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2016年5月の記事一覧

表裏

 掲示板の前には、幾重にも人垣ができている。歓喜に沸くグループもあれば、静かにその場を立ち去る者もいる。健太は、そのやや後方に、こわばった表情で立っていた。彼の地頭の良さとこれまでの努力からみて、合格は疑うべくもないことだったが、それでもやはり緊張は隠せない。少しずつ掲示板に近づき、恐る恐る顔を上げる。健太の表情が、ようやく和らいだ。そして電話をかける。

「あっ、康太。どうだった?」

 電話の

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雪のユキ

一.

「では、『雪』と聞いて連想するものを、言ってみましょう。」

 小さな村にある小学校の国語の授業。子どもたちは、元気よく、競って発言した。

 このクラスに、「ユキ」という名の少女がいる。少し色黒で、元気な小学三年生だ。体は丈夫、性格は活発で、いつも動き回っている。冗談を言って周りを笑わせることも、少しおせっかい気味に人の世話をすることも多く、クラスの太陽のような存在だ。しかし、雪のイメー

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スイッチ

 私には誰にも言えない秘密がある。

 小さいころから表情に乏しく、周りからよく、「怒ってるの?」と言われた。そんな私を一番近くで見守りながら、その状況を不憫に思っていたのは両親だ。医療関係に従事していた父親が闇ルートの情報を入手し、私をA病院へと連れて行ったのが中学二年生のころだった。

 

 そこから私の人生は一変した。ただタイミングを合わせてスイッチを押すだけで、周りからの評価が上がり、特

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知らぬが仏

 木村には、悩みがあった。営業職ということも大きく影響しているが、一日に受け取る名刺の数が膨大だ。日々整理できれば良いのだが、残業も多く、雑務は後回しにしてしまいがちだ。そして、気付いた頃には小一時間ではどうにもならなくなっていて、結局、週末を潰して名刺を整理するという作業を行う。

 ある日、会社から最新型の名刺リーダーなるものが支給された。名刺を機械に読み込むと、あとは五十音順に並べ替え、会社

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