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1914年のメリークリスマス

クリスマスにちなんだエピソードを投稿しようとしたら、なぜかこうなってしまった。

一応不定期開催の歴史回になるのかな。

個人調べなんで寸分違わずとはいかないかも知れませんが、それなりに誠意をもって調べたのでそう大きな間違いはないはず。
(フェアユースの精神!)

Western Front France 1914.12.25

西部戦線異状なし

1914年6月28日のサラエボ事件に端を発した第一次世界大戦は大方の予想を裏切り、長期化しつつありました。

フランス・ベルギー領内に築かれた西部戦線ではイギリス・フランスを中心とする連合軍(当時はロシアも連合軍の一員でしたが、こちらは主に東部戦線に展開していたので今回は割愛します。)とドイツ・オーストリア=ハンガリーを中心とした同盟軍は互いに塹壕に立てこもり、機関銃で敵兵をなぎ倒すだけの毎日で勝敗がほとんどつかないにも関わらず、戦死者だけが激増するこの世の地獄を出現させました。

やがて銃声は自然と下火になります。物資が不足し始めたからです。戦闘経験豊かな古参兵はもちろん。武器弾薬も、暖をとる燃料も、食料飲料水も。

クリスマスイブとなる12月24日に補充兵として連れてこられた両軍の若い兵士達は雪の中で残り弾を数えながら思いました。

司令部はクリスマスまでには帰れると言っていたのに。こんな筈ではなかった。と。

塹壕のクリスマスツリー

その日の夜。互いに撃ち返すものがなくなって沈黙する戦場でイギリス兵は、監視していた敵の塹壕で銃火とは違うものが輝いているのを発見しました。

それは、ドイツ兵たちがそこら辺の倒木と食事用の金属皿、私物の髭剃り用鏡など、ありあわせの物で飾り付けた粗末なクリスマスツリーでした。
やがて「きよしこの夜」の合唱も聞こえてきました。ドイツ兵の歌声です。

つられてイギリスの若い兵士たちも同じ歌を歌い始めます。ただし、英語で。

ドイツ語の歌声は一瞬戸惑ったように消えましたが、すぐにより大きな歌声になって返ってきました。ただし、英語で。

英語で叫んだドイツ兵

戦争が始まる前、多くのドイツ人がイギリスに働きに出ており、英語の話せるドイツ人は珍しくありませんでした。

塹壕に隠れているとはいってもお互いを隔てる距離は高々250メートル余り。近い場所では50メートル程度の場所すらありました。両者は互いの歌声を聞くことで初めて敵だと思っていた人間に声が届くほど近づいていると気づいたのです。

そのうち、歌声以外の声も届き始めました。最初は下手くそな歌だ。いや、お前らの歌の方が下手くそだ。という罵りあい。

イギリス人は貶されたら誉め言葉て返す。皮肉を隠してな。とジョークで答え始めるとドイツ人もジョークを返してきました。

「俺たちは明日撃たない!もう弾も無いしな!」

ドイツ人の一人が叫んだ言葉もそんなジョーク交じりの、英語の声でした。

明日をも知れぬ命なら

一夜明けた12月25日。最初に塹壕から顔を出してきたのはドイツ兵からでした。

両手を上げ、その片手には銃ではなくタバコを持ち、塹壕からはい出し、恐る恐るイギリス側へ向かって進んでくるドイツ兵の姿。

彼らは本当に撃ってこない!

イギリス兵も銃を降ろし、代わりに部隊統率用の進軍ラッパやバグパイプ、私物のギター、こっそり持ち込んだスコッチウイスキーのタンブラーなどを手に塹壕から出てきました。

お互いの塹壕の中間で握手を、そして思い思いの言葉で挨拶をかわしました。

お互い持ち寄った貴重なタバコ、スコッチとビールを交換し合い、空き缶にぼろ切れを巻いたサッカーボールでサッカーも開催される頃には敵味方の別なく戦死者たちの埋葬も始まりました。

即席の混成楽団の演奏が死者を弔うのを聞きながら、お互いに兵士である前に、共に寒さに震え、飢えに苦しみ、死に怯える兄弟なのだと気づきました。

白昼夢

このクリスマス休戦は主にイギリス軍とドイツ軍が睨みあっていた西部戦線で自然発生したものでしたが、全ての場所でこういった休戦が発生したわけではありませんでした。

国土を戦場にされたフランス兵やベルギー兵は休戦に応じず、両手を挙げて塹壕から出てくるドイツ兵を容赦なく射殺することが少なくありませんでした。

ドイツ側でも当時バイエルン師団の一兵士として西部戦線に従軍していたアドルフ・ヒトラー上等兵(当時)は「好ましからざる風潮」としてクリスマスツリーを飾ることも批判しています。

翌年の1915年のクリスマスには連合軍、同盟軍ともに「許可なく前線を離れたものは射殺する」という命令が出されました。

以降クリスマス休戦が再び行われることはなく現在に至っています。

前線に送られた兵士の寿命は二週間と言われた西部戦線。
あの日を祝った若い兵士たちのほとんどは生きて終戦を迎えることはありませんでした。

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