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C-popのカセットテープを買うときの注意点

私は1979年から今に至るまで、C-popのカセットテープを買い続けています。そのほとんどが広東ポップで、主に日本の曲のカバーソングを集めています。
最近、若い人たちにもカセットテープが注目されているのは喜ばしく思っています。ただ、入手経路がオークションなど実物が見られない場合は、買って良いものかどうか判断するのが難しいかもしれません。私もオークションはよくチェックしているのですが、怪しい商品も散見されます。正規盤と思って買ったのに海賊盤だったりしたら最悪です。出品されるほぼすべての商品が返品不可なので、買ってから泣きを見ることになります。
そこで、この記事ではカセットテープ初心者の方向けにいくつか注意点をまとめておきます。
なお私は広東ポップ専門なので、以下の記事はほとんど香港での経験であることを予めご了承ください(台湾のC-popもおおむね当てはまるとは思いますが)。


正規盤を見分けるためのチェックポイント

では見分け方について解説していきます。オークションかフリマサイトで入手する前提で書きますが、もちろんレコード店などで実物が見られればなお良いです。その場合、店員にも質問してもらえれば万全です(たまに知識のない店員もいるので注意)。
とにかく商品写真を良くチェックしてください。チェックポイントは複数ありますから、組み合わせて判断してください。

最初にチェックすること

「歌手本人の歌唱かどうか」は一番大事ですね。そんなバカな、と思われるかもしれませんが、80年代くらいまでは屋台に並べてあるカセットテープは別人歌唱のことがありました。
もっとも値段が相場の半額以下なので、非正規盤ってバレバレです。80年代ですと当時の価格はHK$10〜20.-くらいです。

チェックするのは「Cover version」「之歌」です。「Cover version」はわかりますね。「之歌」は、歌手名のあとに書いてあります。例えば「張國榮之歌」などと書いてあれば、セミプロによる別人歌唱に間違いないです。

もう一つ、ジャケットに「內附歌詞」と書いていないかもチェックしてください。これは「歌詞カードが入っている」という意味です。正規盤で歌詞カードがないなんて、70年代以前のごく一部の歌手にしかありえません。Cover version以外でわざわざこれが書いてあれば海賊盤の疑いがあります。
このパターンだとほとんどが歌手本人の歌唱なのですが、正規盤のジャケット写真をまんま流用することもあり、知識がないと正規盤と区別がつきません。

どこのレーベルから販売されているか

正規盤を買うならレーベルをチェックしてください。
国際展開しているレーベルであればまず間違いないですが、もちろんローカルレーベルも正規盤があります。例えば先にあげた張國榮はアルバムのほとんどをローカルレーベルから出しています。

正規盤レーベル一覧

以下に主なレーベルをあげておきます。買収などでグループを移動しているレーベルもありますので、グループは参考程度にしてください。基準は主に80~90年代です。また、すでに終了しているレーベルもあります。

PolyGram 寶麗金グループ

・Polydor、Philips、Cinepoly、Pony Canyon、Goldenpony、Universal Music、Go East

EMIグループ
・EMI、DMI

SONYグループ
・CBS Sony、BMG

Warner Music 華納グループ
・WEA、Warner Music

Emperor Entertainment 英皇集團グループ
・Emperor Entertainment、Fitto Record

独立系
・華星唱片 Capital Artists
・娛樂唱片 Crown Records(日本のクラウンレコードとは別会社)
・永恆唱片 Wing Hang Record
・文志唱片 Man Chi Records
・皇聲洋行唱片 KINSTER(キングレコードの香港法人)
・BANG BANG唱片
・新興全音 SUN HING PANSONIC
・康藝成音 CONTEC SOUND MEDIA
・月昇唱片 MOONRISE RECORD
・日昇唱片 Rising Sun
・黑白唱片 Black & White
・星光唱片 Star Records
・藝視唱片 SANCITY RECORDS
・力圖唱片 Colorway Records

90年代くらいまでに日本で出回っていそうなレーベルは、大体こんな所でしょうか。
日本でも知られているくらいの歌手なら、ググッてわかることも多いです。それでもわからない場合は、私にコメントいただければわかる範囲でお答えします。

本体をチェックしよう

めったにないですが、カセットテープ本体に歌手名も曲名も書いていないことがあります。もちろん非正規盤と察しがつきますね。

しかし、例外もあります。

文志唱片 1978年製

怪しさ満点、すわ海賊盤?と思われそうですが実は正規盤です。
これは文志唱片の製品ですが、70年代に製造されたものだとこの手抜きシールに出くわすことがあります。こんなことをする正規盤レーベルは文志唱片以外に見たことがありません。文志唱片品を入手される方はほとんどいないと思いますが、こんなこともあります。
あと、誤録音防止のツメを折っていないカセットテープもあります。永恆唱片品などにちらほら見られますが、こちらも正規盤ですのでご安心ください。

繁体字か簡体字か

香港で販売されるカセットテープなら、書いてある文字は100%繁体字です。これは正規盤に間違いないですが、香港以外で販売される商品でも繁体字のことがあります。しかし、商品写真にレーベルの住所が見当たらないとどこで販売したものかわからないですね。

