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おバイク一人旅~新潟→山形(往路) 2019.5.2

二度目のバイクでの一人旅は、山形に行くことにした。
昔、たびたび山形を訪ねていた時期があり、いつかまた行きたいと、ずっと考えていたからだ。
せっかくなら、同じ道を往復するのではなく、新潟から日本海を北上して、ぐるっと円を描いてこようと思った。

福島県いわき市の地元から、所要時間と日没時間を考えると、鶴岡市に一泊するのが、現実的なルートに思えた。新潟との県境にあたる、山形県の日本海側最南端の市。
そして、クラゲで有名な加茂水族館がある!
早速、鶴岡市内のビジネスホテルを予約して、バイク用の地図、ツーリングマップルとのにらめっこが始まった。
今回もできるだけ、高速道路を避けたいけれど、全下道はやはりきつい。そのため、会津までは磐越道を使って、西会津町から県境を越えて新潟県に入り、新発田市、胎内市経由で日本海に出ることにした。

出発の日は、お天気は申し分なしの快晴だったけれど、呪いたくなるほどの強風だった。
乾燥重量170kgの愛機に、荷物を入れたシートバッグと、私の重さを積んで、風の中を走る。私の体重は身長に対して、明らかに多すぎるのだけれど、それでも高速道路で、その強風に立ち向かうのは厳しかった。
トンネルを抜けた直後、大きく風にあおられ、車体が一瞬浮いたと感じたのをきっかけに、予定より早く、猪苗代磐梯高原インターで高速を降りた。
けれど、強風は下道でも容赦なく、体力を奪っていくので、休憩をとりながら走るしかない。結局、新潟県に入る手前の、道の駅にしあいづに着いた時には、予定を2時間もオーバーしていた。
これは、もしかしたら加茂水族館を見られる時間には、鶴岡に着けないかもしれない・・・そんな不安を抱えつつも、空腹には勝てずに、道の駅で会津野菜のカレーを堪能した。

どうしても走ることに夢中になってしまい、綺麗な場所でバイクを止めて写真を撮る、ということがなかなかできないけれど、私は国道49号で県境を超えた最初の町、阿賀町の風景が大好きだ。
山道をしばらく走っていくと、やがて風景が阿賀野川に移る。豊かな水の流れと、鮮やかに萌える五月の山々、そして混じり気なしの青空と白い雲。言葉にすると、ありきたりになってしまうが、両手を広げて迎えてくれる、その大きな自然は、溶け込んでしまいたくなるほど素敵だ。
まだ春にしか行ったことがないけれど、次は是非、紅葉の季節に走ってみたい。

西へ西へと走ってきたルートを、新発田市で北に変えつつ、日本海へ向かう途中で、道の駅胎内へ立ち寄った。
胎内とはアイヌ語で「清い水の流れる地」だと、ツーリングマップルに書いてある。
高台にある道の駅は、小さいけれど、そこからの景色が素晴らしかった。
阿賀の風景は広がりがあるけれど、胎内の山と川の重なりには、奥行きを強く感じた。心地よい景色に、もう加茂水族館は無理だと開き直り、その風景にしばし見とれつつ、休憩とした。

日本海。
太平洋沿岸で暮らす私にとっては、ちょうど日本の反対側だが、そこでも強風はおさまらなかった。
バイクとは良くできたもので、横風を受けると、乗り手が特に意識しなくても、その風に対応できる分だけ、車体が自然に風上へ傾く。そして、傾いたまま、まっすぐに走っていくのだ。
但し、スタミナは削られる。日本海に沿って延び、羽州浜街道と呼ばれる、素晴らしいシーサイドコースの国道を楽しむうちに、日が傾いてきたのも相まって、私は寒さを感じるようになっていた。
加茂水族館はとっくに諦めていたが、有名な笹川流れで、絶景を楽しみつつ名物の塩ソフトクリームを・・・という、ささやかな計画も、時間と気温的に無理だった。しかし、銀色に輝く海に浮かぶ、美しい粟島を写真に収めることができたので、このときはそれで良しと自分に言い聞かせた。
しかし、実は今でも悔しい。悔しいので、笹川流れと加茂水族館は、リベンジを目論んでいる。

そして、日本海といえば、私にとっては絶対に夕日。
これだけは譲れない。
羽州浜街道で山形県に入ると、道の駅あつみがある。ここは、駅の裏手がすぐ海で、岩場になった海岸に降りることができるのだ。
夕日の前に道の駅で晩ご飯、と思っていたが、既にレストランの閉店時間をすぎていたので、売店で買ったずんだ大福と、温かいお茶でお腹をつなぎ、海岸の岩場に下りた。
女性がひとりで、海に向かって立っている状況は、もしかしたら、他人の目にはとても淋しく見えるかもしれない。けれど、私はわくわくしながら夕日を待っていた。たまたま、私の横にも一人旅とおぼしき女性がいて、そんなときは勝手に、仲間意識を感じたりする。
この日は夕方になるに連れて、空に雲がかかってしまったけれど、水平線と雲の間で、暮れていく太陽の光が、少しづつ銀から朱へと変わっていくのが見えた。

前年に石川県の千里浜で見たような、海まで染まる夕日ではなかったけれど、銀鼠の海にオレンジの太陽が落ちていく風景は、また違った趣があった。
太陽が完全に、水平線の下に消えるのを見送って、愛機にまたがると、少し緊張した。ここからは、確実に暗くなる中を、ホテルまで走らなくてはならない。スマホと、ヘルメットに取り付けたインカム(通信機のようなもの)をBluetoothでつなぎ、ナビの音声が聞こえるようにして、ホテルの位置をセットした。
街灯が少なく、暗い上に、潮風がヘルメットのシールドを曇らせ、視界は悪かった。心細かったが、その分、街に近づくにつれて増えていく灯りが、頼もしく感じられた。
そして、ようやくホテルに着くと、店を探して食事をしよう、という気分にはならなかった。風の中を走ったことで、いつものツーリングより、かなり体力を消耗していたのだろう。ホテルの横のコンビニでお弁当を買い、食事と入浴を済ませると、あっという間に眠りに落ちてしまった。

最後に、ホテルの中で起きた、山形らしいエピソードをひとつ。
到着した時、私がバイクを止めたところに、自転車よりは大きい、赤いシートに包まれたものがあったのだ。
てっきり小型のバイクだと思った私は「赤いシートのバイクの後ろに、私のバイク止めました」とフロントで申告したのだが、全く伝わらない。
しばらく話すうち、気づいたフロントの方が「ああ、あの赤いシート、バイクじゃなくて除雪機ですよ」と教えてくれた。
雪が降らない地域で暮らす私には、除雪機という発想がなかった。そうか、ここは山形県、遠くまで来たんだなと、しみじみ実感した出来事だった。

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