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小児科で男性医師に「お母さんは女性だからわからない」と言われた話

息子が生まれたばかりの頃、「男の子の育児」という本は、「女の子の育児」という本よりよく売れるという話を聞いた。

なぜなら、母親はみんな女性だから。

自分は「女」だから「男」の考えることがわからない、育て方がわからないと思う母親たちに「男の子の育児」と題した本が売れる、というのがそのからくりなのだとか。

そのときは、そんなものかな?と思った。
男の子だからわからないとか、女の子だからわかるとか、そんなことってあるのかな。自分とは違う個体である以上、男の子も女の子も同じように「わからない」ものじゃないのかな。そんなことに男女差はないんじゃないかな。そう思っていた。

息子が生後2ヶ月のとき、はじめて近所の小児科を訪れた。
とても親切な年配の男性医師が、やさしく息子に語りかけながらていねいに診察してくださった。

「心配事はありますか?」と聞かれたので、産院で受けた1ヶ月健診のとき、息子が「陰のう水腫」と診断されたことを話した。

陰のう水腫とは、読んで字のごとく陰のうに液体がたまって、膨らんだ状態になることだそう。(詳しく知りたい人は、google先生に聞いて!)

はじめて聞いたときは、なんじゃそりゃと思った。そんなことがあるんかいな。
産院の医師には、「よくあることなので。自然となくなる(?)ことのほうが多いですよ」と言われた。はー、そういうもんですか、はいはい。

わたしから息子が陰のう水腫であったことを聞いた年配の男性医師は、「様子はどうですか?大きくなったとか、小さくなったとか」と、質問する。

は?

大きくなったとか?小さくなったとか?

何が?(答え:もちろん陰のうが!!)

あー、えーと、

やば。

産院の医師に「よくあることなんで」と言われたことにすっかり安心してた。
あー、観察しなきゃなやつだった。え、様子見ろなんて言われたっけ?…言われたかも…言われただろうなー、言われるよなー、そりゃ。いや、言われなくても気にしてなきゃなやつだったね。はいはい、わたしがね、わたしが見るべきなやつだったね。親なんだから当たり前だよね。
えーっと、じゃあ、もう何もしてなかったわたし、親失格ってことでいいかな?

完全にパニック。頭ん中、真っ白。

だけど、待って。

あ!これって、もしかして!もしかして!!!!

「あ!先生!」

医師からの予想もしなかった(しとけ)質問に焦りつつ、足りない頭をフル回転させて、そりゃもうドラム式洗濯機みたいにぐわんぐわん回転させて、そう、ひとつの!ひとつの「思い当たるふし」を見つけた!!

もう絶対これ、模範解答なんだけど。
ええ、わたし母親ですから。しっかり見てましたよ、息子の陰のう。ノーベルなんとか賞くらいもらっていんじゃない?ってくらい、ちゃんっっっと観察してましたとも。

「先生…お風呂上がりにいつも大きくなるんですよ。しばらくすると元に戻るんですけど、またお風呂に入ると大きくなるんです…」

年配の男性医師は、とても真剣にわたしの話を聞いてくれた。

あー、これ、このお母さんは本当によくお子さんのことをみているって思われっちゃってんじゃなーい?わたし、そんじょそこらのママじゃないからね!
巷で噂の「息子の陰のうしっかりチェックママ」だからね!

「お母さんね、」

医師は静かにこう言った。

「お母さんは女性だからわからないと思うんだけど」

え?

なに?

「私も含めてね、成人男性もみんなそうなんですよ。陰のうはあたたかいと伸びて、寒いときには縮むんです。みんな、そうなんですよ」

嘘…だろ…。

衝撃すぎた。知らなかった。

義務教育ちゃんと受けてきたのに。四年制大学卒業して、普通自動車第一種運転免許も一発合格だったのに。そんなことまったく知らずに生きてきた。

わたしがこれまでの人生で得てきた知識、なーーーんの役にも立たなかった!!

こ、これが…「男の子育児」!!!!

件の陰のう水腫については、とくに問題ないと言ってもらえた。

んだけどさー!あまりにもショックで。
その夜帰宅した夫にこの衝撃的な出来事を話して、そんでもって言ってやった。

「なんで教えてくれなかったの?」

そう。夫さえ、風呂上がりに陰のう伸びてるのは普通のことだからーって言っててくれれば、わたしが小児科でできる母親ぶって赤っ恥かくこともなかったのに!「息子の陰のうしっかりチェックママ」なんつー小っ恥ずかしい肩書き思いつくこともなかったのに!

「え、そんなこと知らないと思わなかった。男からしたら当たり前のことすぎて」

はい、落とし穴ー!!!!

女であるわたしは知りもしなかったことだけど、男である夫には当然のことすぎて、まさかそんなことを「知らない」なんて思いもしなかったというね。

オーケー、了解。
あるある。あるよね、そういうこと。自分が知ってるからって、当然相手も知ってる前提で話進んでっちゃうやつね。あるある。

もうね、この一件以来、息子の「おシモ事情」については、完全に夫に任せきりにしている。

どれだけわたしが心を配ったところで、理解できないものはできない。
知らないんだもん。その「当たり前」を知らない。

「男の子育児」の不明点は、「男の子経験」のある者に委ねる。
これ以上の答え、ないよね。わたしが必死こいて「男の子の育児」なんて本、どれだけ読み漁っても得られない知識があるのよ。情緒がどうとかそんなことどうでもいいから、育児書さまはもっと大事なこと教えてくれ。「男の子の陰のうはあたたまると伸びる」って書いといてくれ!わたしたちが知りたいのは、そういうことだ!

だけど、こういうことを早々に経験できてよかった。
息子に対して、わたしは女だからあなたのことがわからない、なんて言うつもりはないし、男だとか女だとか関係なく「個人」として息子を育てていく気満々ではあるけど。知らねーもんは、知らねー。わからねーもんは、わからねー。

親だからって何でも知ってるわけじゃない。すべてをわかってあげられるわけでもない。ひとりで子育てなんてできるわけない。だって、自分は完璧じゃないから。
だから、必死で頭使って、経験積んで、周りのひとの知識や経験にも頼って、子育てしていく。わたしはこのとき、そう決めたんだ。

頼りにしてるよ!わたしの周りのひとたち!これからもよろしく!

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