今までパワハラで有名な副工場長の顔をしっかり見たことはなかったのですが、至近距離で見た顔は
”のっぺりとした顔のパワハラ坊主(無理やり略して のっぺらぼう)”でした。


その無表情で冷徹な顔を見た与太郎は、背筋がゾ~っとしてしまいました。


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週末の夕暮れ、与太郎はラーメン屋台の親父に、会社で見てしまった恐ろしい出来事の一部始終を話してしまいました。

この屋台には、アルバイトの若い男性が時々、手伝いにやってきていました。
若い男も、興味深そうに与太郎の話を聞いておりました。


「聞いてくれよ。おれの工場で、今週、恐ろしいことがあったんだ。いつも、つまらないことで かんしゃくを起こすパワハラ副工場長が、とうとう従業員に大怪我をさせてしまったんだ。被害者の家族が来たけれど、うちの会社は事件を金で解決することにしたんだ。金を払うから、警察には言わないでくれってさ。怪我をさせた副工場長は、何事もなかったかのように、翌日も普通に出社してるんだぜ。酷いったりゃ、ありゃしないよ。労災申請もしないんだぜ。もうオレは、あの工場で働きたくなくなったよ。

副工場長は、のっぺりとした冷徹な顔をしてたよ。
パワハラする奴って、人相からして凶悪だよな」



与太郎が話を終えたとき、

さぁっと風が吹いてきて、

屋台にぶら下がった電球を、
ゆらりゆらりと揺らしました。

「の~っぺりした顔のパワハラ坊主、略して"のっぺらぼう"ですか。 

・・・・・・むかし話に、そんな話がありましたねぇ。 

お客さん、それは・・・」

ラーメン屋の親父は、そう言って、手に持っていた熱したフォークを、アルバイトの若い男性の足に突き刺しました。

与太郎は「うわ!」っと叫んで、とっさに顔をそむけました。


「それは、こんなパワハラ坊主だったんじゃないですかね?」

与太郎が恐る恐るラーメン屋の親父の顔を見ると、この顔もまた、のっぺらぼう(の~っぺりとした顔のパワハラ坊主)だったのでした。


「ふぎゃ~!」

アルバイトの男性と与太郎は、同時に叫び声をあげました。


千円札をおいて、お釣りももらわず、逃げるようにラーメン屋台を後にした与太郎は連日、間近で凄惨なパワハラ事件を目撃したため、すっかりPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症してしまいました。


とうとう不眠症になった与太郎は、心のバランスを大きく崩し、さらに全般性不安障害(GAD)まで発症してしまいました。


そして、家の外に一歩も出られなくなった与太郎は、日に日に弱っていきました。



つづく



★パワハラ副工場長の話は実話です。事件のあった工場で、私がベテランのパートさんから聞いた話です。

⭐︎労働安全衛生法違反は放置してはいけません。
 職場の安全管理は義務です。

 労災隠しは犯罪です。

★ラーメン屋の事件は、ニュースになりましたね。


パワハラと言う言葉で済ませられない刑事事件なのに、言葉のマジックで「訴えるほどではない、些細なこと」ニュアンスに変化するので、騙されないように、気をつけないといけません。


大事件はPTSD発祥の引き金になりえますし、継続的なパワハラや、職場の悪環境がメンタルに与える悪影響にも気をつけましょう。

⭐︎全般性不安障害(GAD)とは



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不運な人を助けるための活動をしています。フィールドワークで現地を訪ね、取材して記事にします。クオリティの高い記事を提供出来るように心がけています。