見出し画像

[69]道端のサンマ

過去泳ぎ

未来彷徨さまよう我が心

今に釘打つ道端のサンマ


▶▶YouTube

不満のない仕事なんてない。
どこか妥協するのが当然だ。
この程度なら悪くない。

一年前の今頃、
私は会社員で、
そんな風に考えて仕事をしていた。

お客様はとてもいい方ばかりで、
感謝と笑顔が溢れる現場だった。
私にはそこが一番大事だったし、
この仕事を愛し、いくらでも努力できた。
そして、
会社に所属することが当たり前だとも思っていた。

しかし、
だからこそ、
澱のようにつもっていく違和感を
見てみぬふりしていたのだろう。
当時の私を振り返るとそんな風に感じる。

一年後、
私は会社を辞めて自由になった。

退社直後、
これまで会社という仕組みに自分を合わせるために
押し殺してきた感受性が、
みるみる息を吹き返すのを感じた。
朝の陽射しの美しさを、
立ち昇るコーヒーの香りを、
心から味わい酔いしれた。
私は心身の健康を取り戻していった。

そして、
心身が回復して自由な生活にも慣れたころ、
この生活に居心地の悪さを感じ始めた。

以前の仕事の繁忙期を迎えていた。
退社後ぽつぽつとあった元同僚やお客様からの連絡も
なくなって久しいのに、
自分に自由を与えると決めたのに、
今頃同僚やお客様はどうしているだろうかと想像し、
働いていないことに罪悪感を感じ始めた。
今後どんな人生を歩んでいこうかと、
レールを外れた自由さより、
レールがないことへの不安を感じ始めた。

そんなふうに心はふらふらと彷徨っていたが、
朝夕の散歩は続けていた。

暗い夜空を背景にオレンジ色の街燈が並び輝く。
いつもの散歩コースを歩いていると、
道端に、
磨かれた金属のように美しく白銀に光る
細長い物が落ちていた。
気になって近づいてみる。

…サンマだ。

え?サンマ?

音が聞こえるのではないかと思うほど大きく息を吸い込んで、
そして噴き出して笑ってしまった。
久しぶりに心が軽くなったことに気付いた。
ここしばらく、心は過去に未来に彷徨って自らを苦しめていた。
そうだ。
私は、店から飛び出したのだ。
どこへでも自由に泳いでいくことを選んだのだった。
私は、今を取り戻していた。


▶▶YouTube


いつもありがとうございます💕励みになります♪ これからもホッと和む記事を投稿します♪