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「ゴール型」「ネット型」「ベースボール型」はどう違うのか?【後編】

学校体育では、様々なスポーツを「教材」として活用し、運動スキルの向上や人間的成長などのベネフィットを子供にもたらすことが目指されている。中でも「ゲームの楽しさ・面白さ」を伝えるために、球技の扱い方が重要とされている。世の中にはサッカーや野球など、数多くの球技が存在するが、学習指導要領では、「ゴール型」「ネット型」「ベースボール型」としてそれらを分類している。

では、それらの「型」は何がどう違うのか?それぞれの「ゲームの楽しさ・面白さ」とは何か?本稿はそれらを明らかとし、体育実践等で子供たちによりよいスポーツ参加の機会が増えることを目指す。

尚、よりマクロな視点から始め、徐々に本質に迫っていくように書くため、今回の記事は前編・後編の2部構成とした。


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前編のレビュー

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前編では、4つの視点からスポーツを6カテゴリーに分類した。この分類をした目的は、それぞれの競技特性が持つ「ゲームの楽しさ」を理解するためである。もちろんすべての異なるスポーツは独自の魅力を持つのだが、スポーツの持つシステムが共通するものをまとめて分類した。

このシステムこそが「戦略」を考える上での軸となり、そこからたどり着く戦略、すなわち「駆け引き」こそがゲームの楽しさの本質である。後編では、6つのカテゴリーそれぞれについての戦略の立て方と、そこにある魅力(楽しさ)をまとめていく。

1.クローズド・スキル系スポーツ

このカテゴリーには、陸上、水泳、体操、フィギュアスケートなどが入る。これらの競技に共通する特性は、『パズル』的でクローズド・スキルを要するという点である。すなわち、自分のパフォーマンスを邪魔されることはなく、自己ベストを再現することにフォーカスするスポーツである。

これらの競技は、タイムや点数といった記録で勝負する特性もあり、自分の記録に相手が影響しない代わりに、自分も相手の記録に影響を及ぼすことはできない。したがって、緊張やプレッシャーに負けないメンタリティーや、より高い記録を出すための「精度」を高めることが必要になる。このように対戦ではあるが、ベストパフォーマンスを再現することに集中し、自分自分と向き合う時間が長く持てるのが、このカテゴリーの魅力でもある。

このカテゴリーを体育で扱うのであれば、自己ベストを更新するための練習を考えたり、記録会などのプレッシャーのかかる場でハイパフォーマンスを目指したりといった、自分と向き合う時間を大切にしたい。

2.戦略特化型スポーツ

このカテゴリーには、マラソン、ゴルフ、ボッチャ、カーリングなどが入る。これらの競技に共通する特性は、『ゲーム』的でクローズド・スキルを要するという点である。自分のパフォーマンスを相手に妨害されないことは共通しているが、「1.クローズド・スキル系スポーツ」は常に同じパフォーマンスの再現が求められるのに対し、このカテゴリーは状況に合わせてパフォーマンスを変えていく状況判断能力が求められるという特性がある。

例えば、マラソンであれば常に一定のペースで走るのではなく、集団での位置取りや相手の表情、残りの距離などから、スパートをかけるタイミングを探る駆け引きが戦略となる。ただ100%のダッシュをすればいい短距離走とは違い、この駆け引きに勝つことで実力で劣る相手にも勝利することができる。

また、ボッチャやカーリングでは、相手と場(フィールド)を共有した中で、チェスや将棋のように球(ストーン)を置く位置を毎回考えることが醍醐味となっている。ゴルフも風や距離が毎回異なる中で、適切なショットを選択することが求められるスポーツである。これらに共通することは、「正しい状況判断」と「選択した手段の確実な遂行」を分けて行えるということである。狙いをじっくり定めて(戦略)、狙い通りにきちんとプレーする(実行)という2つの局面を切り離して行える競技は決して多くはなく、その点で特殊なカテゴリーでもある。

このカテゴリーを体育で扱う場合には、特に「戦略局面」を重視したゲームにしたい。マラソンであれば「タイム」よりも「順位」に焦点を当て、駆け引きを楽しめるようにする(以下の記事を参照)。ボッチャのようなゲームは玉入れの紅白玉でも代用でき、特別な技能はいらないので、より「戦略ゲーム」を味わいやすいと思われる。

3.格闘技系個人スポーツ

このカテゴリーには、相撲、柔道、ボクシング、フェンシングなどが入る。これらの競技に共通する特性は、攻守が混在し、身体に直接的な接触をしていくという点である。また、常に1対1の個人戦であることも特徴である。

攻守が混在し、相手の動きに反応する必要があるので、「2.戦略特化型スポーツ」とは違って「状況判断」と「行動の実行」が同時多発的に起こる。また、常に相手と接触状態あるいは至近距離にあるので、わずかな動作で相手を「だます」ことが求められるスポーツでもある。

先に動いて相手を「誘う」戦略もあれば、じっと観察して相手の動きに「合わせる」戦略もある。自分を軸にして戦略を組み立てるか、相手を軸にして組み立てるか、これらの瞬間的な判断と身体操作が魅力のスポーツである。

このカテゴリーを体育で扱うのは、激しい身体接触もあり、安全面から難しいと思われる。しかし、対面に直立して手押し相撲をしたり、1対1で腰につけたタグを取り合うなど、このカテゴリーの戦略を再現した体つくり運動は多数デザインできる。あくまでも「競技」ではなく「ゲーム」を体験させるので、積極的に実践してほしい。

4.ネット型スポーツ

このカテゴリーには、テニス、バレーボール、卓球、バドミントンなどが入る。これらの競技に共通する特性は、攻守が混在し、ボールへの間接的な影響しか与えられないという点である。

