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【小説】フラッシュバックデイズ 21話

この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。

21話 インド編 ①「メイアイヘルプユー?」

初めての海外一人旅。気分は深夜特急の主人公だ。インド行きの飛行機は未開の地への期待であっという間だった、、と書きたいところだが、実際は地球の歩き方を何度も読み返しても時間を持て余した程、退屈だった。
一人旅とはこんなものか。
LSD(アシッド)の効きをトリップと呼んだりするが、インド行きの飛行機はアシッドが効き始めるまでの時間といったところだろうか、早く着いて欲しいというもどかしさと、期待感が入り交り、時間が長く感じた。

飛行機はやっと、インドのニューデリー空港に到着した。
出発した関西国際空港の雰囲気とは一転し、本当に首都の空港なのかと疑うほど簡素で、地元の空港の方が遥かに近代的に感じた。
荷物を待ちながら俺と同じくドラマや映画のように同世代のバックパッカーの女の子が現れないか期待したが、無情にも女の子すら日本人が現れないまま見覚えのあるグレゴリーのバックパックが流れてきた。
バックパックを背負い、すぐに外に出たい気持ちを抑えながら、空港の両替に向かった。空港のレートは高いので、本日の宿代と食事代の分をルピーに替え、空港の外に出ると、辺りは既に暗かった。独特の匂いとねっとりとした生ぬるい空気に、ああ、インドに来たんだなと実感した。

とにかくタバコが吸いたい。灰皿を探すが、もはやどこで吸っても良いような雰囲気だったので、久しぶりの一服をしていると、ゆっくりと一服する間もなく、数人のインド人に囲まれた。どうやらタクシー運転手のようで、どこに行くのか?俺のタクシーに乗れと行っているようだ。
もちろん、ここインドでもタクシーは割高だ。バスで都心部に行くのが安いに決まっている。タクシー運転手を振り払いバス乗り場らしきところに着いたが、時刻表が見当たらない。バスに乗り込んでいるインド人にどこへ行くバスなのかを聞こうとしたが、タクシーの運転手にすぐに取り囲まれその隙を与えてくれない。たまらず俺はエクスチェンジ(両替)を忘れたと噓をつき、空港内に逃げ戻った。さすがにタクシー運転手達は空港内までは追ってこなかった。
静かな空港のベンチで腰掛け、一息ついた。
俺はおそらく同じ便に日本人が乗り合わせてるだろう、その日本人を捕まえて、バスに乗るか、タクシーを乗り合わせようと考えていた無計画な自分を後悔した。

「すみません。」日本語で振り返ると大学生っぽい日本人の男が立っていた。話を聞くとどうやら俺と同じ便に乗っていたらしく、両替に手間取っていたらしい。
タクシーが割り勘なら悪くないと思った俺は、バスを諦め、
大学生っぽい日本人を誘い、再び空港を出る。
再び、あっという間にタクシー運転手に取り囲まれた。
取り込まれた数人に値段を聞き、一番安い運転手の車に乗り込もうとすると最初に俺を取り囲んだ運転手の一人と目が合い、俺が最初に声をかけただろ?そりゃないぜ、と言わんばかりに何かを言っていた。

タクシーを走らせる運転手はインドは始めてか?と聞いてきた。
勿論初めてだったが、バカ正直に初めてだと答えてしまうと、別の場所に行ったり、遠回りされて高い金額を請求されてしまうかもしれないと警戒し俺は2回目だと答えた。
大学生はタクシーに乗れた事に安心しきっているのか、自分は海外は初めてで不安だらけだと弱音を吐いていたが、会話を楽しむ余裕はない。というのもタクシーはやけに暗い道を通るので内心ヒヤヒヤし、あと何分で着くか、残り何キロだとたどたどしい単語英語でタクシー運転手にプレッシャーをかけ続けた。それが功を奏したのかはわからないが、無事安宿が集まる都心部に交渉通りの値段で到着した。

安宿が集まる都心部はか細い街灯以外は真っ暗で本当にここは都心部なのかと疑うほどだった。僅かにに電気のついた店や屋台も既に閉店支度をしていた。大学生は予約してあるホテルまで一緒に来て欲しいと言ったが、
この大学生が予約しているホテルまでたどり着けるか不安だったが、俺はホテルの予約すらしていないので今から今日の宿を探さなければならない。少し悪い気がしたが、大学生と別れ、暗闇へと進んで行った。

暗い夜道のインド人が怖く見えて声がかけられない。そもそも歩いている人に声をかけようにもあまり人が歩いていなかった。

こんなことなら大学生の予約しているホテルについていけば良かった。もしかしたら空き部屋があったかもしれない。彼は予約したホテルにたどり着いただろうか。
途方に暮れ道端でタバコを吸っていると一気に不安になった。
ここはどこなんだろう、俺はインドの見知らぬ土地の暗闇で一人になってしまった。初日から野宿が頭をよぎったが、それは絶対に嫌だ。
そもそも寝袋すら持ってきていない。
目が少し暗闇に慣れてきた。
ここでじっとしていても事態は好転しない。
行くあてや方向もわからないが、歩き出した。

周りを注意深く見回しながら歩いていると、東洋人風の男一人女二人の3人組を見かけた。俺は藁をもすがる思いで「エクスキューズミー」と声をかけると「メイアイヘルプユー?」という言葉が帰ってきた。
これほど救われる言葉はなかった。
彼、彼女たちは韓国人だった。正直今まで韓国にいいイメージはなかったが、この3人がとても親切にしてくれたおかげでイメージはひっくり返った。宿を探している俺に、3人は自分達のホテルまで連れていってくれ空きがないか聞いてくれた。しかしそのホテルには空きがなく、落胆している俺の為に男は空きのあるホテルまで案内するようにフロントと話しをつけてくれた。

案内されたホテルの部屋は殺風景でお世辞にも良い部屋とは言えない部屋だったが、俺は韓国人のおかげで初日の野宿を免れた。

日本で迷っている外国人には必ず「メイアイヘルプユー?」と声をかけようと誓った。

つづく

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