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『メギド72』の物語を一歩踏み込んで読むために
『メギド72』はストーリーが評価されているソーシャルゲームの1つです。
2019年の日本ゲーム大賞・年間作品部門・優秀賞に受賞した際の選考理由の1つに「重厚かつ秀逸なストーリー展開」が挙げれていますし、メギドのテキストを読んだことがあれば、その面白さはご存じかと思います。
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面白いと感じる方が多いわけですから、ライターがどのような思いでそれを書いたのか、どのような発想をもって描いているのか、ということについて興味を持っている方は少なくないはずです。
作品を書くに当たっての心構えや参考にしているの物が分かればライターの意図を読み解けるかもしれない、次の展開を当てることでライターの考えとシンクロしたような気分に浸りたい……、こうした思いがあるからこそ、展開を予想したり、感想の投稿や共有などが盛んにおこなわれているのだと思います。
しかし僕は、9割近くの人が「『メギド72』のテキスト面での面白さを、半分以上見落としている」と考えています。
これは、文章の読解能力が低い人が多いだとか、文章を読むために使える時間が少ないために雑に読んでしまっている人が多い、という事ではなくて、『メギド72』のテキストを読むに当たって意識するべきことがスッポリと抜けてしまっていることに起因します。
前提となることが分かっていないために、どれだけ真剣に読んでいても読み取るべきことに辿り着けず、時間や労力が報われずにいるのです。
ただ、これは別に多くの読者が悪い訳でも、もちろんライターが悪い訳でもなく、むしろ読解を他人に勧める立場の人間や、これまでの考察を紹介する立場の人間が説明するべきことを説明してこなかったからです。
今回のnoteで紹介する内容をしっかりと理解すれば、『メギド72』の物語の中で描かれていることがなんであるのか、どんな意図をもってライターはその表現を行っているのか、考えることが可能になるはずです。
今回のnoteに関連して、すこしでも疑問に感じたことや、分からない部分がありましたら、Twitterのリプライ・DMか、ましゅまろの方へ質問を投稿してもらえると嬉しいです。
前置きが長くなってしまいましたが、最後までお付き合いの程、よろしくお願いします。
『メギド72』を読む上での前提
冒頭でも述べましたが『メギド72』は優れた物語が評価されているソーシャルゲームの1つです。
しかし、『メギド72』のテキストは、主人公ソロモンを中心とした会話劇で描かれているため、物語の中で語られていることが必ずしも真実であるとは限りません。
1人称視点で語られる会話劇という性質上、Aのキャラクターがこのように思った・言っていた・見えた・聞いた、ということしか読者は知りえないのです。
ですから、仮に慎重にテキストを読み進めたとしても、その後の展開によって条件が覆される可能性があります。
むろん、そうした特性を補完するためにWEBページ上で設定を開示したり、メギド質問箱という企画が行われており、そこで「設定」を確認することが可能です。
ただ、こうした確認作業だけでは、結局のところは物語の中で扱われていることのごく一部しか切り取りだすことが出来ず、ライターがどうしてそんな表現をしたのか、何を考えているのか、ということを予測するには材料があまりにも足りません。
そうした判断材料が少ない中での考察・読解というものはどうしても独りよがりになってしまったり、多くの人にとって支持されやすい考え方が拡散されやすくなってしまい、考察・読解を試みた最初の理由である「何が書かれているのか・どうしてそう書かれたのか、を知りたい」という気持ちが、いつの間にか忘れられてしまいがちです。
このため、「根本的に視点を変える必要がある」と僕は考えています。
たとえば、『メギド72』が別のテキストを参照していたとしたらどうでしょうか?
