【第2部11章】地底にある星 (13/16)【猛火】
【銃架】←
──ズガガガッ、ガガ……ッ。
重厚なフルオート射撃音が、遠くから響いてくる。トロッコが、『処刑台』に突入した証拠だ。いまごろ敵は、銃弾の嵐でスクラップと化しているだろう。
ブラッドフォードは快哉を叫ぼうとして、その後いぶかしむような表情を浮かべる。征騎士としての直感が、疑念を訴えかけてくる。
「……ただのトロッコ相手に、射撃時間が長すぎるかい?」
設置型機銃<セントリーガン>は、携行用の火器よりもはるかに大型で、当然のように破壊力も連射性能も圧倒的に上回る。
テンガロンハットの征騎士の経験と感覚では、二、三秒で敵は破壊され、銃撃も停止するはずだ。しかし、発砲音は十数秒ほど続いている。
「うグぶあッ!!」
「ボあぶぎぃ!?」
設置型機銃<セントリーガン>を取り出されたドヴェルグが、断末魔の悲鳴をあげたあと、絶命して動かなくなる。
「つまり……いまのいままで射撃し続けていたということかい? ターゲットを破壊しきれずに?」
額に汗をにじませたブラッドフォードは、ひざ立ちになる。テンガロンハットを手でおさえ、線路に耳をあてる。
──ゴオン、ゴオンゴオン……
「おい、おいおい……どんなからくりを使ったっていうのかい!?」
ウェスタンスタイルの男は目を見開き、反射的に立ちあがる。レールを伝わる振動音が、ブラッドフォードの懸念を証明する。
無傷か、手負いかまではわからないが、トロッコは生きている。無数の大口径銃弾を浴びてなお線路上を走り、こちらへ向かってきている。
「戦車なみの重装甲のトロッコなんざ、見たことも聞いたこともないぜ……そもそも、なにに使うつもりかい! そんなもの!?」
二本目の葉巻を口から吐き捨てながら、ブラッドフォードは息絶えたドヴェルグを左右に蹴りのける。まだ息のある地下の住人のまえでひざをつく。
「銃には三つの種類がある。ミーが使っているのは、三番目……その意味を、教えてやる必要があるかい。徹底的に」
テンガロンハットの征騎士が右手をかざすと、眼下のドヴェルグの瞳におびえの光が宿る。ウェスタンスタイルの男は、かまうことなく手のひらを押しつける。
ずぶり、と右手がドヴェルグの肉体へと沈みこんでいく。手首を中心に、超常の穴が開く。内部をまさぐったブラッドフォードはなにかをつかむと、腕を引き抜く。
「回る弾倉、起きる撃鉄。一日一万発、飛び交う銃弾……弱いってことは、恥ずかしい。なあ、そう思わないかい?」
しごくまじめな表情で語りかけるテンガロンハットの征騎士の手には、ロケットランチャーがにぎりしめられていた。
大型弾頭の発射兵器を体内から『取り出された』ドヴェルグは、顔に脂汗が浮かび、びくびくと全身をけいれんさせている。
「ロケットランチャーの一発で、ユーは限界かい? まあ、いま死なれても困る。ターゲットを粉みじんに爆破するまでは生きていてもらわないとな」
ウェスタンスタイルの男は、別の虜囚の体内に手を突っこみ、同型のロケットランチャーを取り出す。
「いるかい? 出番だぜ!」
右腕で二基の発射装置を抱えながら、左手でさらに別の捕虜の首根っこをつかみつつ、ブラッドフォードは闇のなかに声をかける。
トンネルを満たす漆黒のなかから、ぬうっ、と二人のドヴェルグが現れる。地面に転がされた虜囚とは異なり、身体は拘束されていない。
どこか虚ろな目つきのドヴェルグは、『プロフェッサー』が作りだし、テンガロンハットの征騎士に提供した『脳人形』のうちの二体だ。
忠実に命令を履行し、それでいて柔軟な判断が可能で、かつ使い捨てても問題はない『脳人形』は、征騎士たちにとって理想的な兵隊だ。
今回の任務に際して用立てられた『脳人形』は、全部で十体。うち、一体は族長の暗殺に、七体は居住区の制圧に、それぞれすでに動かしている。
いま目のまえにいるドヴェルグは、護衛、兼、予備戦力としてとっておいた最後の二体。まさにいまが使いどきだ。
「わざわざふたつのロケットランチャーを用意した理由がわかるかい? 一発はターゲットに、もう一発は線路を吹っ飛ばせ」
ウェスタンスタイルの男は、大型発射装置を一基ずつ、『脳人形』のドヴェルグに手渡す。破壊兵器をかついだ兵隊が、トロッコに向かって坑道を走り出す。
「さて……お手並み拝見といこうかい?」
ブラッドフォードは、左手で引きずっていた虜囚のドヴェルグを手近な場所に転がすと、自分は線路のうえにひざをつく。レールから、煩わしい振動が伝わってくる。
──ドゴオォンッ!
