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差別や偏見を越え、理解とつながりを~精神障害者とその家族編~

埼玉県は2020年3月、県議会にて全国初「埼玉県ケアラー支援条例」を制定。現在、有識者会議を設け、ケアラーおよびヤングケアラーの実態調査を実施し、2021年3月までに具体的な推進計画を策定する方向で進めております。今回は、精神障害者とそのご家族への支援のアドバイスをいただきたいと思い、埼玉県精神障害者家族会連合会の岡田会長にお話を伺いました。

◆テーマ:精神障害者とその家族への支援について 

◆ご協力:埼玉県精神障害者家族会連合会 会長 岡田久実子さん(写真右)

◆ご参加:関連団体 Aさん

◆発起人:埼玉県議会議員 吉良英敏(埼玉県ケアラー支援条例 提案者代表)

◆開催日:2020年11月16日


思い出したくない経験

岡田さん 現在42歳になる娘が、統合失調症を発症して20年です。今は介護福祉士として働いています。自分の身近なところでこういう病気が発症するとは思ってもいなかったです。当時、私は保育園で保育士の仕事をしており園長でした。仕事も手を抜けず、家では娘のケア。本当に思い出したくないような経験をしてきました。
たまたま知り合いを通して地元の家族会と出会い、私と同じような経験をしている人、もっと大変な思いをしている人がたくさんいると分かりました。なんとかしなければと思い、家族会活動に関わって18年になります。今は埼玉県精神障害者家族会連合会の会長と、今年から全国組織の理事長をしています。現状を多くの人に知っていただくことが大事だと思っています。

吉良 9月に自民党埼玉県連にお越しいただいた時、15分でご要望を伺うという非常に短い時間でした。私は、このお話は最低90分ないと聞けないのではないかと思い、今日改めてお時間をいただく運びになりました。

Aさん 埼玉県が全国初の「埼玉県ケアラー支援条例」を制定し、今、条例に基づいて具体的な推進計画を立てています。有識者会議にも参加しておりますので、私自身もいろいろ吸収して、推進計画に反映していきたいと思います。
埼玉県が実態調査を実施するにあたり、立正大学の森田久美子先生が絶対に岡田さんのお話を聞くべきだとおっしゃっていました。

吉良 9月に埼玉県で実態調査を行いました。地域包括支援センター283箇所、介護者サロン34箇所など。その時にAさんが、「高齢者に偏るよ。」とご発言されていたのがすごく印象に残っています。そこで、有識者会議メンバーを拡大したりもした。
今回、これまで大変苦労されてきた精神障害の皆さんに、ケアラー支援でできることがあると私は考えています。本音のところを掘り下げて意見交換させて頂きたいと思います。そして具体的に支援策に結び付けたいというのが一番の主旨です。

現状と課題

岡田さん さまざまなケアラーがいると思いますが、精神障害者家族の一番の特徴は、「保護者制度」です。

※保護者制度とは…「保護者」は、精神障害者に必要な医療を受けさせ、財産上の保護を行うなど、患者の生活行動一般における保護の任に当たらせるために、設けられた制度。

岡田さん 最初に精神障害者を対象に作られた法律は「精神病者監護法(1900年:明治33年)」。まだ治療方法がない中、病気で混乱した本人を監護義務者として自宅の座敷牢で自宅監置し、管理する役割を求められた法律です。家族側からすると、「あなたが自宅で管理しなさいよ。」と言われた法律でもあると思います。これが精神障害者家族のスタートです。

本当に多くの人たちが、どこにもつながることができずに家族だけで抱え頑張っている

岡田さん その後「精神衛生法(1950年:昭和25年)」になった時、監護義務者→保護義務者と名称は変わりましたが、内容はほぼ一緒です。入院の時に、病状が混乱して本人が自覚できない状態になった方は強制的に入院しなければいけない。その時の同意者、責任者として家族が位置付けられ、入院に関しても家族に役割・責任を求められた形。退院の時には家族が引き取らなければいけないし、その後も全ての面倒を見なければいけない義務が課せられた。
現在の「精神保健福祉法(1995年:平成7年)」でも、保護者制度はずっと継続していました。2014年(平成26年)に改正になり、法律の文言上から保護者制度はなくなりましたが、医療保護入院(強制入院)の制度は残っていて、家族等の同意という文言も残り、強制入院の時には家族誰かの同意を必要とします。家族の責任が残っているのが現状。
現在、法律上の「保護者制度」はなくなりましたが、長い時間ずっと責任は家族にあると法律で定義づけられてきたので、精神科病院の文化として未だに根強く残っています。福祉の分野も同じで、社会通念上の家族の扶養義務、民法上の扶養義務もあり、それらが背景になって、いまだに保護者制度の影を引きずっています。家族もそういう認識でいますし、医療関係者、福祉関係者も同じ認識が色濃く残っているのが現状です。
それに加え、心理的な課題「精神障害者への差別・偏見」です。社会的偏見と言いますが、本人も家族も強く持ってしまっています。自分の身内にいることはなるべく隠したい、本人も病気・障がいを認めたくないので医療や支援を拒否する状況に陥ります。病気についての正しい情報がなかなか得にくいので偏見が強まり、困っている人ほど孤立していく。情報が届きにくい人ほど困っていて、地域で孤立していく精神障害者とその家族がすごく多い。でもこれは調べたこともないし、調べ方もなかなか難しいのでその実態がいまだに分からない。電話相談などの相談窓口を家族会で作っていますが、80歳過ぎのお母さんから「今まで精神障害の娘をなんとか見てきましたが、自分も明日どうなるか分からない。2人揃って施設に入れませんか?」と相談が寄せられました。そういう方がどれだけいるのだろうと。

