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私もきっと朝顔なのだろう
眼を覚ますと、鈴虫の音が聞こえてきた。
りーん、りーんと、私を迎えた。
皆が夢の世界に行った頃、私は引き返すようにこちら側へ帰ってくる。
目を擦り、一息をつく。
どんな夢を見ていたっけ。
瞼を閉じ、そうしてまた、瞼を開く。
天井の模様を眺めながら意識がこちらに戻ってくるのを感じている。
ほのかにしか届かない独りきりの月の光。
あなたが照らしている事を私はちゃんと知っていると伝えたくて、窓を開けた。
むわっとした空気が広がり、じわりと汗をかいた。
今日は全てをさらけ出していたその月に、私を委ねていたかった。
夜に眠れなくなってからどれだけが経ったのだろう。
私が耐えられなかった数々は、すべて太陽の在り方とともにあったから。
自ら光りを放ち続けるその星と、共にある頑張る事が出来る人々は
私にはただ眩しく、火傷をしてしまいそうになる。
一人じゃ光る事が出来ない私のような月と一緒にいることを決めてから、この生活は始まった。
汗ばんだTシャツを着替えて、ショートパンツを履き替えて、私は街に出た。
夜の街は良い。誰もが寝静まって、この世界には自分一人だけのような。
外灯は私だけを照らすために設置されているかのような錯覚をくれて、
まるでスポットライトの明かりの様に、この静寂とした世界の主役にしてくれる。
だけど、だけど。
足元の地面を見て歩く事は出来ても、上を向き夜空の星を探し歩くことが出来ても、私は前を向いては歩けない。
アスファルトの亀裂に沿いながら進んでいると、視界に白い猫が移りこんできた。
「こんばんは、今日もお迎えに来てくれたのね」
私の足の周りをぐるりと二周すると、とことこと前を歩き、度々こちらを振り返る。
最近猫達を見かけるようになった。
私が気が付いていなかっただけで、きっと彼らはもともとそこにいたのだろう。
近くの神社のお賽銭箱の前が彼らの集合場所だ。
私は腰を掛けただただ彼らを眺めている。
じゃれあっているのかな、喧嘩しているのかな。
あ、一緒に毛づくろい。
ごろごろごろごろ。
楽しそう。
彼らには、首輪がついていた。
きっとどこかの家の飼い猫なんだろう。
こうしてみんな、夜になると街に自由を求めにやってくるんだ。
なんだか私みたい。
「にゃ~(違うよお姉さん、逆だよ)」
こちらを見てにゃ~と鳴く彼らはとんでもなく愛おしい。
「にゃ~にゃ(お姉さんが、僕らみたいだねと思って誘っているんだ)」
…なんだか話しかけられている様な気がするけれど、気のせいかな。
そんな事を感じてしまうような魔法が、夜の世界にはある。
「にゃぁにゃ~にゃ~(聞こえていないみたいだね。大丈夫、僕らはお姉さんを見つけたらいつでもここに誘うよ、一人にはさせない)」
私を連れてきてくれた白い猫が、膝の上に飛び乗りすり寄ってきた。
背中をさすると、くすぐったそうにびくんと跳ねた。
■■■
ふと気が付くと夜空は白んでいた。
世界が近づいている。
またねと声をかけ神社を後にし家へ向かっている途中、
一輪の朝顔を見かけた。
明るい時間に花開き、世界が閉じるのと同時にしぼんでいく。
花弁が開きかけている道程を、はじめて見た。
私には気が付かない程のスピードで、だけれど確かに進んでいる。
眼を閉じた。
花開く、命の音を聞く。
それはまるで一日毎に命を落とし、一日毎に生まれる事を繰り返している様で。
そんな事を思いながら、部屋の布団にくるまり眼を閉じた。
私もきっと、朝顔なのだろう。
今日の自分は死に、明日の自分が生まれる。
私は私のままだろうか。
けれども何かが、変わっているといいな。
みんながもうすぐ帰ってくるから、私は夢の世界へ戻る事にした。
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