【第1章】青年は、淫魔と出会う (11/31)【魅了】
【豚頭】←
「よし……あなたたち、さっきの叫び声は聞いていたわね。アレを追うのだわ」
「ヴルル」
投げ捨てた武器と腰みのをふたたび身につけた豚頭どもは、『淫魔』のまえに整列し、その指示に対してうなずきを返す。
肉の接触によって『淫魔』に精神を掌握されたオークたちは、驚くほどに豹変した従順さを示している。
「行きなさいッ!」
『淫魔』の命令を受けて、豚頭の一団はリーダーを先頭に原生林の闇のなかに駆けていく。漆黒の獣が去っていった方角だ。
「……うぷっ」
しばし、オークたちの背中を見送っていた『淫魔』は、控えめなげっぷをこぼしつつ、口元を抑える。豚頭の悪臭が、気道を逆流してくる。
「気持ちわる……」
『淫魔』は、こみあげる吐き気を必死に抑えこむ。せっかく補充した、貴重な精だ。無駄にはできない。
「……ついで、というわけではないけれど」
あの無貌の怪物を始末するための、戦力も手に入れた。
いまや、あの豚頭どもは『淫魔』の指示に忠実に従うだけでなく、その気になれば五感を共有することもできる。
オークたちがターゲットを補足すれば、自動的に『淫魔』も気づく寸法だ。
「こうなったら、最後までやってやるのだわ」
『淫魔』は、顔を上げる。杉の大樹のすきまから、薄暗い空が見えた。
→【戦力】
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