朝顔のカリカリ焼き(不登校日記3)
私が小学生の時もそうであったように、現代でも小学校1年生は朝顔を育て、それを観察する。もしかしたら、地域性もあるかもしれない。
うちの子も、三人とも小1で朝顔を育て、家に持ち帰り、夏休み中に観察日記などを書く。
そしてタイトルの通り、三番目のミコが持ち帰った朝顔は、ほぼほぼ瀕死の状態で、鉢植えを持ち上げると、茶色く乾いた葉がハラハラと落ちた。
年々気候が厳しくなってきて、酷暑というのはわかる。上の二人の時は、まだ暑さがマシだったのかもしれない。が、ミコのクラスメイトで、きちんと花を咲かせている子もいるということは、ミコが水やりをさぼった線が濃厚だ。
ミコの朝顔も、一応花が咲いた跡があり、種子が膨らんでいる。種が採取できればお勉強としては完遂ということになろう。観察日記は日に日に乾いていく様子を書くしかないのか。
でももしかしたら、朝顔は強いから復活するかもしれない。せめてもの抵抗という感じで、私は、学校で配られた小さな鉢植えいっぱいに土を増やし、水をたっぷりやり、しばらく様子をみることにした。
◇
ミコのカリカリの朝顔を見て、呆れると同時に、私はなんだか少しほっとしてしまった。
いっちゃんは生真面目でしっかり水やりをするタイプだったし、ニンタもそうだ。更に、ニンタに関しては、自分が育てた花に対する愛が強すぎて、もしも枯れたら一大事というところがあって、親も真剣勝負だった。
◇
末っ子の要領の良さというか、適当さというか、ミコの新一年生活は驚きの連続だ。
最初こそ緊張して学校に通い、授業中にプリントが書き終わらなかっただけで泣くというフレッシュさもあったが、それも束の間。
授業参観に行ったら、先生の話の隙をついてヤジを入れて笑いをとろうとしているし、ハンカチを忘れた日の持ち物チェックでは、給食袋から口拭きタオルをこっそり取り出して、素知らぬ顔で切り抜けたらしい。
もし、ミコが一人目の子だったら、こんなにもお調子者で適当で嘘つきで、将来どうなってしまうだろうかと心配したかもしれない。
しかし、真面目でしっかりしている長子のいっちゃんを育てている経験から、良い子はいっとき助かるが、本人は生きづらいのでは、と感じるようになった。
そしておそらく、生来の生真面目さから躓き、現在、不登校真っ最中のいっちゃんと暮らしていると、本人が大変なのはもちろんだけれど、親も、そこから救ってやることも出来ずに、ただただ本人が自分の力で立ち上がるのを待つしかないというしんどさがある。
ミコはミコで、吃音があるし繊細な一面もあると言われたことがある。それでも、いっちゃんと比べるとずいぶん力が抜けていて、世間でよく聞く『やんちゃ小学生あるある』を毎日繰り出してくるので、ずいぶんと正しく子供らしく生きているなと安心するのだ。
◇
先日ミコは、おでこと鼻をずるんと擦りむいて、学校から帰ってきた。どうやら通学路を外れて公園の木の間をすり抜けて走っているうちに、木の根に足をとられたらしい。
「血が出てたから、公園で、顔を洗ってきたよ。みんなが洗えって言うから」。
悪びれずに報告するので、「通学路以外は通ってはいけないよ」と棒読みで返答するしかなかった。どうせまたやるだろう。
そういえば、いっちゃんだって小1の時は張り切って公園に遊びに行ったりしていたんだった。成長と共に子供らしさが失われていくのは仕方ないとしても、自分の人生を粗末に扱わなければならないくらい疲れ果ててしまうのは、どう考えたっておかしい。
私達が暮らすのは、特に良くも悪くもない、大きな特徴がない街で、公立の学校に通い、皆がするように高校受験もしようと、ただそれだけの子育てだった。
家庭環境は決して良いとは言えないけれど、常に子供たちのケアは続けてきた。でももう、それだけでは子供たちを守れないのかもしれない。普通に勉強して普通に学校へ行っておいで、という事が、困難な時代なのかもしれない。
文部科学省では「不登校を問題行動と判断してはならない」という通知を出している。学校の現場では様々な努力がされているのだろうけれど、大きく時代は変わったのに、小中学校の様式は大きく変わらないままここまで来て、『公教育の限界』という言葉も聞くようになった。
学校へ行くことが当たり前でなくなったこの時代、いっちゃんにも、ニンタにも、ミコにも、それぞれに学びやすく生きやすい環境を探すことが親の役目で、親にとっては、更に高度な課題が与えられている時代だとも言える。
絶賛人生足踏み中のいっちゃんや、特別な支援が必要なニンタや、まだこの世界を面白がっているミコを守るために、「そんなこと言われてもおかあさんには難しいから」と諦められない。
一人で生きていけるようになるまで、どうか人生が楽しいものだと思えるように、私は今、学校以外の場所を探している。フリースクール、フリースペース、習い事、障害者支援施設など、自分の住んでいる自治体も超えて情報を集め、気になったところは足を運ぶ。
水やりをきっちりやるいっちゃんも、花に感情移入し過ぎるニンタも、カリカリに枯らして気にしないミコも、それぞれの良さを活かして生きていける、そういう子供時代を過ごせる場所を探していきたい。
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