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異世界転移流離譚パラダイムシフター

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数多の次元世界<パラダイム>に転移<シフト>して、青年は故郷を目指す──
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2021年11月の記事一覧

【第2部30章】阻止限界点 (2/4)【隔壁】

【第2部30章】阻止限界点 (2/4)【隔壁】

【目次】

【電磁】←

──キュドオンッ!

 レールガンの第2射が、放たれる。ドクター・ビッグバンは、左右の手のひらで鼓膜を守る。超音速の弾体が、中央管制室に撃ちこまれ、破滅的な崩落音が遅れて響く。

 白衣の老科学者は、間一髪、転がるように廊下へ飛び出て、難を逃れる。通路に待ちかまえていた敵機の姿を、ようやく捉える。

「なんとなればすなわち、皇帝の親衛隊のような戦力が残っていることは想定し

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【第2部30章】阻止限界点 (1/4)【電磁】

【第2部30章】阻止限界点 (1/4)【電磁】

【目次】

【第29章】←

「なんとなればすなわち……これでは、どうかナ!?」

 ドクター・ビッグバンは、モニターの明かりのみが光源となっている暗闇のなかで、たん、と強い打鍵音を立ててエンターキーをたたく。

 液晶画面上に並ぶ文字列が、一瞬、消える。白衣の老科学者は、息を呑む。次の瞬間、『Reboot』の文字列とともに、『塔』の中央管制室の照明がともり、電源が復旧する。

「試行回数、12回

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (16/16)【消沈】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (16/16)【消沈】

【目次】

【焼尽】←

「あグ……ッ!?」

 アンナリーヤは、うめく。急にトリュウザの抵抗が消えたため、空中浮遊のバランスを崩しかけた。顔をあげ、首をめぐらせれば、能力主を失った鉛色の巨蛭が、塵のようになって分解していくさまが見える。

 禍々しい光を放っていた赤熱する大地が、本来の姿へと鎮まっていく。広範囲を包みこんでいた極高温環境は、もとの温度へ向かって急速に低下していく。

 戦乙女の姫

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (14/16)【血河】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (14/16)【血河】

【目次】

【屍山】←

 イクサヶ原には、武芸者という人種がいる。

 農民や商人など武家の産まれではなかったり、あるいは親がサムライであっても末子であるがゆえに領土や官職を受け継げなかったりしたなかで、個人的に武術の技を研鑽するものたちだ。

 出自同様に、武芸者の目指すところも様々だ。実力を示して大名家への仕官を目指すものがもっとも多いが、傭兵や用心棒としての暮らしで満足するもの、盗賊まがい

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (13/16)【屍山】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (13/16)【屍山】

【目次】

【未来】←

 数え年で、齢5つのときだったと思う。

 イクサヶ原の片隅の貧村を挟んで、サムライ同士の小競り合いが起こった。100人に満たぬ足軽、10騎足らずの騎竜。

 戦とも言えぬほどの規模の衝突は、日が暮れるまえに終わり、貧村は地図のうえから消える。イクサヶ原の残酷な、しかしありふれた出来事。になるはずだった。

 3日経っても、配下の足軽はおろか、戦況を知らせる伝令すら戻って

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (12/16)【未来】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (12/16)【未来】

【目次】

【死舞】←

「……ぬぅ!?」

 長尺の刀でフロルの脳天から串刺しにしようとして、殺意に血走った瞳の視線を落としたトリュウザは、魔銀<ミスリル>の大盾の内側に、あり得ないものを見る。

 盾の握りをつかむ手が、ふたつある。利き手に剣を構えている以上、両方とも少年のものではあり得ない。

 そもそも、余分な側の手には、手首より根本がない。切断面は、鈍色の金属光沢。蒼碧の輝きを放つガント

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (11/16)【死舞】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (11/16)【死舞】

【目次】

【突風】←

「花は桜木、人は武士……死合の粋を解さぬ小童<こわっぱ>め! さきほどまでの見事な剣さばきを、醜く汚す無様にて御座候ッ!!」

 かんしゃくを起こしたかのごとくわめくトリュウザは、ふたたび長尺の刀を大振りする。殺人的な突風が生じ、斬撃が『飛』ぶ。フロルは、魔銀<ミスリル>の大盾で防御し、衝撃で後退する。