簡体字は中国とマレーシア・シンガポールで使われていますから、簡体字が書いてあればそのカセットテープは中国またはマレーシア・シンガポールで販売する前提の商品です(もしかしたらインドネシア向けなどもあるかもしれません)。

「原版引进/原版引進」と書いてあれば、これはマスターテープからコピーしたという意味なので、中国またはマレーシア・シンガポール向けの正規盤ということになります。レーベルのロゴマークは原盤レーベルとローカルレーベルの二つが表示されていることが多いです。ほとんど現地生産品ですが、中には香港製もあります。「原版引进/原版引進」と書いていない製品は非正規盤の可能性があります。
「限制中國大陸」などの文字があれば中国専売品で、香港製とは価格差をつけている(≒安い)ので販売できないことになっています。「〇〇音像出版公司(〇〇は地名)」など、住所と社名がきちんと書いてある商品は正規盤です。

ざっくり言えば、簡体字が書いてある製品は主に中国製の可能性が高く、まれにマレーシア製が流通していると考えられます。

繁体字ですが原版引進


中国製ってどうなの?


個人的な意見ですが、正規盤でも年代が古い中国製は品質が落ちると思います。ジャケットの印刷がちょっと雑だったりすることもありますし。ですから古い中国製はあまりおすすめはできません。
なおマレーシア製は買ったことがないのでよくわかりません。

そもそも香港製でさえ、日本のカセットテープと比較すると品質は良くありません。私はPolydorの走行系の悪さに泣かされました。無理な力がかかるらしく、再生中に止まってしまうことがしばしばありました。

中国製をおすすめしない理由はもう一つあります。次項で説明します。

丸パクリの海賊盤はどうなの?


ここで言う「丸パクリ」とは、ジャケット写真と本体に貼ってあるシールをコピーして印刷し、市販のカセットテープにダビングした一見本物に見えるものです。一番タチが悪い、「偽物」と言った方が正しいかもしれません。

非正規盤も色々です。それなりに知識があればすぐわかるものとして、ジャケット写真が違うだけのもの(先述の「內附歌詞」品なども含む)、市販品二~三本を集めて編集しベスト盤を作ったものなどがあります。これらは手口としては可愛いほうです。もちろんそれで満足できる方はどうぞ、ということになります。
また、別人歌唱品はある意味オリジナルなので海賊盤とは言えないでしょう。

中国製をおすすめしないもう一つの理由は、「丸パクリの海賊盤」がある可能性を捨て切れない所なんです。
90年代になると正規盤の証明としてホログラムシールを貼った製品が出てきましたが、そんなシールが必要ということは偽物があることの裏返しです。ややこしいのは、このシールが貼っていないから非正規盤とは限らないのです。なぜなら昔は貼っていなかったのですから。いつから貼られ始めたものかわからないと、その判断がつきません。
あまり脅かすようなことは言いたくないのですが、そのシールが偽物の可能性すらあります。つまりシールが貼ってあるからと言って100%正規盤とは言えないのです。

もちろん流通している大多数は正規盤だと信じます。しかし、中国製を入手する時は「丸パクリの海賊版かもしれない」と言うことを頭の片隅に置いておいてください。

なお、香港製に関して言えば丸パクリの海賊盤はないと思っています。理由は、そんな手間をかけても当時のレコード店で売れないからです。

丸パクリ品を作るとなると当然本物に近い値段で売れることを期待しますが、レコード店の仕入れルートは決まっています。
では屋台で売るか、となっても屋台に並べるカセットテープは格安の非正規品が多く、買う方も非正規品と承知して買うわけですね。そこで丸パクリ品を本物として屋台に置いても、安くなければ売れませんからあまりメリットがないですよね。

もう一つ理由があります。仮に丸パクリ品があったとしても、その品質の悪さを考えれば大多数が廃棄されていると思います。カセットテープが下火になってからもう30年も経つのです。

とは言え、物事に絶対はないので「香港製の海賊盤は存在しない」と断言はできないです。もし見つけたとしたら逆に貴重で、宝くじで一等を当てるくらい難しいことだと思います(笑)。

ただし、CDは事情が違います。90年代だったと思いますが、深水埗の屋台でコピー印刷らしきジャケット写真を次々とCDケースにはさんでいたヤツを見かけました。お客の目の前でそれをやるんですから呆れてしまいます。ジャケ写がコピーなんですから、当然CDもコピーです。
あれを見てしまったので、私はオークションでCDを買う勇気がありません。

台湾の場合

これまで私の体験から香港の事例を書いてきましたが、台湾の場合はまた違った注意点があります。次項で説明します。

香港より海賊盤が多い!

香港では80年代までに海賊盤はほぼ駆逐されたのですが、当時の台湾ではまだ堂々と売られていました。なんと屋台だけではなく、ちゃんとしたレコード店にもありました。
当時あまり深く考えずに海賊盤を買ってしまった人もいるでしょう。そしてその商品が流れ流れて日本にたどり着き、海賊盤と知らずにオークションに出品される、なんてことがあるかもしれません。台湾製カセットテープの方がシビアにチェックする必要があります。

「上尚」に気をつけろ!

