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【第2部11章】地底にある星 (12/16)【銃架】

【目次】

【騎手】

「ん、んん……こいつは、どういうことかい?」

 一本道の坑道のなかで直立する男は、耳をそばだてつつ、いぶかしげな声をこぼす。場所は、ビョルン氏族の居住区と氷床をつなぐトンネルだ。

「一瞬だが、銃声が『こちらからむこう』から『むこうからこちら』に変わった……ひょっとすると、ひょっとするかい?」

 男はテンガロンハットをかぶり、ウェスタンスタイルのジャケットを着こんでいる。背には、グラトニアの国章が刻まれた外套を羽織っている。

 周囲は暗黒に満ち、口にくわえる葉巻についた火がわずかな光源となって、その姿──征騎士ブラッドフォード・コルケットを、照らし出している。

「銃には三つの種類がある。脅す銃、傷つける銃……そして、殺す銃だ。ミーが使うのは、最後の銃。ユーたち、わかっているかい?」

 ブラッドフォードは、もとの半分ほどの長さになった葉巻を地面に吐き捨て、厚革のブーツで火を踏み消す。周囲は完全な闇に包まれる。

「制圧部隊の突破に使ったのは、トロッコかい? だとすれば想定通り……そもそも、ユーたちに他の選択肢はないだろうがな」

 ウェスタンスタイルの征騎士が、わざわざ一本道の線路上に陣取っているのは、敵の反撃の進路と手段を誘導する目的がある。

 相手に銃火器がなく、奇襲のための迂回路もなければ、スピードに頼った正面突破をはかるしかない。

 そもそも、この次元世界<パラダイム>に食指を伸ばすにあたり、グラトニア帝国軍も様々な奸計を講じている。

 ドヴェルグどもが一枚岩でないことを嗅ぎあて、ヴァルキュリアへの敵愾心に突けこみ、最大勢力であるカマルク氏族からの協力をとりつけた。

 今回の制圧作戦は、カマルク氏族への手みやげと、グラトニアに警戒心を抱くビョルン氏族の排除というふたつの目的がある。

 とはいえ、この地下世界においてグラトニア人はよそ者だ。坑道の知識に関して、ドヴェルグどもを出し抜けるとは思っていない。

 だからこそ、裏のかきようのないこの場所を選んだ。抜け道も逃げ場もない一本道のトンネルならば、互いに正面勝負をしかけるしかない。

 そして、直接銃火を交え、敵をすりつぶす戦い方こそがブラッドフォード・コルケットの十八番だ。この征騎士は、己の火力に絶対の自信を持っている。

 いざとなれば、集落のひとつやふたつ、独力で殲滅できると確信している。とはいえ、念には念を押すに越したことはない。

『プロフェッサー』から提供され、居住区に送りこんだドヴェルグの『脳人形』による襲撃部隊も、念押しの威力偵察が目的だ。

「かえって、手間が減ったということかい……向こうから処刑台に突っこんできてくれるってわけだからなァ!」

 暗闇のなかで、テンガロンハットの下に征服者の獰猛な笑みが浮かぶ。すでに、トロッコの経路上には複数の設置型機銃<セントリーガン>を置いてある。

 一定の速度の物体が通過すれば、センサーが反応して射撃を開始する。大口径の銃弾が連射され、生身の人間はもちろん、戦車でもないかぎりボロクズにする。

 原住民が利用しているトロッコの速度と強度は、すでに確認済みだ。データをもとに、オーバーキルとも言える火力を投入している。

「ユーたちには、少しばかり大人げなかったかい? だが……こいつは、戦争だ。恨むなら、火力の足りない自分たちを恨みな!」

 ブラッドフォードの吐き捨てるような言葉が、岩窟に反響する。ウェスタンスタイルの男は、手探りで懐を探る。

 二本めの葉巻を取り出すと、口にくわえる。ライターを取り出し、火をともす。一瞬だけ、光源が周囲を照らす。

 ブラッドフォードの周囲に無数の人が転がり、岩壁に長い影を投げかける。

 手錠と口枷で拘束されたドヴェルグたちだ。十数名はいる。ドヴェルグの一部には、ずた袋の口のよう超常の穴が開いた者が混じっている。

 ブラッドフォードの能力『人間銃架<ハード・ラック>』の犠牲となり、体内から銃火器を取り出されたドヴェルグたちだ。

 作戦決行の前段階として、テンガロンハットの征騎士は、人知れず原住民狩りを進めていた。

 初期に捕らえたドヴェルグは『プロフェッサー』の手によって『脳人形』化され、処置に間にあわなかった者たちは銃火器の『材料』にされている。

「ユーたちにも、感謝している。まったく、ドヴェルグってのは大した生命力の持ち主かい。おかげで、強い武器を取り出せた」

 ウェスタンスタイルの男の足元で、ドヴェルグの一人が襲撃者をにらみつけながら、口枷ごしにうめき声をこぼす。

「せいぜい、良い戦果を出してくれるかい。ユーたち?」

 ブラッドフォードは人質を一瞥すると、ライターの火を消す。口元をゆがめるサディステックな笑みが、闇のなかへと隠された。

【猛火】

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