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my base, IWAKI

恵まれたことに、私は自分が住む街を、この上なく愛している。
福島県を四角形に見立てたら、ちょうど右下の角に当たる、南端・東端の位置に、私のベースタウン、いわき市がある。県都や一大観光地の会津からは、物理的にも知名度的にも距離があり、言葉の訛りは限りなく茨城に近いけれど、地図上はれっきとした東北地方という、微妙な位置づけの街。
地元なのだから、もともとこの街は好きだったけれど、いわきいーべよ引っ越すなんてありえねーがら、と断言できるほどになったのは、バイクに乗るようになってからのことだ。
広い市内を、100kmほどぐるっと走るだけで、街から海、海から山、山から街と、景色が変わる。素敵なママがいる喫茶店でケーキを食べたり、水族館で魚や動物達に癒されたり、潮風に吹かれながら缶コーヒーを飲んだりと、寄り道も魅力的だ。木々の若葉や紅葉はもちろん、茶から緑、そして秋には金へと変わる田んぼの色も、季節の移り変わりを教えてくれる。
愛機に跨り、地元を走るたびに、思うことがある。この街は、絶景という場所は少ないかもしれないけれど、あちこちに散りばめられた風景の種類が豊富で、そしてとても、とても美しい。

いわきと言えば、さて、何だろう。
時々、テレビでも紹介される、テーマパークのスパリゾートハワイアンズと、映画にもなったフラガール。
明るい日差しが差し込む、実は重要な学術施設でもある水族館、アクアマリンふくしま。
スポーツがお好きな方は、サッカーJFL所属のいわきFC、いわき平競輪、冬のサンシャインマラソンを挙げるかもしれない。意外なところでは、中央競馬の競走馬が、怪我や疲れを癒すための温泉だろうか。

友人たちが市外から遊びに来る時、特にそれがツーリングなら、私はまず海を見てもらう。
震災後にできた防潮堤が、景観を隠してしまう場所もあるけれど、やはりいわきの海は美しい。穏やかな波が太陽をきらきら弾き、天気や季節によって、その色は行くたびに、微妙な変化を見せてくれる。
いわきのライダーの中には、地元を走る時は必ずそこを通る「いつもの海」を持つ方もいる。私もそのひとりだ。

私の「いつもの海」のひとつが、岬全体が大きな公園になった、三崎公園という高台の場所から、小名浜港まで下ってくる坂道。
少しアクセルを緩めて坂を降りると、左側に太平洋が大きく広がり、晴天の日は特に、待ち構えたように銀に輝く。公園の出口にある、三崎トンネルからは、かまぼこの形に切り取られた空間の中に、漁船や市場が見えて、まるで小さな絵画のようだ。
道路なので、見ていられるのは一瞬だけれど、私はこの可愛らしい風景を、とても気に入っている。

海の後に街を通り、山の風景を見に行けるのは、いわきの風景に飽きが来ない理由のひとつだと思う。
峠が好きなライダーは、水石山や湯ノ岳といった山道を、オフローダーは未舗装の林道を求めて行くけれど、私はそこまで登らずに、緑が多い公道を、景色が見える余裕を持って走るのが大好きだ。
私のお気に入りは、遠野というエリア。オートキャンプ場がある、いわきの西側の地区で、書家の金澤翔子さんの美術館や、満月祭という夜のお祭りなど、個性的な魅力を持つ場所だ。私個人としては、このエリアに行くと、立ち寄らずにはいられない素敵な喫茶店がある。
常磐道の湯本インターに近く、街から気軽に足を伸ばせる距離なので、思いついたらすぐに行けるのもありがたい。
目立つ絶景があるわけではないけれど、のんびりと川が流れ、背の低い山が日差しを浴びて、とてもささやかに緑色の光を放つ。そんな風景を見ると、時間の流れが、少し穏やかになったような気がして、居心地が良いのだ。
数年前、実りを迎えた金色の田んぼの横道に、緋色の彼岸花がどこまでも並んで咲いていた風景は、今でも忘れられない。

他にも愛すべき風景、場所、美味しい食べ物など事欠かないけれど、すべて挙げたらきっと、noteのサーバー容量を、いわきのことだけで食い尽くしてしまう。
東日本大震災の悲劇を乗り越え、大水害にも負けずに、静かに呼吸を続ける、私の大切なベースタウン。繰り返しになるが、私はこの街を、この上なく愛している。

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