多くのスポーツでは、「攻撃のプレー」と「守備のプレー」がそれぞれ存在するが、相手のコートに落とすことを目指して両者が同じ1つのボールを打ち合うため、同じ打球行為(プレー)に「攻撃」と「守備」両方の性質があることも特徴となる。つまり、プレイヤー自身が、今攻めているのか、守っているのかの意識が重要となる。

また、これらのスポーツは短時間のプレーを繰り返して得点を積み重ねることで勝利を目指す。したがって、プレー間の「考える時間」の方が長いという特性がある。バレーボールなら1セット20分のうちインプレ―(ラリー時間)は計5分、テニスでは2時間の試合でインプレ―は20分ともいわれている。このプレー間で次のプレーの予測といった「思考の読み合い」もゲームの重要なポイントとなる。

このカテゴリーを体育で扱う場合に、注意すべき点がある。それは、「ラリーを続ける楽しさ」を目指すなら相手が取りやすいボールを打ち、「得点を重ねる戦略ゲームの楽しさ」を目指すなら相手が取りにくいボールを打つことが必要なことである。戦略ゲームとしては落とすことが目的になるが、ラリーがつながることがゲームを魅力的にする側面もある。「つなぐゲーム」なのか「落とすゲーム」なのかによって真逆のアプローチになるため、この共通認識がないとゲームとして成立しないだろう。

5.ゴール型スポーツ

このカテゴリーには、サッカー、バスケ、ハンドボール、ラグビー、ホッケーなどが入る。これらの競技に共通する特性は、攻守が混在し、身体にもボールにも相手の妨害が許されているという点である。また、ほとんどの場合チームスポーツであることも特徴である。

サッカーをはじめ、このカテゴリーに関する戦略論は非常に多岐であり、多様な考え方が存在する。しかし、大原則として共通するのは、より多くの得点をあげることを目指すということである。また、それぞれのスポーツには、手が使えない、3歩以上歩けない、ボールを前に投げてはいけない、身体でボールに触れてはいけないなどの非常に厳しい制約がかけられている。この厳しい条件の中で、いかにゴールを奪うかを考えることが、戦略となる。

このカテゴリーを体育で扱う際には、2つのことに注意する必要がある。1つ目は、「制約のデザイン」である。同じゴール型スポーツでも、異なる制約によって異なる戦略が生まれる。すなわち、教師がそのゲームにどんな制約をかけるかで、子供が体験できる「戦略ゲーム」が変わってくる。コート内の人数や、得点の条件、してはいけないプレーなど、体験させたい戦略の楽しさが味わえるように、ゲームのルールをデザインすることが求められる。

2つめは、「攻撃成功率の担保」である。どんなに戦略が立てられても、それが成功できなければ楽しさは味わえない。したがって、ゲーム中にどんな技能レベルの子でも得点できるようなゲームデザインが必要である。しかし、得点が簡単すぎると、逆に技能が高い子が無双し始めてしまう。特にゴール型スポーツは技能差が出やすいため、技能が高い子の一人相撲や、技能の低い子の劣等感・孤立感が出ないように最大限配慮すべきである。

6.ベースボール型スポーツ

このカテゴリーには、野球、ソフトボール、クリケットが入る。これらの競技に共通する特性は、攻守がターンで明確に分かれているという点である。ほとんどのスポーツが攻撃に対応して守備をする(攻撃→守備)という順序である一方で、このカテゴリーは打たせないように投げて、それに反応して打つ(守備→攻撃)という順序である点が特殊である。

まずピッチャー対バッターでは、当然ながら「駆け引き」が生まれる。相手がイメージする球種の「裏をかく」ように選択をする。そして野手(ピッチャー以外)は、バッターカウント、アウト数、ランナーの位置などによって、何塁に投げるかの判断が変わってくる。いくつかの選択肢を持ちながら、さらに打球コースによって1つを選択し、守備を行う。

つまり、ベースボール型スポーツは、予想を立て、瞬間的に判断することにより特化したスポーツであるといえる。この判断の成功率が、勝敗に大きく影響を与える特性を持つ。

これを体育で扱うならば、やはり「判断局面」を大事にしたい。この場合は一塁、こっちだったら二塁と、ある種「プログラミング的思考」に似たようなトライ&エラーを重ねることに価値があると考えられる。また、それらは「打った後」に発生する判断局面であることが多いため、プロ野球のような「守備→攻撃」の順序ではなく、打つこと(攻撃)から始めるようなルール設定でいいと思われる。

この簡易版ベースボール型スポーツの代表例として、『Baseball5』がある。海外ではすでに浸透し、世界大会が開かれるほど発展している。2019年には日本にも伝わり、少しずつ広まっている。校庭で行うにはちょうどいいサイズの5人制ゲームで、必要な用具も少なく、外野手にありがちな「立っているだけ」が解消されるゲーム展開となることも魅力的である。また、専用の作戦シートを使ったマネジメントなども体験でき、体育にはもってこいのスポーツである(詳細は以下を参照)。


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以上、前編・後編にわたり、スポーツの分類と戦略の違いについてまとめてきた。体育では、これらの様々なスポーツを通じて「ゲームの楽しさ・面白さ」を伝えることが目標とされている。つまり、単純に「打つのが楽しい」「走るのが楽しい」ではなく、それらの運動行為を用いて「ゲームに勝利する」ことを目指すのが、スポーツの持つ本来の魅力である。

その魅力を体育で「再現」するには、教師がそれぞれのスポーツの魅力を理解し、適切なポイントに着目して体験させることが必要となる。本稿はその一助となることを期待して執筆した。現場で展開される体育というスポーツ活動が、より魅力的になることを願うばかりである。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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