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メギド72ユーザー必見!ストーリーの謎を解くカギは『フランケンシュタイン』の怪物!!

『メギド72』の物語は、構造面においていくつかの作品を前提として再構築されていると考えられます

たとえば、過去のnoteや動画などで紹介してきた、ミルトンの『失楽園』と『メギド72』の関係などがその1つです

これまでのnoteなどで紹介してきたように、外部テキストとの比較は『メギド72』の物語をより深く読み解こうと思った場合に非常に重要な役割を果たしています

元ネタとなる作品と加工された物語を比較することで、それら作品間にある差から、なんらかの演出意図を探ることが出来ると考えられるからです

なので、今回はさらにもう一歩踏み込んだ考察をするために、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』と『メギド72』の関係について紹介していきたいと思っています

以降「メインストーリー9章90話」および「フルーレティ(カウンター)・キャラクターストーリー」のネタバレを含みます
ご了承ください

それではやっていきます


でも、読んだことないよ……

『メギド72』とメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』の関連点を指摘する前に、『フランケンシュタイン』をあまりよく知らないし、読んだこともない、という人もいると思うので、まずは前提の共有として、そもそも『フランケンシュタイン』とはどんな作品なのか解説してみたいと思います

概要

フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス(Frankenstein; or, The Modern Prometheus)』は、1817年にメアリー・シェリーという女性が20歳の時に書き上げたゴシック小説です

複数の印刷所から断られてしまい、当時著名な詩人であった夫のパーシー・ビッシ・シェリーの書いた前書きを付け加え、匿名で出版することを条件に、翌年1818年に印刷されました

そこから13年後の1831年に出版された『フランケンシュタイン』第3版で初めて、著者名が書かれた状態で出版されています

この『フランケンシュタイン』という語は現在では「怪物」の代名詞となっていますが、実際には「怪物」ではなく、怪物の生みの親の名前であり、「怪物」には名前がありません

物語のあらすじを簡単に説明すると、名家の青年ヴィクター・フランケンシュタインが生命の神秘を解明し、"理想の人間"を創造しようと試みますが、結果として自らの手で生み出した"怪物"によって破滅していく……という感じです

作品の形式にも工夫がみられ、北極探検隊の隊長ロバート・ウォルトンからその姉マーガレットへ送られた手紙という形式を採用しており、フランケンシュタインとの出会いを通じて、運命を大きく翻弄されたウォルトンの内面の変化がまざまざと描かれています

1818年に出版に出版された古い作品であるため、英文はパブリック・ドメインとしてwikisourceに掲載されており、また宍戸儀一氏によって翻訳された『フランケンシュタイン』は青空文庫に掲載されているので、無料で読むことも可能です

ただ、もしも『フランケンシュタイン』を読んでみたいのであれば、一応、新潮文庫の芹沢恵訳や、角川文庫の田内志文訳が比較的最近翻訳されたモノのなので読みやすいと思います

可能であれば読んでもらえると嬉しいのですが、それが難しい場合は次に説明する「怪物」のモチーフについてだけでも把握しておけば、今回の話の全体像はつかめると思います

重要なモチーフ

『フランケンシュタイン』と『メギド72』を比較する際に、特に注目したいのは「怪物」というモチーフについてです

フランケンシュタインに登場する「怪物」は「完全な人間を目指して」「人為的に造られた存在」であり、また「名前のない存在」で「創造主を恨んで」います

ですから、『フランケンシュタイン』を作品内で利用する場合、これらの要素をいくつか満たすことになります

「怪物」のモチーフが満たす条件については『ミュウツーの逆襲』と『フランケンシュタイン』の関係性を意識すると感覚が掴みやすいと思います

というのも、ミュウツーは幻のポケモンミュウの遺伝子を利用して、「最強のポケモンとして」、「人間によって造り出されたポケモン」であり、「人間に対して逆襲することを誓っています

このことから『フランケンシュタイン』の「怪物」が念頭におかれてデザインされたポケモンであることが分かるかと思います

「怪物」のモチーフが利用してキャラクターが作られている場合に需要なことは、単にモチーフとして利用されている、というだけではなく、『フランケンシュタイン』の「化物」の持っている複雑な心理的な状況を念頭にしていることが多いという点です

『フランケンシュタイン』の「怪物」は、単純な破壊者や復讐者ではありません

彼は心優しい一面や理知的な一面を持ち、世間からの拒絶に対して深い悲しみと絶望に苦しむ孤独な存在です

彼自身がどうあろうとしたのかとは別に、彼はその呪われた出自によって不幸で惨めな存在として生きるしかなく、それ故に創造主であるフランケンシュタインに対して復讐することになったのです

ですから、「怪物」のモチーフが利用してキャラクターが作られている場合、『フランケンシュタイン』の「化物」の持っている複雑な心理的な状況を意識して読むことで、そのキャラクターの持つ心理的な状況をより正確に読み解くことが可能になるはずです

失楽園との関連

さらに深堀りしておくと、『フランケンシュタイン』は、ミルトンの『失楽園』と関係深い作品でもあります

『フランケンシュタイン』とミルトンの『失楽園』の関連を示す要素として、『フランケンシュタイン』の作中で、怪物は自身をミルトンの『失楽園』に登場するアダムに喩えつつ、堕落天使Satan(サタン・神の敵を意味する。)のようでもある、という発言をしています

わたしは、あんたに造られたもので、あんたのアダムというところなのだが、どちらかというと、悪いこともしないのに悦びを奪われた堕天使ですよ。

I am thy creature; I ought to be thy Adam; but I am rather the fallen angel, whom thou drivest from joy for no misdeed.

