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【思考(おもかん)】揺れるバイセクシャル

こんにちは。おおかみの人です。

今回のトップ画像は、赤と青の混色。




先日、わたしにとってとても、とてもショックな、衝撃的なことがあった。

それはわたしのくすんだソウルジェムを真っ黒なグリーフシードに変えて、自分自身を凶悪な魔女に変えてしまうにはあまりにも十分すぎるほどの衝撃だった。

その出来事を通して、黒く荒れすさんだココロの中を、いままでのたくさんの、ほんとうにたくさんのいろんな記憶たちが過っていった。その中から、わたしの中で決して忘れることのできない、でも消してしまいたい、そんな記憶にまつわることについて書き綴ってみようと思う。

このあたりのことを、もしかすると以前にどこかの記事で書いたかもしれないが、もっと重たい内容になっているかもしれないし、そうではないかもしれない。でも、いまのわたしが想起し、考えていること思っていることを、ありのままに綴りたい。


* * * * * * *


それは、わたしの「性」にまつわる話。

もう、何年も前のこと。
当時のわたしは、念願の彼氏ができたところだった。
性非行にはしり、たくさんの異性と身体を重ねる生活を長く続けていたわたしが使っていたマッチングアプリで、最後に出会った人だった。
わたしはその彼氏と正式に付き合うことになって、そのアプリをやめた。他の男と会うことも、すっぱりとやめてしまった。

人生で、もしかすると初めてかもしれない、「まともに」付き合うことができた、初めての彼氏。
初めはちょっと頼りないような気もしたが、次第に彼に惹かれていった。彼は、ココロに黒いものを抱えたわたしの良き理解者になってくれて、わたしが落ち込んでいたり、マイナスの方向に考えてしまうのをよく正したり、慰めたりしてくれた。
思ったよりしっかり者の、2個下の男性だった。


当時のわたしは、相当に不安が強かった。だから、この初めてできた彼氏となるべく一緒にいたいと思うようになった。
何せ、初めてまともに付き合うことができた彼氏である。一緒にいる間はできるだけそばにいたいと思った。一緒に外出する時は手を繋いでもらったり、家でふたりきりになったら、キスをしたり、長い時間抱きしめ合ったりもした。狭いベッドに身を寄せ合って寝たりもした。
一緒にディズニーランドに旅行に行ったこともあった。2人でお揃いのカチューシャを買って頭につけ、チュロスを食べ歩いた。


ああ、これが、普通なのか。

わたしはそう思った。


念願の【普通】を手に入れたわたしは、この【普通】を絶対に手放したくない、と思うようになっていた。

晴れて恋人同士になって、わたしはもっと、もっと彼とくっつきたい、と思った。

わたしは決して、性的な接触が好きな訳ではなかった。
なんでかって、痛いし、ただただ異物感を感じて苦しいだけだから。正直、気持ち悪いとさえ思っていた。
でも、その時のわたしは、それがいちばんの愛情表現だと信じて疑わなかった。苦しんでいる様子を見た男は、何故かはわからないが喜んでくれる。そういう経験的な知識があったからかもしれない。

彼は応じてくれた。
お互いに慣れない様子で事に及んで、終わってみるとくたくたになった。
でも、そこにはいままで感じたことのない満足感が確かにあった。


1年経ち、2年が経った。

相変わらず、彼はわたしに優しくしてくれた。
悩みを抱え込みがちなわたしのことを支え続けてくれた。

でも、ひとつだけ変わったことがあった。

彼が、応じてくれなくなった。

それとなく誘っても、困ったように笑うか、頭を優しくなでて「おやすみ」と寝てしまう。

わたしはとても傷ついた。
どうして、拒絶されてしまったんだろう?
でも、わたしには相変わらず優しくしてくれる。
彼とスキンシップを取れないことはつらいが、彼のわたしに対する愛情がなくなったわけではないのだな、と思って、わたしはそれ以上求めるのはやめた。
それでもやっぱり、彼は優しくしてくれた。わたしには出来すぎた彼氏だったのかもしれない、と、いまは思う。


そして、付き合いはじめて3年ほど経った頃。

病状が悪化したわたしは、地元に引き上げて入院せざるを得なくなり、彼とは遠距離になってしまった。

入院中、携帯は厳しい管理のもと使用が極端に制限されていた。
そんな中、彼は日々の日記を綴ってメールで送ってくれたり(受信したものの閲覧のみ可能だった)、わたしの実家の住所に宛てて励ましの手紙を送ったりしてくれた。
そして晴れて退院になった日の後日、大きな封筒が送られてきたと思ったら、そこには彼が手作りしてくれた賞状が入っていた。入院よく頑張ったで賞、の賞状だった。わたしは大人気もなく泣いた。嬉しかった。ココロの底から。


…いつの頃からか、彼と結婚して、子供を持ちたいと思うようになっていた。

わたしの方から、プロポーズをした。

結婚してください。

彼は、

うん、しよう。

と言ってくれた。それだけでわたしは涙が出るほど嬉しかったのをよく覚えている。


ところが、5年ほど経ったある日。

付き合ってから1日も欠かしたことのなかったLINEのメッセージが、突然ぱたりと途絶えた。

忙しいのかな?と思って、そのままにしておいた。でも、2日経っても、3日経っても、1週間経っても、なんの音沙汰もない。

わたしは1ヶ月待って、それでも連絡がないので、しびれを切らしてひとこと

「残念です」

とメッセージを送った。すると、ややあって、

「今までありがとう。じゃあ、またどこかで。」

の文字列が目に飛び込んできた。

こうして、わたしの【普通】は、突然に、あまりにも呆気なく幕を閉じた。


その後のことは、実はあまりよく覚えていない。

病状が悪化の一途をたどり、入退院を繰り返してしまったりして、何がなんだかわからないうちに時間だけが過ぎていった。
しかし、そうして時間が経つうちに、もしかしたらわたしの中でなにかが変わってしまったのかもしれなかった。

