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【Review】2021年J1第7節 川崎フロンターレVS.大分トリニータ「システムの中で自由に」

はじめに

 2021年J1第7節の川崎フロンターレは、2-0で大分トリニータに勝利しました。昨季3敗した相手の一つである大分に対して見事にリベンジを達成。これでリーグ戦8戦無敗となりました。
 川崎サポーターにぜひ見てほしいのが入場前のシーン。下田とダミアンがじゃれている姿は、めちゃくちゃほっこりします。ぜひとも!

ビルドアップを支える下田と小林

 5バックと4バックを併用していた大分ですが、90分通してダブルボランチとしてプレーしていた下田と小林はチームの根幹になっていました。彼らを中心としたビルドアップは川崎の前プレスを無効化し、大分の前進を支えていました。
 特に下田の躍動は素晴らしく、川崎サポーターも笑顔だったのではないでしょうか。彼はプレスに対して怯まずボールを捌けますし、プレスの頭を越してサイドに繋ぐ形は有効なパターンとなっていました。
 ただ大分はワイドに張った選手にボールを運ぶまでは上手くいきますが、その先に進むことができません。その要因の一つがビルドアップの人数過多で、特に5バックにした後半は前線に人数を送ることができません。下田得意の縦パスが少なかったのも、このためでしょう。
 大分としてはボールを保持する時間を増やして川崎陣地で戦うことが理想だったと思います。実際終盤は川崎が前からのプレスを諦めて引く場面もあったため、ああいった時間を増やすことが今後の目標になるでしょう。
 あとは少しだけ触れたいのが高木の巧さ。川崎のプレスがハマらなかった理由の一つが高木のフェイクで、視線移動と細かいキックモーションを挟むことでダミアンのプレスを牽制していました。ただパスを繋ぐだけではなく、より確実に繋ぐために工夫しており、敵ながら天晴れというシーンでした。

システム変更でしか打開できない大分

 5バックと4バックを併用できるのは大分の強みである一方、システム変更でしか打開を図ることができないのは弱みだと感じました。というのもシステムそれぞれのメリットデメリットがそのままピッチで表れており、対応策としては大味に感じました。

片野坂監督「前半を終えて0-1で負けている状況でしたが、2点目を入れさせたくないところと、90分のマネジメントで、選手の疲労、メンバーなどいろんなことを考えた中で、粘り強く5枚で守る中で攻撃をしていこうというところです。後半に2点目を失点して、出来るだけ0-1の状況を続けた中で、勝負どころで1点取りに行く形を狙っていましたが、0-2になったところで攻撃権を持ってやるしかないところになりました。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第7節 vs.大分トリニータ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/07.html>)

 片野坂監督のコメントから感じますが、システム変更がそのままチームの戦い方の方向性を強く決めています。5バックだと前線に人数をかけられなくなるデメリットをそのままにして戦い続けていたように見えました。つまりある程度攻撃力は犠牲にして時間を進める意図が見えます。
 戦術としてアリではある反面、守備に大きく舵を切ってしまうことで、対戦相手としては戦い方が明確になったり、大分としても再び攻撃に舵を切るのが難しくなるなどのデメリットがあります。
 そのため変更したシステムの中で選手個々人の工夫が出せる設計にすることが今後必要となるでしょう。例えば5バックでも相手を押し込んだ場面ではCBが前線に上がるなど。デメリットを一時的に無効にすることで自チームに有利な局面を作り出す工夫です。
 もちろん大分がシステム変更しか戦術が無かったというわけではありませんが、システムに判断が依存する部分が多いように感じました。システムの枠の中で自由に判断ができるようになると、土台がしっかりしている分、面白いサッカーになる気がします。

球離れが良い川崎

 この日の川崎は全体的に球離れが良く、パススピードも速かったです。これまでと比較して1段階速くなった感じで、大分としては対策を準備してきたものの想定を超えられた形でしょう。
 球離れが良かった理由の一つには選手個々人の調子があるでしょう。代表選手以外は中断期間を挟んだため休養を取れました。代表選手も良い刺激を受けて帰ってきたのだと思います。実際三笘は下のようなコメントを残しており、調子の良さを伺わせます。

三笘「良い時は周りが見えているので、球離れが早く見えたのかもしれない。」
(引用元:同上)

 もう一つの理由には、大分が全体的に人に寄せる守備を志向していた分、ダイレクトパスが有効だったことも挙げられます。ゾーンディフェンスの場合は、あえてボールを持って引きつける作業が必要になりますが、最初から人に厳しく寄せてくるのであれば、無理に持つ必要はなく、簡単にダイレクトで相手のプレッシャーを外すことができます。特にCBの羽田がダミアンに対して強く寄せることを意識していた分、後ろのスペースを空けることが多く、最終ラインはそのコントロールに苦しんでいるように見えました。

 もう一つ挙げるとするならば、谷口の配給のテンポがとりわけ速かったように感じました。これまでならもう1タッチ、2タッチしていたところをダイレクトで回すなど、プレー判断に変化が見られました。
 この変化の要因はさまざまに考えられますが、日本代表を意識している部分もあるように思います。A代表の吉田と冨安はボールの扱いに長けており、2人を起点にビルドアップができていました。今季の川崎はボランチのカバーを受けながらのビルドアップの多いため、CBだけで運べるように考えているのかもしれません。

シミッチとCBの連携向上

 本人も手応えを示しているように、シミッチは浦和戦に引き続き活躍を見せました。特にこの日は守備での貢献が光り、チームトップの走行距離も記録しています。

シミッチ「個人的にも攻撃と守備の両面でチームの力になれたんじゃないかなと思っている。これからもしっかりと自分の役割をまっとうできるようにしたい。」
(引用元:同上)

 パスワークもスムーズになってきましたが、一方でシミッチと2CBの守備が確立しつつあります。彼らの連携が良くなっているのが大きく2つで、一つがCBが空中戦のために上がることが減りました。ロングボールをシミッチのところで跳ね返せるため、谷口とジェジエウは無理に飛び出す必要がありません。この日も長沢相手にシミッチは競り勝っており、長身アンカーの特徴を活かしていました。

 もう一つがCBが飛び出したスペースをシミッチが埋めていることです。前からのプレスでパスコースを限定し、CBのところでカットするのが川崎の守備の狙いの一つですが、その際には後ろのスペースが空くことになります。しかしこのスペースをシミッチのカバーリングによりリスクを回避することで、2CBは躊躇せず上がることができます。シミッチの好調の裏には、2CBとの連携向上があるのかもしれません。

おわりに

 忘れてはいけないのが丹野の等々力デビュー。ソンリョンの怪我によりスタメン起用されましたが、突然の出場でも落ち着いてプレーできるのは日頃の準備の賜物でしょう。控えでも腐らず練習を続けるGKがいることは、なんとも心強いものです。
  昨季のリベンジを果たした川崎。次節は昨季2戦引き分けで、唯一勝てなかった鳥栖が相手です。大分に引き続きリベンジを果たしましょう。

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