『フランケンシュタイン』CHAPTER X.より引用

また『フランケンシュタイン』では題辞として『失楽園』から、アダムの次のセリフを引用しています

※題辞とは作品を象徴する言葉として各章の初めに別の作品や偉人の言葉から引用された表現のことです

Did I request thee, Maker,
from my Clay To mould me Man,
did I sollicite thee From darkness to promote me, or here place

(創りの主よ、
私は土塊から人にして欲しいと頼んだでしょうか?
闇からここへ連れ出して欲しいと願ったでしょうか?)

『失楽園』・『フランケンシュタイン』題辞より引用

『メギド72 』と『フランケンシュタイン』の関連について考える場合、ミルトンの『失楽園』との関連を意識しておくとより理解しやすいはずです

『メギド72』と『失楽園』の関連についてはこちらの記事を参照してください

よりテキストを深く読み解こうと考えた場合に、それぞれの作品の関係性は重要になると考えられますが、とりあえずここでは『メギド72』と『失楽園』、『メギド72』と『フランケンシュタイン』、『失楽園』と『フランケンシュタイン』が相互に関係しているかも……?と受け取ってもらえたら嬉しいです

メギド72とフランケンシュタインの関係

『フランケンシュタイン』が大体なんとなくどんな作品なのかを分かってもらったと思うので、『メギド72』との関連について触れていきたいと思います

先生!次の連載のテーマってもしかして……禁断の愛ですか?

『メギド72』と『フランケンシュタイン』の決定的な共通点として、フルーレティの存在が挙げられます

というのも、彼女のペンネーム「メアリー・チェリー」は、『フランケンシュタイン』の作者「メアリー・シェリー」を明らかに意識して名付けられているはずだからです

また、著者の名前だけでなく、作品についても明確な関連が見られます

「メアリー・チェリー」ことフルーレティの代表作は『ジョンドーの怪物』『最後のヴィータ』ですが、これらの作品はメアリー・シェリーの代表作『フランケンシュタイン』最後の人間を意識していると考えられます

『最後の人間』と『最後のヴィータ』は明らかに関係することが分かると思いますが、『フランケンシュタイン』と『ジョンドーの怪物』は直観的にはわかりづらいかもしれません

『ジョンドーの怪物』のジョンドゥとは身元不明の男性を表す単語で、女性の場合はジェーンドゥと呼びます(ジェーンドゥを含むものとしてホラー映画『ジェーン・ドウの解剖』が有名だと思います)

つまり『ジョンドーの怪物』とは名前のない怪物」であり、これは『フランケンシュタイン』に登場する怪物に名前がないことを前提にしている、ということを考えると、二つの作品が関係していることが分かるはずです

このように、フルーレティという人物は明確に『フランケンシュタイン』の著者メアリー・シェリーを意識しており、『メギド72』のストーリー上で重要な役割を果たしている『ジョンドーの怪物』は『フランケンシュタイン』に登場する「名前のない怪物」を指してるのです

……さらに踏み込んで考えると、フルーレティは作中で、メアリー・シェリーのもう一つの代表作である父と娘の近親相姦を扱った『マチルダ』のパロディ作品を執筆する可能性も……一応なくはないと思います

怪物と完全な命

フルーレティという人物が「メアリー・シェリー」のパロディであることは伝わったと思いますが、『メギド72』の物語においてもっと重要なことは『フランケンシュタイン』の怪物のモチーフがハッキリと扱われたメインストーリー9章との関連です

先ほども触れましたが、『フランケンシュタイン』の怪物をモチーフとして利用している場合に、重要な点は「完全な人間」として「人為的に造られた」ことです

なので、人為的に作られ、そして「完全なメギド」となることを望まれたアムドゥスキアスが『ジョンドーの怪物』に対する感想を話している点は非常に興味深いと考えられます

フルーレティ(カウンター)・キャラクターストーリー8話
フルーレティ(カウンター)・キャラクターストーリー8話

さらに興味深い点として、メインストーリー・ステージ87、「魂なき黒き半身」との専用ボス戦曲の楽曲タイトル「愛しき「半身」」は『フランケンシュタイン』の以下の表現を前提としていると考えられます

同感です。私たちは、自分よりも賢くて優れた、もっと値うちのあるもの――友だちとはそうしたものであるはずですが――が手を貸して私たちの弱い過ちの多い性質を完全なものにしてくれないとしたら、まだ半分しか出来上らない未定形の生きものなのです。

we are unfashioned creatures, but half made up, if one wiser, better, dearer than ourselves—such a friend ought to be—do not lend his aid to perfectionate our weak and faulty natures.