 予想はしていたが、すさまじい圧力が盾越しに襲いかかる。蓄積した疲

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (10/16)【突風】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (10/16)【突風】

【目次】

【殴蹴】←

「花は桜木、人は武士。若人、よくぞここまで喰らいついた……某が、介錯つかまつる」

「ぐぬぬぬ……ッ!」

 狂宴の終焉を惜しむように、トリュウザはつぶやく。倒れ伏すフロルは、必死に立ちあがろうとする。全身が悲鳴をあげて、言うことを聞かない。

(戦い抜く……グラー帝の征騎士じゃなくて、グラトニアの……故郷のために立つ、騎士として……ッ!)

 指の感覚を喪失した右手は、

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (9/16)【殴蹴】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (9/16)【殴蹴】

【目次】

【投擲】←

──ゴンッ!

 鈍い音が、頭蓋骨を伝わって耳に届く。投げ棍棒のごとく、回転しながら飛来した鞘は、フロルの前頭部をしたたかに打ちつける。少年の体勢が、崩れる。

(油断していたつもりは、ないんだけど……マントのときの、轍を踏んだッ!)

 臨死状況における鈍痛を打ち消そうと、脳の奥からアドレナリンが過剰分泌される。つられて鈍化する時間感覚のなかで、フロルは悔やむ。

 自

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (8/16)【投擲】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (8/16)【投擲】

【目次】

【幻滅】←

「いまのは、少年の転移律<シフターズ・エフェクト>か……? 肝を冷やしたぞ……どう見ても、死んだと思ったからだ……」

 上空で、戦乙女の姫騎士が安堵の嘆息をこぼす。一度は両断された上下半身をつなぎあわせたフロルは、なにごともなかったかのように剣を握りなおす。

「花は桜木、人は武士……石破天驚とは、まさにこの光景にて御座候……某の齢になって、これほどの相手と死合えるとは

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (7/16)【幻滅】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (7/16)【幻滅】

【目次】

【対話】←

「見損ないました、トリュウザさま……グラトニア征騎士、序列第1位ともあろう御方が……ッ!!」

 激情のまま、フロルは吼える。初老の剣士のことなど初めから、なにも知らなかった。至高の騎士はかくあれかし、という勝手な幻影を重ねていただけだ。

 自分でも的外れなことを言っている、と少年は思う。それでも、叫ばずにはいられなかった。口にせねば、己自身を保てなかった。

 ひゅん

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (6/16)【対話】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (6/16)【対話】

【目次】

【剣戟】←

「たあッ!」

「ぬんっ!」

 着地と同時に、フロルは右腕を伸ばして剣を振るう。視覚を封じられてはいるが、第六感の導くとおりならば、切っ先が首筋を捉えるはずだ。

 少年の耳と指先に、肉を斬り裂く感触の代わりに、刃同士がぶつかりあう硬質な響きが伝わってくる。トリュウザが、長尺の刀でフロルの剣撃を受け止めた。

 初老の剣士の足音は、聞こえなかった。おそらく、背を向けたま

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (5/16)【剣戟】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (5/16)【剣戟】

【目次】

【名乗】←

──ガッ、キイィィン!!

 業物の刃同士のぶつかりあう音が、天上まで届く勢いで甲高く響く。トリュウザに対して、わずかにフロルの踏みこみが遅れたのか、異形の刀身がはじかれる。

 しかし、少年が初老の剣士に対して、おくれをとっているわけでは決してない。その証拠に、両者の得物はともに、わずかながら刃こぼれする。

「つ──ッ!」

 龍剣解放の境地へ到達しているフロルは、武

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【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (4/16)【名乗】

【第2部29章】至高の騎士、最強の刃 (4/16)【名乗】

【目次】

【相対】←

「……トリュウザさま。即刻、この高温環境を元に戻していただきたい」

「ほう。某の仕業と一目で気づくとは、なかなかの慧眼にて御座候。征騎士衆には、我が『焦熱禍蛇<しょうねつかだ>』の龍剣解放を見せたことはなかったと思ったが……」

 アンナリーヤは脈打つ巨蛭のうえに身を横たえながら、フロルという名の少年と、トリュウザと呼ばれた初老の剣士の会話に耳を傾ける。

 少年が手に

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