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#51 睡眠による学習の効率化

人は人生の30%を寝て過ごします。

「人生の3割をベット過ごすので、良いベットを買って質の高い睡眠をとりましょう」

なんて話ではありません。人によってはショートスリーパーといって睡眠が5時間未満の方や、9時間以上睡眠をとるロングスリーパーの方など、人により睡眠時間の長短はありますが、皆さん睡眠をとると思います。

その中で「眠っている時間がもったいない」といって意識的に生産性を上げるために、睡眠時間を削る人もいると思います。しかし、作業時間が長くなったからといって本当に生産性は上がるのでしょうか。

遺伝多型によって睡眠時間が少ない人がいますが、あれは先天性のため問題はないといわれます。日本人は働き癖がついているので多く睡眠時間をとっていると働いていないイメージがあり有能に見られない偏見があるため、働き盛りの年代では睡眠時間を実際よりも短く申告する傾向があるといいます。

しかし、科学的にはそんなことはないのです!!

まず、睡眠は必須な生物学的プロセスです。睡眠が実質上すべての動物に認められているという事実がそれを物語っています。実際に睡眠を完全に剥奪すれば必ず死に至りますし、わずかな睡眠不足でも学習・認知機能が低下します。

おわかりの方もいると思いますが、睡眠は単なる休憩ではないのです。作業に匹敵、若しくはそれ以上に大事な行為になります。わたしたちが睡眠をとっている時にも脳は活動しています。そのため、短眠を強調することは、栄養失調や拒食症であることを自慢していることに似て健全ではないのです。

また、先ほどお話した睡眠時間の短い短眠型は人口の5%程度いるといわれます。先天的なものなので遺伝子もいくつか発見されています。たとえば、カルフォルニア大学の博博士らの研究があります。彼らが発見した遺伝子はDEC2というものです。短眠家系で原因遺伝子を追跡しDEC2を割り出しましt。

博博士らは、この短眠型の変異DEC2遺伝子を、ネズミに組み込んでみました。するとネズミの一日の活動時間が2.5時間も延びることがわかりました。同じような現象はハエに組み込んでみたときにも観察されました。どうやら変異DEC2の効果は動物種を超えて普遍的なようです。

しかし、博博士らの発見した遺伝変異は60家系中1家系の頻度でしか見られなかったそうです。つまり、関連遺伝子は他にも存在するこということです。そのためこの遺伝子のみがその原因であることは言い切れません

睡眠と記憶の関係

眠っているあいだは、身体は休息していますが、脳活動を記録してみると、ニューロンはほぼフル活動しています。つまり、脳というのは24時間休みなく活動し続けていることになります。しかし、脳が睡眠時に何をしているかは明快な解が示されておらず決定的にこのような活動をしていると言い切れません。

睡眠の役割はわかっている範囲で「記憶の整序と固定化」といわれます。「レミニセンス現象」と呼ばれるもので、シカゴ大学のブラウン博士らによる研究などがあります。

大学生207名を募って、テレビゲームの成績を測定しました。バーチャル空間を探索し、敵をできるだけ多く倒すというアクションゲームです。ゲームを朝9時に60分練習してもらいます。そして、12時間後の夜の9時に再度ゲームをしてもらいます。すると平均スコアがほぼ50%低下していることがわかりました。訓練後にブランクをおけば成績が低下するのは、日常的に経験していることです。

ところがその後、約7時間の睡眠をとってもらい、翌朝9時に再びテストをすると、前日の訓練直後のレベルまで、ほぼ成績が戻っていることがわかりました。これがレミニセンス効果です。

これにはさらに面白い事実があります。ゲームの訓練を朝9時ではなく、夜の9時に60分間やってもらいます。翌朝9時に再試験をするのです。

すると、同じ12時間のブランクがあるのにもかかわらず、成績が低下するどころか、なんと約20%ほど上昇することがわかりました。これもレミニセンス現象です。こうして睡眠によって増強された能力は、さらに12時間後、翌日の夜9時に再テストしても、保持されたままでした。

