【実践編】ゴール型ゲーム~サッカー~
1.「ゴール型ゲーム」の特徴
そもそも体育においては、「サッカー」を指導するのではなく、「ゴール型ゲーム」を指導するのであり、そのための題材がサッカーやバスケットボールなどの種目になっている。つまり、サッカーとは何かを考える前に、まずはゴール型ゲームについて理解しておく必要がある。
現在の体育では、「ゴール型」「ネット型」「ベースボール型」と大きく3つに分類されている(近年は「ターゲット型」のようなジャンルを追加している指導者もいる)。これらはゲームの構造をもとに区別されたものであるが、それぞれどのような違いがあるのか。より詳細な区別は別稿にまとめてあるため、本稿ではゴール型に限って言及したい。
ゴール型は、「ボールを目的地(ゴール)に運ぶ(入れる)こと」が目的であり、その基本的なゲーム構造は「侵入」である。それを果たすために、オフェンスは
①ボールと身体をともにゴールへ近づける(=ドリブル)
②ボールだけをゴールへ近づける(=パス・シュート)
③身体だけをゴールへ近づける(=ランニング・オフザボールの動き)
のいずれかを常に実行し続ける。
一方で、ディフェンスにもそれを妨害する権利が認められており、
①ボールへの妨害(=カット・ブロックによる軌道の変更)
②身体への妨害(=接近・接触による時間・空間の制約)
がともに許されているのもゴール型のみである。
また、そのほとんどがチームvsチームのゲームであり、個人スキルとチームワークのどちらで局面を打開していくのかも常に問われている。その種目の初心者ばかりが集まる体育では、個人スキルよりもチームで連携することを重視し、したがってオフェンス③「オフザボール」とよばれるボールを持たないときの動きやポジショニングのクオリティ向上が要求される傾向にある。
2.ゴール型の各種目の難易度比較
次に、主にゴール型ゲームとして体育でよく扱われるサッカー、バスケットボール、ラグビー、ハンドボールの4種目を比較したい。難易度を決定する項目としては、
・ボール操作:ノープレッシャー下での扱いやすさ
・バイオレーション:ルール上の行動制約の強さ
・DFによる妨害:DFから受けるプレッシャーの強さ
・システムの複雑性:コート上の人数や陣形の複雑さ
の4項目をそれぞれ3段階(★が多いほど難しい)で判断したいと思う。また、このジャッジは私の主観的なものであることを予め断っておく。
今回はサッカーについて検討するため、すべてサッカーに主眼を置いた比較をしていく。まずボール操作においては、4種目の中で唯一「手が使えない」というあまりにも大きすぎる制約が課されているのがサッカーである。ラグビーはボールが球体ではないことでやや難しさがあるが、球体だとしても足での操作を求められるサッカーはダントツで初心者にとって難しい。
一方で、バイオレーションについては、サッカーにはほとんど制約がない。バスケやハンドボールのような歩数制限や秒数制限なども一切なく、手さえ使わなければ逆に何をしてもよいといえるのがサッカーである。
DFによる妨害は、4種目すべてに身体接触があるが、その程度には差がある。DFによる「バインド(つかむ)」が認められているラグビーやハンドボールよりは程度が低いものの、サッカーのそれも非常に激しいものがある。
最後のシステムに関しては、下図を参照していただきたい。ゴール型ゲームの基本構造である「侵入」をイメージしたとき、サッカー以外の3種目は両チームのエリアがきれいに分断されていることがわかる。これはある意味「一度の侵入」だけでゴールに到達できることを意味しており、したがって基本的には正面からしか妨害されない。一方でサッカーは、ゴールにたどり着くまでに何度も侵入を成功させなければならず、一度侵入した後は前後どちらからも挟まれるように妨害がやってくる。サッカーは他の種目と比べてもその複雑性の高さが特徴とされており、より深いゲーム理解と瞬間的な対応力が強く求められるスポーツとなっている。
3.サッカーが体育で扱いにくい理由
体育では、初心者向けに難易度を下げるアレンジを施して実施される。つまり、先ほどの難易度比較をした4つの項目をすべて「★」になるように修正すれば、誰でも楽しめるような簡単なゲームにすることができるのである。
バイオレーションの難易度が高くなっている主な要因は、「歩数制限」と「秒数制限」である。これは初心者にとって非常にハードルが高く、またセルフジャッジも困難にする可能性が高い。したがって、バスケットボールやハンドボールでは、この2つの制限をなくす(または緩和する)ことで解消することができる。
DFによる妨害も対策はシンプルである。安全面の理由から、身体接触をさせないように守らせるとよい。そのために開発されたのが「タグラグビー」であり、タグを取られたらボールを相手に渡すというルールは、ラグビー以外の種目にも転用できるものである。また、身体接触を認めないことでプレッシャーそのものが弱まり、シュートの成功確率が高まる効果も期待できる。初心者にとって得点という成功体験は貴重であり、それを担保してより好きになってもらうためにも、高い確率で攻撃が成功する構造は保ちたい。
システムの複雑性を解消するには、コート内の人数を減らすことが最も効果的である。11人で行うサッカーや15人で行うラグビーは、その人数がゆえに複雑さと侵入の難易度が高くなっている。そのため体育では、どの種目でも3vs3や4vs4でゲームを行うことで、ゲームを単純化させることが多い。このアレンジは、サッカーの複雑性の解消にも十分に寄与するだろう。
ところが最大の難点は、そもそもボールを扱えないという大きな壁である。
①ボールと身体をともにゴールへ近づける(=ドリブル)
②ボールだけをゴールへ近づける(=パス・シュート)
③身体だけをゴールへ近づける(=ランニング・オフザボールの動き)
という前述したオフェンスの3つの動きのうち、「ボール操作」という難易度が解消されれば②は達成でき、それに加えて「バイオレーション」という難易度が解消されれば①も達成できる。ボールを運ぶことが目的な以上、ボールをある程度思い通りに操作できなければ、ゲームの目標である得点は達成できない。
ラグビーはそもそも「持って走る」ことが許されており、歩数制限さえなくせばバスケやハンドボールでも「持って走る」ことはできる。ところがサッカーにおいては、「ボールと身体が一体となって移動すること」は、どんなルール変更をしたところで本人の技能が伴わない限り不可能である。(実は「ラピッドボール」という、自陣ではハンドボールのように手で扱い、敵陣に入るとサッカーのように足しか使えないというルールの種目はあるが、ゴールに接近すると手が使えないのであれば、基本的には同じことである)
つまり、サッカーはゲームの「単純化」はできても、根本的なエッセンシャル・スキルを簡単にすることは非常に難しく、「少人数でも難しいものは難しいんだ」と感じられてしまうため、体育では非常に扱いが難しいのである。さらに小学生でもクラスに数人の経験者がいることが多く、このボール操作スキルの格差がゲーム内で露骨に表れてしまうのも悩ましい。
4.「フニーニョ」というサッカー
結局のところ、体育で扱うサッカーは
・ボール操作が難しくない
・システムが非常にシンプル
・攻撃の成功率が高い
・技能ヒエラルキーが発生しにくい
・「侵入」というゴール型の基本構造が体験できる
という条件を満たしたものでなくてはならない。そんなサッカーゲームをつくる上で大きなヒントをくれるのが「フニーニョ」とよばれる簡易サッカーである。
フニーニョは、ドイツやスペインなどヨーロッパ各国のサッカースクールで、サッカーの入口として主に低学年向けに導入されている簡易版サッカーである。その基本ルールは以下のとおりである。
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