彼と別れてから、性的なものに対する拒絶反応が極端にひどくなっていった。

セックス、性行為、性的接触、といったワードは、自分の中では完全にアウト。想像しただけでもゾッとする。

そして、性行為を連想させるようなことも、やっぱりアウト。特に、「妊娠」と「出産」と言うワードはわたしの中では禁忌に近く、セックスというワードを聞いたときと同じように、その言葉を聞いただけで「汚い」とか、「気持ち悪い」というイメージが頭にこびりついて離れなくなる。そして、食欲が減ったり眠れなくなったり、食べても吐いてしまったりと、完全にココロのバランスを保てなくなる。

そしてその、妊娠だとか出産だとかいう、いわば【普通】のトピックに関してわたしがもうひとつ思うのは、

「わたしには絶対にできない」

という絶望と、それができる人への強烈なまでの嫉妬心だ。


前にどこかの記事で書いたが、わたしはバイセクシャルだ。
…いや、「だった」という方が、もしかしたら正しいのかもしれない。
もともとのわたしは、男性も女性も同じだけ好きになる可能性のある人間だった。

ところが。

何年も前にその彼と別れてからは、男性と交際すること自体想像できなくなったし、「こわい」と思うようになってしまった。

男性と仲良くすることも、おしゃべりすることも、平気。でも、男性と交際するのはこわい。

交際すれば、セックスだって避けては通れないし、もし仮に結婚するとなったら子どもの話も出てくるだろう。それは自分にとっては甚だ恐怖だし、想像したくもない。

だからいまのわたしは【限りなくレズビアンに近いバイセクシャル】だ。

女性とお付き合いしている方が圧倒的に落ち着くし、何故か性的なものへの不安も消えてしまう。同性同士なので、結婚も妊娠も出産もトピックとしてありえないものだから、安心するのかもしれない。

でも。

確かにわたしは、その彼と一緒にいた頃、結婚もしたかったし、子供だってほしいと思っていた。
そして別れて、そんな気持ちなんてもとからなかったかのように振る舞っていた。他のことで充実していればそれは【わたしなりのしあわせ】になるし、実際に主治医のさくら先生からも

「おおかみさんにとって、結婚したり、子供を持ったり、それから、仕事をバリバリやるようなバリキャリになったりするのって、目標じゃないでしょ?どうしてそういう人たちと比べて辛くなってしまうの?おおかみさんのしあわせが保たれているなら、それでいいんじゃないですか?」

と、言われたことがあった。

わたしは、確かにそれもそうだと、その考えを受け入れて自分にできることをやってきた。
合う仕事も見つかってつつがなく続けられているし、念願だった人形劇の公演も、既に2箇所が決まっていて、これから本格的に活動を始められそうなくらいになっている。

でも。

わたしの気持ちは…【普通のしあわせ】…つまり、誰か素敵な男性と結婚して、子供を持って…というその夢みたいなものが、完全に消えたわけではなかったらしい。

いまのわたしは、男性と交際するのは限りなく不可能に近い。だから、そんな夢を叶えることも、やっぱり限りなく不可能に近い。

そして。

わたしの周りでは、同期やら先輩やら後輩やらがどんどん結婚して、家庭を持って、子供が生まれました、もう3歳で手がかかって大変です…と、ニコニコしあわせそうに語るのだ。

これが、いかにわたしにとって苦痛で屈辱的なことか、きっとわかってくれる人はいないと思う。

「ああ、あなたも、あなたも、あなたまで、わたしの絶対にできないことをして、しあわせな人生を歩むのね」

わたしのココロの中は途端に真っ黒になる。

そのたびに、「わたしだっていろいろ頑張ってる。しあわせじゃん。それはその人のしあわせなんだよ。あなたはもっと自分のしあわせを思い出して」と、自分で自分に何度も何度も声をかけ続けてきた。

それで、屈辱を感じたココロが休まるわけでも、なんでもなかった。
誤魔化しに誤魔化しを重ねただけだった。

そしてとうとう、わたしのココロはポキリ、と音を立てて折れてしまった。


不意に涙が出る。
身体の強烈な震えが止まらない。
眠れないし眠りが浅い。
食欲がまったく無く、食べるのが苦痛。
食べたものを吐いてしまう。
常に胃痛腹痛が絶えない。
動悸が頻繁にする…


もう、疲れ果ててしまった。

こんな話、誰かわたしの周りにいる人に聞いてもらうなんて不可能だ。
それに、もし話せたとしても、何も解決することができない。気持ちが軽くなることすらないだろう。


まさか、自分がこんなおかしなダメージの受け方をしてしまうなんて。
完全に盲点だった。

世の中には「性嫌悪症」なるものが存在するらしい。そしてそれは、精神科や心療内科で治療ができるものらしい。

わたしのそれが、治療を必要とするほど重症のものなのかはわからない。
でも、とにかく、事あるごとに、つらすぎる。
何も感じなくなる薬があればいいのに、とすら思ってしまう。感覚鈍麻になれたら、どんなにか楽か、と思う。


もう、ひとりで抱えきれない。
でも、ひとりで抱えるしかない。






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