この研究で示されたデータは

「睡眠の効果を最大限に利用するためには、起床後の朝ではなく、睡眠直前の夜に習得した方がよい」

ということです。

怠惰思考

眠っている間に「記憶の整序と固定化」が行われているといいましたが、その他の効果として、アイデアのひらめきなどがあるといわれています。

グレアムウォーラスによれば、次の4つのステップからなるといいます。

1 課題に直面する

2 課題を放置する決断をする

3 休止期間を置く

4 解決策がふと思いつく

このステップ3の行為にあたるのは「怠惰思考」と呼ばれ非常に重要だといわれます。問題を放置することは危険な気がしますが、問題解決のアイデアもまた必要な熟成期間があり時間が必要なのです。

つまり、問題をできるだけ早く見つけ出し、意図的に放置期間を設け、自分の脳内コンピューターで処理をし、アイデアが生まれるのを待つ

まさに「果報は寝て待て」ですね。アイデアは運に近いものがあります。それを手繰り寄せるにはそれなりの手順があり、待つことも必要だということです。

しかし、なぜ熟成期間が必要なのでしょうか。カルフォルニア大学のメドニク博士らはRATテストを77人に対して行いました。

RATテストとは、与えられた三つの単語に共通する言葉を探すという試験です。たとえば、「白黒・中国・笹」であればパンダが正解になります。

解答のために長い時間を与えたのですが、起きていた人よりも、睡眠をとった人の方が成績がよいことがわかりました。しかし、長く眠ればよいというのではなく「REM睡眠」と呼ばれる浅い眠りが多い人ほど成績が高くなりました。つまり、必要以上に睡眠を多くとっても意味はなく「質の良い睡眠」が必要なようです。

寝ている間には、浅い眠りと深い眠りが交互に繰り返されます。

分かりやすくいえば、浅い眠りの時には「海馬」がシータ波という脳波を出し、情報の脳内再生を行っています。逆に、深い眠りの時には「大脳皮質」がデルタ波を出し、記憶としての保存をする作業を行っています。

つまり、寝ている間には、記憶の「整理」と「定着」が交互に行われているのです。2006年、ドイツのリューベック大学のボルン博士らは、13人の被験者を集って「単語ペア記憶テスト」を行いました。「自転車ークジラ」「トカゲー紅茶」のように意味として関連のない単語ペアを就寝前に46組覚えてもらいます。

暗記するのは難しいのですが、正解率60%覚えられれば合格として、回答までに睡眠をとっても良いことにしました。実験に参加したのは医学生だったこともあり平均37個の単語を覚えることができました。

翌朝7時に起床して再試験を行うと、正解した単語ペアは二つ増えて平均39個になりました。これはレミニセンス現象ですね。

しかしボルン博士らは、デルタ波がより強く出る処置を脳に施しました

すると、深い眠りのときに電気刺激を受けた被験者では、思い出すことのできる単語ペアが四つも増えて、平均41個になりました

記憶の保存が強化されたのです。

このように睡眠は大きな役割をしているようです。わたしたちは時間を有効に使うことで生活をより生産的に快適に過ごすことができます。時間に追われる毎日を過ごしているのであれば、効果的に睡眠を利用し脳のスキル利用して生産性を上げるのもひとつの方法かもしれません。

アメリカの大規模調査では睡眠時間が7時間の人が最も死亡率が低く長寿でした。短い睡眠が健康にとってリスクというのは理解できるかもしれませんが、8時間を超える睡眠時間の人は死亡リスクが上昇するという結果がでています。

しかし、短絡的に睡眠を7時間にすることが最適ではないことは明白です。それは、年齢により必要な睡眠時間が違うことと、遺伝により睡眠の最適時間が違うからです。つまり、その人の遺伝的要素、年齢、環境により最適解が異なるのが現実的でしょう。

まとめ

①睡眠は「記憶の整序と固定化」をおこなっている。
②眠りには質が重要であり、浅い眠りは「海馬」がシータ波を、深い眠りは「大脳皮質」がデルタ波を出している。
③浅い眠りは記憶の整理を担当し、深い眠りは記憶の固定化を担当している。

睡眠を上手に活用したいですね。

                              おわり

参考文献「脳には妙なクセがある 池谷裕二著」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

via myroomさん画像を使用させて頂きました。

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no.51 2021.1.29






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