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異世界転移流離譚パラダイムシフター

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数多の次元世界<パラダイム>に転移<シフト>して、青年は故郷を目指す──
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2020年3月の記事一覧

【第15章】本社決戦 (5/27)【爆破】

【第15章】本社決戦 (5/27)【爆破】

【目次】

【電脳】←

「グリン──ッ!」

 新たな攻性プログラムが、左巻きの螺旋を描きながら侵入者を狙う。ノイズまみれの『淫魔』の精神体は、先刻までと比べてあきらかに動きが鈍い。

 反応する間を与えられることもなく、文字列の鉄条網が白い柔肌を絡めとろうとする。とっさに『淫魔』は、フリルがひらつくドレスを脱ぎ捨てる。

 紫色のゴシックロリータドレスがおとりとなって、攻性プログラムに引きちぎ

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【第15章】本社決戦 (4/27)【電脳】

【第15章】本社決戦 (4/27)【電脳】

【目次】

【屍兵】←

「グリン……グリン、グリン……」

 中央に天蓋付きのベッドが設えられた円形の部屋に、『淫魔』の口元のぷっくりと膨らんだ唇から、軽妙な鼻歌が響く。

 床のじゅうたんのうえには、インテリアと不釣り合いなコンピュータが幾台も置かれて、微細な駆動音を共鳴させている。

 セフィロト社との先の会戦で鹵獲された軍用導子演算装置は、絡みあうケーブルによって並列接続され、『淫魔』が座

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【第15章】本社決戦 (3/27)【屍兵】

【第15章】本社決戦 (3/27)【屍兵】

【目次】

【基底】←

──ズドオォ……ン。

 アサイラの眼前で土煙が巻き起こり、地面が鳴動する。疾走していた青年は、急ブレーキをかける。

 砂埃のなかに、いくつもの人影が見える。煙幕が晴れていくと同時に、その正体を視認できる。

「ア、ァア、ァ……」

「……グヌッ」

 虚ろなうめき声の合唱を聞いて、アサイラは顔をしかめる。目の前に現れたのは、うごめく屍体──ゾンビたちだ。

 前方をふ

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【第15章】本社決戦 (2/27)【基底】

【第15章】本社決戦 (2/27)【基底】

【目次】

【本社】←

『死んだ次元世界<パラダイム>だわ……』

 独り言のような『淫魔』のつぶやきが、アサイラの脳裏に響く。

『セフィロト本社は、活動停止した世界を土台にして建造したみたい。半人工の、言ってしまえば次元世界<パラダイム>のゾンビ、ってところだわ……』

 青年の疑念を先読みするように、精神接続するナビゲーターが説明する。念話の声音は平静だが、どことなく嫌悪感のような響きがあ

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【第15章】本社決戦 (1/27)【本社】

【第15章】本社決戦 (1/27)【本社】

【目次】

【第14章】←

『──アサイラ、生きてる?』

「勝手に殺すな、クソ淫魔」

『ああ、よかった。次元障壁越しでも、精神接続は維持できるみたいだわ』

 大の字に倒れこんでいた青年の意識が、精神に直接響く声によって覚醒する。冷たい人工物の床の感触を背中に覚えながら、アサイラは身を起こす。

 無機質な通路だった。車両が通れそうな広さがある。白い照明灯が設置された天井には、なんのためかわ

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【第14章】次元戦線 (3/3)【破城】

【第14章】次元戦線 (3/3)【破城】

【目次】

【群蟲】←

「──来る、か!」

 白銀の大剣をかまえつつ、アサイラは左右から回りこむように肉薄してくるドローンたちをにらみつける。

──ズガガガッ!

