見出し画像

いちばんになりたい1

いちばんになりたい。という呪いがある。
それは一見不変な欲望に見える。
スポーツでも業績でもなんでもいちばんになりたい。から練習するし、努力する。

でも、これが「愛情」の話になると少々勝手が違ってくる。

私の母はいつも姉と比べられ、劣等感を感じながら育ったそうだ。

彼女は、いちばんになりたい。のにいちばんになれなかった人。

そんな思いを抱えていたので、母は私以外の子供を産まなかった。私に自分と同じ思いをさせたくなかったらしい。同時に、私という唯一無二のいちばんになれる人。ができた。人間関係も得意ではない母は私を溺愛した。

ある時は赤ん坊をあやすように
ある時はまるでカウンセラーのように
ある時は本当の姉のように
ある時は主治医のように
ある時は愚痴を言い合う伴侶のように

愛情という甘い甘い殻で包まれていたわたしは、母と同じように人間関係がうまく行かなくても、母の胸で泣けば世界は円滑に回っていると思っていた。より母と娘の結束力は高まっていった。

お互いのいちばん。今思えば私の自意識は母に溶け込んでしまっていた。

母に何を話すのも怖くはなかった
 
反抗期は、訪れなかった。

お母さんの可愛い子供でいたいのに女になってしまう体に違和感を持っていた。

優しく、可愛く、元気で、素直に

そういう健康的でティーンエイジャー的な振る舞いが求められれば、そうした。

それは、私にとって、母の自慢の娘でいることにとって、当たり前のことだった。

奈月は自由でいいわね、と母から声をかけられると、なんの縛りもない破天荒な自分に自信が持てた。

本当はいつまでも母に縛りつけられていたにもかかわらず。

県内1、2を争う進学校に入学した。

高い偏差値の学校に通ういとこたちを見返すためだった。母のためだった。

狙い通り母方の祖父母はとても喜んでいた。

満足だった。

関係の終焉はすぐそこまできていたというのに。