「ほ、思ったより近かったかい?」
わずか数分ほどのうちに、緩やかなカーブの向こう側で爆炎がきらめき、轟音がトンネル内に反響する。線路のひしゃげる揺れが、ひざまで響く。
ロケット弾の炸裂による一瞬の閃光が、テンガロンハットの影で、にやり、と笑う口元を照らし出す。
「えギうげぇ!!」
「ぼげブげっ!?」
ロケットランチャーの『材料』となったドヴェルグ二名が、爆音とともに末期の悲鳴をあげて、死亡する。
「ま、よく頑張ったほうかい。ここまで接近してくれるとは……んんッ!?」
轟音に麻痺した聴覚が、わずかな違和を拾いとる。ブラッドフォードは頭を降って、耳をそばだてる。
──ガゴォン……ゴオン、ゴオンゴオン……ッ!!
「コイツはビックリだ……トロッコが、まだ生きてやがるのかい!?」
もはやレールに耳を当てるまでもなく、線路のうえを走る車両の重低音がはっきりとトンネルに反響してくる。テンガロンハットの下の表情が、驚愕にゆがむ。
トロッコ本体がロケットランチャーの直撃に耐えたことも信じがたいが、レールを破壊されて脱線を免れるなど考えがたい事態だ。
「トロッコの敏腕パイロットでもいるっていうのかい? そんなピンポイントでツブシの利かない操縦手が……いや、待てよ」
ブラッドフォードの脳裏に『転移律』あるいは『シフターズ・エフェクト』と呼ばれる概念が去来する。
次元転移者<パラダイムシフター>のみが操ることを許された、世界法則に囚われないオンリーワンの異能の総称……いままさに自分が行使している『人間銃架<ハード・ラック>』のような……
「敵に次元転移者<パラダイムシフター>が居やがったってことかい!? なるほど……それなら無茶もとおるって道理だ!!」
ウェスタンスタイルの男は、かたわらに転がしていたドヴェルグの捕虜に対して手を伸ばす。
「開け、『人間銃架<ハード・ラック>』ッ!!」
地底の種族の身体に穴が開き、ブラッドフォードの腕がずぶすぶと沈みこんでいく。そのなかから取り出されたのは、物干し竿のように長い銃器──アンチマテリアルライフルだった。
「銃には三つの種類がある。こいつは、そのとっておき……なるほど、最後まで楽しませてくれるってわけかい!」
テンガロンハットの征騎士は、線路のうえにうつ伏せになる。帽子の傾きを整えると、アンチマテリアルライフルをかまえ、スコープをのぞく。
暗視機能を使うまでもない。ターゲット自体は視認できないが、線路と車輪がこすれる火花を視認できる。
「大健闘だよ、ユー。ほめてやろうかい……それじゃあ、グッドラック!」
ウェスタンスタイルの男は、飛び散る火花の少しうえの闇へと照準をあわせ、トリガーを引く。
大口径弾の発射される轟音が岩壁に反響し、ブラッドフォードのすぐ横に転がるドヴェルグが苦悶の表情で血を吐いた。
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