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グリーンブック 感想 「手紙をありがとう」

日本よ、これが映画だ。

ま、アベンジャーズは見ていないんですが。

最近見ていた映画ハズレばっかりだったからか、まじですげえよかった。語りきれないわ。アカデミー賞はこうでないとね。

映画「鬼滅の刃 無限列車編」がアカデミー賞とかなんとか、一時期話題が出てたけど、エンターテイメントという観点だけでなく芸術性をも評価する賞だと思うから、話題にする時点で教養のなさを反省すべきでしょう。

まず比べる土台にあげてほしくないね。ってレベルで素晴らしい作品。近年の映画ではずば抜けてクオリティが高いのではないですか?

観客を置いてけぼりにさせない程度のエンターテイメントを維持しながらの社会的メッセージ性の明確さと分かりやすさ。ただし主張を決めつけない、押し付けない複雑な現実味。

言葉では言い表せない素晴らしい作品。

映画ならばね、まず、2時間という時間、スクリーンから目を逸らさせない事。これは大前提なんですよ。基礎。それができている、と久しぶりに感じた作品。

あらすじ

黒人差別してるアメリカンイタリアンっていうのかな?白人が、黒人天才ピアニストの運転手として2か月間働くって話。

メッセージ性

この時点で社会派映画を見ている者としては「あ~はいはい、差別してたけど、価値観変わっていく系ね」とある程度想像がつくわけよ。もちろん、このグリーンブックもその通り、一緒に過ごすうえで黒人差別の考えが変わっていく話なんですよね。

すごいのはさ、ある程度展開が読めるにもかかわらず、スクリーンから観客を離さない映像になっていること。

洒落てる映像美もありました。NYから始まりアメリカ南部を渡る旅。

でもそれだけじゃないな。説明できないけど、ほとんど車中なのに二人の性格(真面目で几帳面、潔癖な黒人。嘘つきで口達者、世渡り上手、カッとなりやすい白人。)をうまく描写しているんだよね。

多分南部のほうが黒人差別がひどいんだろうね。行く先々で差別され、時には殴られ、時には逮捕されるわけです。

この世は複雑だ

途中、YMCA(警察なのかな?)的なところにつかまったドックをトニーが助ける(警察に賄賂を渡す)んですが、賄賂を渡すってやり方が気に入らないドックはトニーと言い争いになります。トニーは、助かったんだからやり方は気にすんなって思ってる。でもドックは差別される立場だからこそ、プライドがあるんですね。それは差別されていないトニーにはわからない感情です。スクリーンを見ている私からすれば、どちらの立場の気持ちもわかるけど。。。

ピックアップしたいのは、喧嘩した次の日、謝ったドックに対しトニーが言ったこのセリフ。

「昨夜は悪かった」「気にすんな、俺はニューヨークのクラブで働いてたから知ってる この世は複雑だ」

複雑、”complicated”と言います。これほどかっこいい英語あったんだって思ったね。プライド曲げてまで助かる命か、プライド曲げずに牢屋にぶち込まれるか。正義ってのはさSimpleじゃない。世の中は複雑。

一見バカでカッとなりやすく、何も考えていなそうなトニーがこれを言うから、視聴者の胸を掴むんだよなー。例えばこのセリフをね、ドックが言っても、何頭いいやつが高説垂れてんだってなるわけよ~わかる~?ニクイ脚本だね~~~~~~~!

才能と勇気

で、なんで差別される南部にまで出向いて安い賃金でドックがツアーをしているか、ドイツ人のトリオ(演奏仲間)の一人が教えるシーンのこのセリフ。

才能だけじゃだめなんだ 勇気が人を変える

うろ覚えだけどこんな感じのこと言うのね。

ドックはピアノの天才です。ピアノを聞けば、皆を虜にする。でもそれだけじゃ、黒人差別はなくならないわけです。世の中も変わらないわけよ。

高みから高説垂れたって誰も耳にしないっつーわけね。

身を切らなくても生きていける天才が、自らの身を切って行動するからみんなの考えを改めさせられるわけだ。

うーん真理。

差別について

ツアーの最後、演奏するレストランで食事をしようとしますが黒人であるドックはレストランへの入店を拒否されます。

店員は「個人的な差別ではない。ルールだ」といいます。確かに一理あるとは思った。

最近さー友人おすすめの「世界見聞録」っていうYouTubeチャンネルを見ているんだけどね。世界史に関して解説している動画なんだけど。

黒人差別についても、かなり分かりやすく解説してくれてる。かなり勉強になるからおすすめ。日本は島国だし、あんまり身近に感じられないけど。

動画見て、学んでみて思ったことはさ、みんな生きていくために必死な訳だよ。住まいや食べ物を守るために。

最近の傾向として「差別ダメ」だとか「ジェンダーレス」だとか「SDGs」だとか言ってるけど、心底、平和なんだなーと思うよ。昔は貧しくて誰かを差別して迫害しないと自分が生き残る場所がなかったから、みんなそうしてた。余裕がある人は人のこともかまって、助けてあげられるよ。優しいっていうのは裕福って事。だから現在は裕福な人が増えたから平和なんだと思う。

