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【小説】フラッシュバックデイズ 4話

この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。

4話 クラブへ

大阪駅に着くとダイサクのクラブ友達の飛吉が声をかけてきた
「ダイサク~」
整った顔立ちに服は抑えめのレイバーファッションでいかにもクラブ慣れしたパーティーが好きそうなヤツだった。

ダイサクとはサイケデリックトランスのパーティーで知り合ったそうで、
今日行くパーティーは飛吉の誘いにダイサクが乗り、おれが着いてきた形だ。
「今日はテクノやで」
飛吉はニヤニヤしながらダイサクと今日のパーティーの話をしながら、慣れた足取りで梅田~高架沿いに歩いていく。俺は二人の後をついていく。
梅田は昼間に彼女と買い物に何回か来た事があるが、夜はほとんど初めてだった。
四国から大学進学の為でてきた俺にとって大阪のキタの夜の繁華街は新鮮だった。
都会で夜遊びしている感じがなんだかうれしかった。
都会に出てきてよかった。

クラブは高架沿いにあった。上には線路が通っており、電車の音は大丈夫だろうか少し心配だった。
受付を済ませて中に入ると壁面がコインロッカーでびっしりの暗いエントランスがあり、フロアから響く四つ打ちの音が漏れていた。
中に入るとフロアでは四つ打ちの音に合わせて、ストロボが光っていた。
既にフロアの2/3程度は人で埋まってるようだ。

3人でまずバーに行き、ダイサクと俺は酒が苦手なので、ミネラルウォーター、飛吉は酒を買う。乾杯もしないままトイレに直行し、個室に3人で一緒に入り、同じ玉を口に放り込んだ。
これが乾杯なんだな。

フロアに戻ってみたものの、玉が効き始めるまではシラフの状態なわけで、イマイチのりきれない。正直どうやって踊っていいのかわからず、四つ打ちの音に軽く揺られながら、皆の踊りを観察していた。当たり前だが、恥ずかしがっているヤツなんて一人もいないし、決まった踊り方なんてなく、皆思い思いに自分の踊りたいように踊っていた。
ダイサクと飛吉がピークタイムまでまだ時間もあるし、少し座ろうと。
階段をあがると中二階のスペースにソファーがあった。
ここが(休憩用の)チルアウト用のスペースか。

ダイサクと飛吉が過去のパーティーの話で盛り上がったのでなかなか話に入れないでいると、飛吉の友達が中二階に上がってきた。
自己紹介がてら話していると、玉が効き始めてきたのがわかった。
顔がにやついているのが自分でもわかる。
飛吉に「てか自分、見るからにむっちゃええ感じやん」と突っ込まれる。
実はクラブが初めてなのだと言うことを打ち明けるとその場が盛り上がる。
「それは絶対に楽しいはずや」
「俺も最初に戻りたいわ」
皆が最初のクラブ体験やドラッグの話をしだすうちに、皆すっかりできあがってきた。顔を見たら効いているのがわかる。
部屋で一人で玉を食った時にはわからなかったが、皆でこの効きを共有するのは一人の時よりも雲泥の差がある。
なぜならこいつも俺と同じ最高の気分だということを今まさに俺が体感しているからだ。

「そろそろ踊りにいこや」

誰かが言ったのを合図に皆笑顔で階段を下りていく。
知らない間にDJが変わっている。
身体は自然と音にあわせて踊っていた。
飛吉は少し奇妙な踊り方だが、嫌な感じではなく、慣れた雰囲気を感じた。
ダイサクも笑顔で踊っている。
俺と目が合うと、「クラブで玉食うの最高やろ?」と言ってきたので
「最高や!連れてきてくれてありがとう」と言って抱き着いた。
すると飛吉も抱き着いてきた。
俺たち男の気持ち悪いハグは引かれるどころか、
フロアのハグの震源地となってしまった。
フロアの照明はストロボからカラフルな明るい照明に変わる。
今まで見えなかった周りの顔が見える。
皆笑顔で幸せそうに踊っている。
初対面だろうが、女だろうが、男だろうが、年が離れていようが関係ない。笑顔のヤツと目が合うと必ずハグをした。
今の俺と同じ最高の気分なんだろ?
そうだよ、最高なんだ!
言わなくてもわかる。
多幸感を共有し、それを確認するためにハグをした。
フロアの全てのとは言わないが、控えめに見ても8割は玉を食っている。
俺は天国で踊っていた。
正にLOVE&PEACEだった。

もはや時間の感覚はわからないが無心に踊った。
少し効きのピークを過ぎた頃、休憩がてら二階のチルスペースに一人で戻る。
ソファーが一席だけ空いていた。
少し落ち着こうと、たばこを吸っていると隣の女の子に
「チュッパチャップスない?」と聞かれたが
「ごめんね、持ってない」とニヤケながらで答えると、
その子は笑いながら「いいよ~ちょっと探す旅に出てくる」といってフロアに降りて行った。
あの子も絶対玉を食ってるな~と思いながら煙草をふかしていると、新しく隣に座った男に笑顔で「ライター貸してくれない?」
「もちろん」
「今日は最高だね」
と始まり、話しこんでいると、
向かいのソファーに座っている女の子2人組から
「お兄さん、今いい感じでしょ?」
「ま、ワタシもなんだけど」
なんて声をかけられたりと、たまたまこのチルスペースに居合わせた全くの初対面同士がまるで家でくつろいでいるかのようにリラックスしながらしゃべっていた。
しばらくすると、さっきのチュッパチャップスの女の子が戻ってきた。
「ただいま~」といいながら俺の膝の上に座ってきた。
「ごめんね~、今ピンクはいってるから」
どうやら玉の効果で誰でもよいからくっつきたいようだ。
他の3人も特段驚く様子はなく、よくあるよね~といった雰囲気だ。
勿論悪い気はしなかった。むしろ俺も誰かと密着したい気分だったし、
こんな可愛い女の子なら何時間でもいてくれと思った。

俺はフロアに戻ることなく、入れ替わりの激しい2階のチルスペースの主のごとく、至福の時間を過ごしていた。
すると下のフロアから聞こえる音ではなく、真上から電車が通る音が聞こえた。
始発電車が動き出したんだ。もう朝だ。
かなり久しぶりにフロアを覗いてみると、人は減っていた。
ダイサクと飛吉を探しに降りると、バーで何人かで喋っていた。
「おつかれ~」「おはよう」
ものすごく久しぶり会ったような感じがした。
「これから皆で朝飯でも行こうって言ってるんだけど」
クラブを出るともう外は明るく眩しかった。

近くのファミレスに男女混合の10人程でテーブルを囲った。
その中にはチュッパチャップスの子もいて少しうれしかった。
このテーブルを囲った10人程は皆個性的で、音の話や箱の話、
ドラッグの話やくだらない話をした。
どうせ家に帰ってもすぐに寝れないのは皆分かっている、それならワイワイ喋っている方がいいに決まっている。
俺は映画のワンシーンのような、この輪の中に居れてうれしかった。

俺はこういう事がしたかったんだ。
遅れてきた青春が始まったような気がした。

つづく

余談

MDMA+クラブ初体験っていうのはこの映画「GROOVE」が抜群です。
というかクラブ系の映画ではBEST1映画です。機会があればぜひ。
当時はVHSでレンタル可能でしたが、
現在日本語字幕版すらなく、海外版もアマゾンでも販売されていません。

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