元となる素材があって、それがどんなものか知っていれば、どこがどう変えられたのか、誰でも分かるようになるはずです。
またそれは「なぜ変えられた」のかを考えることが出来るようになる、ということを意味するはずです。
そして、僕は『メギド72』がミルトンの『失楽園』を題材の1つにしていると考えています。
ということで今回noteでは、「ダムロックの名前の由来」「パラジスの性質と名前」「追放メギドに関する設定」の3点に関して、それぞれとミルトンの『失楽園』の関連を説明することで、『メギド72』がミルトンの『失楽園』を題材の1つにしているということを感じてもらえたら嬉しいです。
いや、そもそもミルトンの『失楽園』ってなによ?
……と、ここで本題に入る前に、そもそもミルトンの『失楽園』とは一体どんな作品なのか、確認しておこうと思います。
まず、多くの日本人にとって、ミルトンの『失楽園』は、あまり聞きなじみのない作品だと思います。
仮に聞いたことがあったとしても、「なんとなく古い海外の文学作品で、難解そう」「宗教的なことを扱っててよくわからない」といった印象を受け、実際に読んだことのある人はほとんどいないはずです。
少なくとも僕自身は宗教にまつわる海外の文学作品に苦手意識があり、ミルトンの『失楽園』は『メギド72』の考察をするに当たって読み始めており、それ以前は、自分とは縁のない作品だと考えていました。
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ただ、今回のnoteを最後まで読めば「『メギド72』がミルトンの『失楽園』を題材の1つにしている」と思ってもらえると思うので、ここから説明する作品に関する概要と、作品のあらすじをなんとなく把握してもらえたら嬉しいです。
(すこしディープな題材となっているので、何度も見返して内容を理解してもらえると嬉しいです。)
『失楽園』の概要
ミルトンの『失楽園』とは、イギリスを代表するキリスト教の聖書を題材とした文学作品です。
旧約聖書『創世記』2章ー3章などを前提とした叙事詩で、神による世界の創造・堕落した天使による神に対する叛逆・楽園に暮らしていた人類の誕生と堕落による追放を描いています。
『失楽園』のあらすじ
読んだことのない方が大半だと思うので、あらすじをざっと紹介しようと思います。
(叙事詩は時系列ごとに書かれていないので、実際には書かれている順番は次の通りではありません。)
この世界を創造した神は自身の後継者として自分の息子(イエス・キリスト)を指名します。しかし天使の1人ルシファーはそれを了承できず、天界の1/3の勢力を引き連れて叛逆しますが、神の息子の操る雷によって退けられ、仲間たちと一緒に地獄へ逃げ込みます。
地獄に逃げ込んだ堕落した天使たちは、これからの方針について会議します。様々な意見が出る中、神の敵サタンとなったルシファーは、神によって新しく人間という生き物が作られるらしいから、それを利用して神へ復讐することを計画しており、それを一人で実行すると宣言します。
神は自分に似た姿でアダムという男の人間を創り出します。アダムは様々な生き物の頂点となって彼らに名前を与えますが、自分の伴侶となり得る存在がいないことに気づき、神に対して女の人間を作って欲しいと願い出ます。神はそれを了承して、アダムの肋骨を利用してイブという女の人間を創り出され、二人はエデンにある楽園で暮らします。
地獄を抜け出して人間の住む楽園へとやって来たサタン(ルシファー)は「善と悪の知恵を知る木の実を食べてはいけない、食べると死ぬ」という約束が神と人間の間にあることを知り、それを利用することで神へ復讐することが出来ると考え、蛇の体に入り込んで、1人になったイブを唆し、そして木の実を食べさせます。
木の実を食べたイブは、一人で死ぬことを恐れて夫であるアダムにも食べるように勧めます。アダムは苦悩の末にそれを了承して食べます。堕落した二人ははじめの内こそ高揚感を味わいますが、やがて互いに互いを責め合います。そこへ神の代理として神の息子がやってきて、蛇、女、男に対してそれぞれ罰を与えます。
サタン(ルシファー)は地獄へ戻り、計画の成功を報告しますが、周囲にいる堕落した天使たちは神の息子の宣言した通りに、次々に蛇の姿となり、のたうちまわります。自身も同じように体が変化し、望むようにしゃべることが出来ない状態となり、叶うことのない欲望に振り回され、苦しみ続けることになります。