時代の大きな流れである差別に立ち向かった英雄がいるっていうことは称えられることだと思う。でも差別している側にも理由があって、差別される側としている側にそんなに差はないんではないかな。マジョリティかマイノリティかだけで、どちらが悪とかではないんでないかな。それこそ白黒はっきりはできない。世の中、モノクロじゃないのと同じで。とか思うな。

だって「世界見聞録」みてるとさ、差別されていた側が、差別される側に回ることなんか珍しく無いじゃん。コインの裏と表。紙一重なんだよ。だからどちらが悪ではなくて、なるべくしてなっていて、どちら側に自分が立つかは、運でしかないだなって。マイノリティ側に立ってしまったら最後、死ぬ物狂いで足掻いて自分でもう一度コインを投げるか、そのまま地べたに沈んでいくかしか、ないんだなって。

この映画で店員がドック言った「個人的な差別ではない。ルールだ。彼を説得してくれ」とトニーにお金を渡そうとしたこと。それはトニーが警察にやったことと変わらないって皮肉があるよね。

本当に差別をなくすって言う事はさ、差別自体がなくなるんではなくて、差別する側とされる側の上下関係を取っ払うことだと思うよ。男女なんてさ、物理的に違うのに差別すんななんておかしいじゃん。男に生理が来てから言えよな。ま、これは、個人的な意見として聞き流してください。

ショパンの『木枯らし』

んでね、物語としてはこのレストランでの演奏をブチって、黒人のバーみたいなところに飲みに行くのね。

そこで、ドックはピアノを演奏します。

ドックはその前に、トニーに「クラシックやりたいけど、黒人のクラシックピアニストは需要ないからポップも弾くんだ」というくだりがあってね、そこでトニーは「クラシックなんかよりアンタが弾くポップのが魅力ある。だってあんたのピアノだ」っていうの。しかしドックは「俺が弾くショパンも、俺のピアノだ」っていうんだよね。この伏線を見事に回収するのが、この黒人バーでドックが演奏する曲なんです。

ショパンのエチュード『木枯らし』を演奏するんですね。

もう展開読めたから、絶対ショパンだと思ったけど、鳥肌立ったね。

木枯らしがどんな曲なのか、クラシックに詳しくない私は分からない。

でも、ドックが弾いたショパンからは、差別に対する何とも言えない気持ちがすべて入っていた気がした。言葉で言い表せない感情が、その演奏に乗ってた。まるで『木枯らし』は黒人差別に対する反旗の曲のように聞こえたね。

アンチテーゼとリアリティのギャップ

そして盛り上がって店を出る二人なんですが、車のところに強盗みたいなやつらが潜んでいます。店でドックが現金を出してたもんだから金持ちだとバレて狙われたんですね。それに気づいていたトニーは「持っていない」と言っていた拳銃を二発空に撃ちます。うーんいい落ちだね。差別に対するアンチテーゼのあとに、トニーが持ってくるリアリティ(嘘、人間味)のギャップ。演出がにくい!落語かよ!いや、アメリカンジョークかよ!ってな。

さらに、道中盗んだけれど「店に返せ」と言われて、返したふりをしていた翡翠石を持っているのも多分ドックは拳銃を見て、返してないなと気づいたのでしょうね。帰路、天候の悪化を懸念するトニーに「翡翠石に祈らなければ。あの石を出してくれ」と鎌をかけるところまで◎。もちろん持っていたトニーは観念して車のフロントガラスの前に置きます。二人の深まった絆に、ニヤリと笑えますね。

くそ真面目で曲がったことが許せないドック、なのに、もう翡翠石を捨てろとは言わない。翡翠石をパクっちゃうような悪いところがあるトニーの一面も認めたという描写。うまいね~。

手紙をありがとう

この映画演出が本当にうまいんですが。最後のオチまで完璧です。

2か月間、家を留守にしたトニーに妻は手紙をくれと強請ります。妻を愛しているトニーはちゃんと手紙を書いて送っているんですが、もちろん内容は子供が書いたみたいな馬鹿っぽい内容。途中からロマンス小説みたいなポエム的内容にドックが添削指導します。

それを喜んでいる描写が途中に挟まっているんですが、いやいや気づかないか、普通と私は思っていた。妻のほうは家族全員が黒人をニガーと呼ぶ中、黒人差別をしない人格者のようで、映画冒頭からそれは随所に描かれており、非常にスマートな女性なんですね。黒人差別をはじめからしていない妻。でも、黒人差別をする夫を批判はしない。何も言わなかった。それは差別をしていると同じ事かもね。でも私はそれを非難しようとは思わないな。

一番最後、トニーの家族のクリスマスパーティにドックが現れ、初めて会う妻とドック。帰ってきて夫が成長していることにも気づいている妻。そしてきっと、それがドックと過ごしたからだということもお見通しでしょう。

二人はハグをしあう。そして一番最後のシーン。

「手紙をありがとう」

そうだよね。

気づかないわけないよね。

ドックが書いてたって妻はお見通しだったわけだ。

妻が嬉しかったのは、皆に自慢してたのは、ロマンティックな手紙の言葉じゃないんだ。黒人を殴って仕事を辞めそうだった夫が、人種関係なく、手紙を添削してもらえるくらいの絆を深められた、その人間性の成長を喜んでいたんだ。

言うことなし。100点の映画ですよ。

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