「上尚」と言う会社は、おそらく80年代の台湾で最大手の海賊盤レーベルです。
本当かどうかわかりませんが、日本の「デンオン(DENON)」のカセットテープを使っていると言うのがウリでした。デンオンさん、80年代に台湾向けに大量輸出していましたか?関係者の方、どなたかご存じでしたらコメントください。

91年だったと思いますが、台北のとあるショッピングセンターをぶらぶらしていて、レコード店のテナントを見つけたので入ってみました。カセットテープが歌手別に並んでいる中で、なんと「上尚」のコーナーが独立して棚に並んでいました。その数なんと数百本。屋台じゃあるまいし、レコード店がこれでは正規盤レーベルはたまったもんじゃないです。
一時は横浜中華街の中国雑貨店でも売られていたそうです。

上尚カセットテープの外観
上尚カセットテープの歌詞カード

外観はどの歌手でもすべてこのデザインで統一されています。
歌詞カードはご覧の通り、正規盤からコピーして印刷しています。ちなみにこの製品はニコイチで、歌詞のフォントもサイズもまるで違っています。安易のきわみです。
私は海賊盤は買わないことにしているのですが、この二本だけはどうしても興味が湧いたので買ってしまいました。

鄧麗君(テレサ・テン)はカオス!

台湾と言えばテレサ・テン、テレサ・テンと言えば台湾。彼女のカセットテープをオークションで見かけない日はありません。なにしろキャリアが長く、非正規盤を含めるとおびただしいレーベルがあります。日本から発売されたレーベルはポリドールとトーラスですが、ほとんど日本語歌唱です。それ以外に英語、台湾華語、台湾語、広東語、インドネシア語歌唱品がありその多くは台湾レーベルと現地レーベルで販売されました。以下の情報はWikipediaから拾った正規盤のレーベルです。

・宇宙唱片
・百代唱片(EMI)
・海山唱片(HaiShan)
・麗風唱片(Life Records)
・樂風唱片(Life Records)※香港
・寶麗金(PolyGram)/ 寶麗多(Polydor)※香港

とりあえずここにあげたレーベルは正規盤で間違いないです。
問題は非正規盤で、おそらくこの数倍はあります。非正規盤と言っても版権をクリアにしているものと無断コピーしたものとがあり、どのレーベルが合法品であるかの区別はつきません。
テレサ・テンは香港や東南アジア各地の華人にも人気だったので、香港をはじめローカルレーベルの非正規盤も多数存在します。
これらがアジア中に拡散したのですから、正規盤より数は多いはずです。実際オークションを見れば非正規盤も多数出品されています。ですから、日本語以外のカセットテープは出品者・入札者ともに非正規盤かもしれない前提で取り引きするということです。やはりレーベルのチェックは重要です。

さて中国製の動向はと言いますと、改革開放政策に舵を切る前までは海賊盤自体がごくわずかです。当時の中国ではテレサ・テンのカセットテープはほとんどが香港から持ち込まれたもの(個人的にダビングしたものも含む)です。ですから香港製の非正規盤が流通していた可能性はあると思いますが、量はそう多くないでしょう。カセットデッキがまだ高級品だった時代です。

怪しいのはもう少しあと、改革開放の時代になってからです。中国ではテレサ・テンの曲は87年まで放送禁止にされていたくらいで、長く敵対関係にある台湾のマスターテープを入手できませんでした。ですから87年までの製品で簡体字が書いてあれば、非正規盤で間違いないです。ただし、香港のレーベルから版権を買った製品の可能性もありますので、海賊盤とは言い切れないと思います。

終わりに

以上が私の経験と見聞した話です。裏の取れていない話もありますので、間違いでしたらごめんなさい。

今回私がこれを書こうと思ったのは、オークションで非正規盤をずいぶん強気な価格で出品している人を見かけたからです。
もちろんそんな人ばかりではなく、ジャンク品として出品し利益を追求しているとは思えない値段にしている人もいます。
オークションの相場なんてあってないようなものですから、どんなに高くてもお互いに納得できればいいのですが、傍から見ていて「それでいいの?」と思わずにはいられません。
正規盤の新品でさえ品質に難ありのことがあるのですから、中古品で流通しているものはそれ以上に劣化が進んでいます。海賊盤なんて品質はまったく無視ですから、再生してすぐテープが切れてしまう可能性すらあります。
特に初心者の方が非正規盤に引っかかって嫌な思いをしたり、「こんなもんか」と失望されたりするのはしのびないです。

オークションには必ず「転売ヤー」が出没して暴利を貪ろうとしますが、こんな人間的にアウトなヤツには一円だって支払う義理はないです。正規盤だろうと非正規盤だろうと、本当の価値なんてわかっていませんから。

この記事を読まれた方が、良い買い物をされることを切に願います。

なお、私は「広東語カバーソング事典」というマガジンを運営しています。よろしければご覧ください。


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