 数体の無人機が挟撃の位置から、龍の乗り手を、搭載機銃で掃射する。龍皇女の六枚の翼が、花のつぼみのように青年を包み、防御する。

 アサイラは、目を見開く。射撃を続けるドローンの影から、クラウディアーナの龍翼のすきまをくぐり抜け、

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【第14章】次元戦線 (2/3)【群蟲】

【第14章】次元戦線 (2/3)【群蟲】

【目次】

【狭間】←

「わあっ、ごめんなさい……でも、ララ、おじいちゃんのことが心配で……」

「このワタシの顔を見に来てくれたのかナ、ララ?」

「うん。これ、おじいちゃんと一緒に食べようと思って、とっておいたの」

 ララと呼ばれた少女は、『ドクター』に小皿を差し出す。そこには、カットされたショートケーキが乗っていた。

「ありがとう、ララ。だが、ここは少々あぶないかナ。なんとなればすなわ

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【第14章】次元戦線 (1/3)【狭間】

【第14章】次元戦線 (1/3)【狭間】

【目次】

【第13章】←

──ギイイィィィ……

 漆黒の虚無空間が、わずかに重苦しく振動する。闇の満ちた空には、遠近無数の次元世界<パラダイム>が、星のような輝きを放っている。

 世界と世界の狭間に広がる虚無空間に忽然と、巨大な城門のような『扉』が浮かんでいる。両開きのゲートが、きしみ音をあげながら口をあけていく。

 やがて『門』が開ききると、向こう側から、六枚の翼を持った白銀の龍が飛び

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【第13章】夜明け前戦争 (12/12)【反攻】

【第13章】夜明け前戦争 (12/12)【反攻】

【目次】

【秘策】←

「うおああぉぁぁ──ッ!!」

 草原の丘陵に、雄叫びが響きわたる。クモの子を散らすように潰走するセフィロト企業軍の戦線を突破し、『龍都』陣営の人間たちが斜面を駆けおりていく。

 稜線の向こう側には、迷彩模様の大きな陣幕が張られている。セフィロト社側の前線拠点であるが、見張りの姿はない。

 突撃の勢いのまま、『龍都』の戦士たちは幕屋のなかに踏みこんでいく。

「……な

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【第13章】夜明け前戦争 (11/12)【秘策】

【第13章】夜明け前戦争 (11/12)【秘策】

【目次】

【龍剣】←

『この姿をふたたび見られる日が来るとは、正直、思っていなかったですわ』

 宝珠のごときドラゴンの瞳が細められ、龍皇女は感慨深げにつぶやく。アサイラは、白銀の龍の背に二本の足で立ちあがる。

 風圧で、おのずから巻き布がほどけていく。やがて、クラウディアーナの躯体同様に真珠のごとき輝きを放つ刀身が、暗天の下できらめく。

『使いなさい、我が伴侶! それは、そなたの剣ですわ

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【第13章】夜明け前戦争 (10/12)【龍剣】

【第13章】夜明け前戦争 (10/12)【龍剣】

【目次】

【無影】←

「グヌ……ッ!」

 急加速に伴う風圧と慣性に、アサイラは顔をしかめる。それでも、振り落とされまいと、上位龍<エルダードラゴン>のたてがみを必死につかむ。

 龍皇女は、冷たい夜空を滑空して、ぴったりと敵機の真横につける。高速飛行を維持したまま、クラウディアーナはステルス機に巨体を寄せていく。

 相手の上面装甲に鉤爪を突き立て、龍皇女はドラゴンの体重をかけていく。六枚の

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【第13章】夜明け前戦争 (9/12)【無影】

【第13章】夜明け前戦争 (9/12)【無影】

【目次】

【飛翔】←

「ルガアアァァァ──ッ!!」

 宙空で身をよじったクラウディアーナは、上方の敵機に対して灼光の吐息<ブレス>を放つ。夜闇を切り裂く輝きの奔流が、機影を呑みこむ。

 だが、閃光が晴れれば、無傷のステルス機が上位龍<エルダードラゴン>に肉薄している。重機関銃が、鉄火を吐き出す。

『……くうッ!』

 龍皇女は体幹をひねり、鉄の礫から急所と乗り手をかばう。重金属の弾丸が、

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【第13章】夜明け前戦争 (8/12)【飛翔】

【第13章】夜明け前戦争 (8/12)【飛翔】

【目次】

【戦術】←

「アリアーナからの『念話』ですわ。例の空飛ぶ機械とやらが現れたそうです」

 防衛隊の陣地にとどまっていたクラウディアーナが、かたわらのアサイラを見る。暗闇を篝火が照らすなか、黒髪の青年がうなずく。

「リンカどのでしたか、彼女の『龍剣』修理が間に合えば理想でしたが……」

「無いものねだりをしても、始まらないか……俺たちだけの力で、あれをしとめるぞ。ディアナどの」

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【第13章】夜明け前戦争 (7/12)【戦術】

【第13章】夜明け前戦争 (7/12)【戦術】

【目次】

【再編】←

「ドラゴンは決して飛ぶな! 地上にいる限りスティンガーは使えない……人間は、ドラゴンの影に身を隠しながら前進しろ!!」

 シルヴィアの指示は、アリアーナの『念話』の魔法<マギア>によって全隊に伝達される。少し遅れて、無数の銃声が夜の丘のふもとに響き始める。

 飛行移動に慣れた龍たちは、難儀そうに、ゆっくりと草原のうえを這い進んでいく。随伴する人間たちは、銃弾が飛来する

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