一方で、人間たちは口論の末に自分たちの行いの原因が自分自身の傲りによるものだと気づき、心の底から悔い改めて涙を流して祈りを捧げます。彼らの祈りは天界へ届きますが、しかし、堕落してしまったアダムとイブは楽園に置いておくわけにはいかないので、彼らを連れ出すように天使に命令します。天使はアダムに今後起こる未来について説明し、やがて第二のイブと呼ばれるマリアの元に生まれてくるキリストがその罪を贖うことを伝え、彼らを楽園から連れ出します。そして、アダムとイブは生まれ育った楽園から旅立ち、新天地へと向かっていきます
……という物語です。
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全体をおぼえるのは大変だと思うので次に示すモチーフについて把握してもらえればと思います。
神……絶対的な存在・人の親
悪魔……神をねたむ、人を誑かす存在、堕落天使Satan
男と女・人……支え合うべき関係・自分の半身
楽園……苦労せずにすべてが手に入る場所・隔絶された場所
知恵の実・傲慢の罪……守らなければいけない約束
惨めな姿……地を這いつくばる・喋ることができない・蛇
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ダムロックの名前とミルトンの『失楽園』
『メギド72』とミルトンの『失楽園』の関連を示す証拠の1つに、ソロモン王の祖父ダムロックの名前の由来があります。
というのも、ダムロックの名前の由来は「adam(アダム)のアナグラム」だと考えられるからです。
アダムは『失楽園』に登場する、神によって作られた最初の人間の男です。
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アナグラムの手順としては
小文字のアルファベットでadamと書きます。
”a”damの初めにある”a”を左右反転し、mの後ろへ移動させます。
アルファベットの「a」を左右反転させると、数字の「6」のように見えます。
dam6(だむろく)という文字列が得られます。
となります。
ソロモン王の祖父ダムロックは、登場時から謎の多い人物で、さらには名前の由来についても不明であり、少ない記述から考察するしかありませんでした。
しかし、仮にこの説のようにダムロックの名前がアダムに由来すると考えた場合、元ネタとなるアダムについて知ることで、その差異から、ダムロックの性格や、考え、設定について考察することが可能となるはずです。
パラジスと「禁断の果実」
また『メギド72』では、「口から自身の体に取り込むことでフォトンを操る力を得られる代わりに一定期間が過ぎると命を落としてしまう」という性質をもつ寄生型幻獣パラジスが登場しています。
このパラジスの名前の由来は英単語Paradise/パラダイス(楽園)に由来すると考えられます。
このことについて一つ一つ説明していこうと思います。
まず、「パラジス」は経口摂取する事でヴィータでもフォトンの扱いが可能になる幻獣です。
しかし、この強力な作用にはデメリットがあります。魂が汚染され、やがては死んでしまうのです。
この経口摂取という利用方法と、その結果として死んでしまうと言う点に留意しながら、ミルトンの失楽園に登場する「善悪を知る木の実」について確認したいと思います。
人間と神との間で交わされていた唯一約束が「善と悪を知る木の実を食べてはいけない」というものです。
なぜ、この木の実を食べてはいけないかというと、この実を食べると魂が堕落して、死んでしまうからだと説明されています。
このように、パラジスと善悪を知るの木の実は「食べると死んでしまう」という点で、善と悪を知る木の実と類似があります。
また、ここで善悪を知る木のあるとされる場所が重要となります。
善悪を知る木は楽園にありました。
楽園を意味する英語はparadise/パラダイスです。この「パラダイス」のダイをdiに戻して「パラdiス」と書き、それをローマ字読みすると、「パラヂス」と読むことができます。
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追放メギドに関する設定
また、単語レベルの類似だけでなく、物語の根幹を成す設定に関しても、ミルトンの『失楽園』を前提としていると考えられる要素があります。
それは、追放メギドに関する設定です。
そもそも彼らの種族名であるメギドは、新約聖書『ヨハネの黙示録』に登場する地名、ハルマゲドンに由来しています。
