190901パラダイムシフターnote用ヘッダ第01章28節

【第1章】青年は、淫魔と出会う (28/31)【天文】

【目次】

【蒼星】

「ついてくるのだわ」

 セクシーナースコスチュームの女は、ヒップを左右に揺らしながら、円形の部屋を横切る。青年も、慌てて立ち上がり、あとを追う。

 部屋には、上下に続く螺旋階段がある。女は手すりに触れると、踏み段を登り始める。続く青年は、顔をしかめる。

「おまえ、見えてるぞ……」

「ん、なにが?」

「……スカートの中身が」

 階段の傾斜とスカートの丈の短さもあって、青年の視線からは真紅のショーツに包まれた女の股間が丸見えとなっている。

「別にかまわないのだわ。減るものじゃあるまいし」

 女は気に止める様子もなく、わざとらしく腰を振りながら、かつかつ、とハイヒールの足音を立てて階段を登っていく。青年は、視線をそらしつつ、あとに続く。

「しかし、調べる、なんてことが可能なのか?」

「それが、できるのだわ」

 足を進めつつ、つぶやいた青年の独り言に、女は答える。どことなく、得意げな声音だった。

「次元転移者<パラダイムシフター>の精神には、出身世界のアドレスが刻まれている。あなたが寝ているうちに、読みとらせてもらったのだわ」

 青年は、怪訝な表情を浮かべる。

「他人に心のなかをのぞかれるというのは、よい気分がしないな」

「そのおかげで、あなたは意識不明から回復したのだわ。感謝こそされども、文句を言われる筋合いはないのだわ」

 ふん、と女が鼻を鳴らす音が聞こえる。やがて、二人は螺旋階段を登りきり、大きく広がる空間に出る。

 青年は、思わず高い天井を仰ぐ。女は、自慢げに腰に手を当てて、男を見やる。

 階下の部屋よりも広い空間の上部は、ガラス張りの円形天井になっている。

 透明なドーム状の屋根越しには、夜の帳のような黒い空に、無数の星々のような輝きがまたたいている。

「自慢の部屋……『天文室』だわ」

 女は両手を広げて、頭上に視線を向ける。

「ここがどこか、って質問にまだ答えていなかったわね。ここは、次元の狭間に浮かぶ私の部屋。星のように見える光が、数多の次元世界<パラダイム>だわ」

 青年は、誇るような女の解説を聞き流しつつ、『天文室』の様子を観察する。

 空間の中央に、見慣れない装置が設置されている。いくつものリングが球を成すように組み合わさり、その中央を背骨のように大型望遠鏡が貫いている。

「あ、ちょっと……勝手に触らないでほしいのだわ!」

 青年が球形装置に近づこうとすると、女は早足で先回りし、行く手をふさぐ。

「この『天球儀』が、『天文室』の心臓部! 素人にいじくりまわされて、壊されちゃたまらないのだわ!」

「俺のことを、蛮族か、原始人かなんだと思っているのか?」

「ともかく、これは精密機器だわ! 扱いには、専門的な知識が必要なの!!」

「そんな貴重品、いったいどこで手に入れたんだ。お手製か?」

「なんとなく入ったアンティークショップの片隅で、ほこりをかぶっていたのだわ。店主が値打ちを知らなかったから、二束三文で買いたたいたの」

 あきれた表情を浮かべる青年のまえで、女はリングの角度を調整し始めた。

【漆黒】

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