『フランケンシュタイン』letter4より引用

また、『フランケンシュタイン』のdearer・half(愛しい・半身)という表現は『失楽園』の以下の表現を前提としています

イーヴよ、わたし自身の像(すがた)を示す美しき者よ、愛すべきわが半身よ!

Best Image of my self and dearer half,

ミルトン『失楽園』book5より引用

『失楽園』におけるイブとは、アダムという男性の肋骨から作られた女性であり、アダムの欠落を埋めることのできる唯一の存在です

根源を同じくしていて、対立する属性をもつ2者という関係は『メギド72』の物語にとってとても重要な要素だと思われます

また、追放メギドとしてのアムドゥスキアス(ソーラ)にとって、もう一人のメギドのアムドゥスキアスがそうであったように、『メギド72』のストーリーでは自身の欠落を埋めることのできる存在との融合によって、完全な命になる……というモチーフが繰り返し登場しています

ここで重要なことは、『フランケンシュタイン』の「怪物」とアムドゥスキアスが様々な面で一致している点ではなく、そこにある差異だと僕は考えています

たとえば、『フランケンシュタイン』において、「怪物」は自身の伴侶となる存在を造るという約束を創造主であるヴィクターに破棄されたことで、絶望と復讐心から叫び声をあげています

怪物に、自分のこのさきの幸福はそれが居るかどうかできまると考えていたものを、私が壊してしまったのを見て、悪鬼のような絶望と復讐のわめき声をあげて引き下がった。

The wretch saw me destroy the creature on whose future existence he depended for happiness, and, with a howl of devilish despair and revenge, withdrew.

『フランケンシュタイン』CHAPTER XX.より引用

自分自身の欠落を埋めることのできる唯一の存在を目の前で失う悲しみを描いたこの表現を意識することで、『メギド72』の表現と差異があることで、かえってその表現がされた理由を考えることが出来るはずです

これらことを意識することで、『メギド72』の物語をより深く読み込もうと感じていただけたら嬉しいですし、また、読みなおすキッカケになったら嬉しいです

感想

ということで、今回は『メギド72』と『フランケンシュタイン』の関係についてざっと説明しました

楽しんでもらえたでしょうか?

今回扱った内容はあくまでも触りだけであり、より深く考察したい場合、それぞれの作品について読み込む必要があります

ただ、今回のnoteでは『フランケンシュタイン』を読んだことのない人もなんとなく内容が掴めることを目標としたので、その関係で紹介しきれていない部分も多いので、ぜひこのnoteをきっかけに『フランケンシュタイン』を読んで、実際に自分自身で『メギド72』での表現と比較してもらえると嬉しいです

『フランケンシュタイン』の影響はメインストーリー9章だけでなく、ほかのイベントストーリーなどでも見つけることが出来るので、ぜひそちらについても考えてもらえると嬉しいです

今回扱った題材は、過去に動画として投稿したものの、映像の面でイマイチ納得できなくて削除したモノを文章として、より多くの人に知ってもらいたいと考え、構成し直したモノになります

削るべき所が多いと判断した結果、却って説明不足な所も出てきてしまったような気がするので、様子を見て修正して、出来るだけ多くの人に、しっかりと内容が伝わるようにしたいと考えています

なので、なにか気になった点・分からないこと・聞いてみたいこと・話してみたいことなどがございましたら、どんな小さなことでも構わないので、マシュマロやXのDM・リプライなどを送ってもらえると嬉しいです!

あと、今後の考察活動の参考にしたいため、アンケートのご協力をお願いしています!!

下記のグーグルフォームを送信してもらえると嬉しいです

基本的には数字を選択する5分程度で終わる簡単なアンケートなので、ぜひ回答してもらえると嬉しいです(メールアドレスの収集なども行っていないので、純粋に感じたように回答してもらえたら嬉しいです)

それではまた、別のところでお会いしましょう
コンゴトモヨロシク……。

参考文献

『メギド72』
メインストーリーおよびフルーレティ(カウンター)・キャラクターストーリーを参考にしました

Paradise Lost
『失楽園』の英語テキストとしてダートマス大学ミルトン読書室を参考にしました

失楽園
『失楽園』の日本語テキストとして岩波文庫の平井正穂訳を参考にしました。

『Frankenstein, or the Modern Prometheus 』(Revised Edition, 1831)
 『フランケンシュタイン』の英語テキストとしてウィキソースを参考にしました

『フランケンシュタイン』
『フランケンシュタイン』の日本語テキストとして創元推理文庫の森下弓子訳を主に参考にしました
ただし、本文では青空文庫になっている宍戸儀一訳を引用しました

口語訳聖書(1955年訳)
直接の引用はしていませんが、参考にしました

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