この地名ハルマゲドンは、丘を意味する”ハル”と、地名メギドからなる語で、終末思想などの分野では「天使と悪魔の最終戦争」という意味でも使われています。
このことを利用して、『メギド72』では天使ハルマと悪魔メギドによる最終戦争ハルマゲドンという設定が作られたはずです。
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また、多くの追放メギドはマグナレギオに対する叛逆によってメギドラルを追放され、ヴィータに転生したと言われています。
さらに追放メギドたちは、ヴィータへの転⽣を経たことにより、純正メギドとは違う視点で物事を判断しています。特に「善と悪」に関しては、ヴィータと近しい性質を持っている……とガブリエルが語っています。
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これは、『失楽園』における追放と知恵の実の関係と対応しているように思います。
例えば、マグナレギオに対する叛逆によってメギドラルから追放されてヴィータに転生するのは、神に対して叛逆したことにより、天界を追われ地獄へ追放され、更に人間を誑かした罪によって蛇の姿に変化させられたルシファーたち堕落した天使と重なります。
また、ヴィータへの転生を経たことで善と悪の判断する心を持ったという点は、知恵の実を食べたことで善と悪の判断をするようになる人間と重なるはずです。
このようにメギドという名前や、そして追放メギドの根幹を成すような設定もまた、ミルトンの『失楽園』を前提として作られている、と考えることが出来るはずです。
結論
ということで、今回は『メギド72』の物語を一歩踏み込んで読むためには、ミルトンの『失楽園』について念頭に置いておくことが必要である、という内容を説明させていただきました。
ここまでお付き合い本当にありがとうございました。
今回紹介した「ダムロックの名前の由来」・「パラジスの名前と性能」・「追放メギドに関する設定」の3つの点から、『メギド72』はミルトンの『失楽園』の影響を受けている作品であると言えると僕は考えています。
他にも類似する点は見つけることは出来ますが、重大なネタバレを避けつつ、スッキリと理解するものとして今回扱った3つの事柄がふさわしいと思ったので紹介しました。
冒頭でも説明しましたが、もし仮に『メギド72』がミルトンの『失楽園』の影響を受けているとするのであれば、『メギド72』を考察するための外部テキストとしてミルトンの『失楽園』を参照できる、ということを意味しています。
改めて強調しておきたいのですが、重要なことは全く同じであるという事ではなくて、変更が加えられているということです。
その変更はどんな理由で行われたのか?は人によって受け取り方が違ってくることであると思います。
誰が、誰のために、どのような効果を狙って変更しているのか
この一つ一つを読み解いていくことが、僕が皆様に体験してほしい考察の根幹を成す部分です。
今回説明した事柄がなんとなくでも伝わっていたらうれしいのですが、もし、もっと踏み込んで考察をしてみたい、と思ってくださった方がいましたら、ぜひ、ミルトンの『失楽園』と『メギド72』のテキストを比較してもらえると嬉しいです。
僕自身、発見できていないこともあるので、何か気づいたことなどがあれば、シェアしてもらえると助かります。
また、今回のnoteに関連して、すこしでも疑問に感じたことや、分からない部分がありましたら、Twitterのリプライ・DMか、ましゅまろの方へ質問を投稿してもらえると嬉しいです。
今回扱ったことを踏まえて、僕の他の考察を読んでもらえると、今回扱った内容も含め理解度が深まると思うので、ぜひほかの考察も読んでみてください!
それではまた、別のところでお会いしましょう。
コンゴトモヨロシク。
参考文献
・旧約聖書「創世記」口語訳wikiソース
失楽園の元となる聖書の記述について参考にしました。
・失楽園 平井正穂訳(Amazonの販売ページ)
失楽園の日本語訳テキストとして参考にしました。
・失楽園 ダートマス大学 ミルトン読書室
失楽園の英語テキストとして参考にしました。
・メギド質問箱
ダムロックとソロモンの関係についての記述について参考にしました。
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