まったく分からない実態

岡田さん 統合失調症だけでも、100~120人に1人の発症と言われているため大変多いです。それ以外の精神疾患も加えると、本当に多くの方たちが、どこともつながらずに家族だけで抱え頑張っている状況があると想像します。
最近話題になっている8050問題にもつながってくると思います。
閉じた家庭の中で何が起きているかというと、人生が思うようにいかない、それは親のせいじゃないかと暴言暴力が繰り返されたり、家庭内で事件が起きたりする。実数はなかなか表に出てきませんが、とても多いです。ニュースで家庭内殺人が起きましたと流れますが、私たちから見るとこれは絶対精神絡んでいるね…と。実態としては流れませんが、かなりのケースあるのではないか。

吉良 ざっくりとどのぐらいだと思われますか?埼玉県の規模で。

岡田さん まったく分からないです。

Aさん 把握するには保健所や通院履歴(患者さん)で捉えていくしかないですよね。不登校の子と同じで問題が表に出てこない。

岡田さん 通院したことがない方もいますし。

Aさん 保健・福祉・医療につながっていれば把握できるけど。

吉良 つながっていないから孤立化してしまう。

岡田さん さいたま市の元保健士さんの話ですが、高齢者の家庭訪問に行った時、もう一人いる…と気づいて会う機会を作ってもらったら、その人は話せなかったそうです。人と全く関わらずに生活してきたので言葉を忘れていたんです。50代後半の男性だったそうです。接触するうちにいろんな力が蘇ってきたそうですが、同じ状況の人がどのくらいいるのだろうかと。

吉良 まさに実態が分からないということですよね。

岡田さん ケアしている親が亡くなった時に、近所の方が気づくことも結構あるみたいです。当たり前だと思われるかもしれませんが、精神障害者の親は高齢者が多いです。精神障害の場合はある程度の年齢で病気になるので。その後、長い経過をたどり精神障害者という社会的名札がつくため、気付いた時には高齢者なんです。
そのため、家族会の平均年齢はすごく高いです。90代の方が会長の家族会もある。それが現実です。そのため家族会活動も困難を極めています。

ぎりぎりまで我慢している

岡田さん 親の方々が家族会活動をしてきましたが、最近は兄弟姉妹、配偶者、子どもも活動をしています。それぞれの立場で抱える課題があるので。
特に兄弟姉妹(きょうだい・きょうだい児)は親亡き後、親代わりをしなければいけないので、とても負担が大きい。
私が電話相談を受けた方は、親が隠してきたので、兄弟が変だと分かっていたけれど現状を知らされず、どこともつながらず親が大事に抱えていた。親が亡くなってからどうもおかしいと調べたら、精神の病気ではないかと。本人は医者にも行きたくないし誰にも来てほしくないという状況で、どうしたらいいかと。

吉良 偏見があることも影響しているかもしれませんが、ぎりぎりになって相談してくるということですよね。

岡田さん 隠していたことが問題です。本人ときょうだいに、その後全部かぶさってくるのですから。そういうことが解消されないと、だから精神障害者って嫌よね、迷惑よね、といった偏見や差別にまたつながっていく。
最近は配偶者も声をあげています。病状が安定しない方と生活しながら、生活を支え、仕事や子育てもとなると一方にすごく負担がかかる。
サービスを利用する時、窓口が平日しか開いていないと仕事を休まなければならない。ご本人の男女別でサービスが使えたり使えなかったりなど苦労していると聞きます。
子どもも声をあげています。「精神障がいのある親に育てられた子どもの語り」という本には、子どもたちが自分の経験を載せています。共通点は「我が家には人には言ってはいけない秘密があるのだろうという思いで育ってきた」「親から必要以上に頼られてきた」という部分。リストカットの場面を見てしまった子や、産まなければよかったと罵声を浴びせられた子など、結果として虐待環境の中で育った子が多く、自己肯定感が低かったり。
障がい者に対してさまざまな支援がありますが、細かな部分で隙間がある。網の目から漏れてしまう人たちがいると強く感じます。

仕組みがない

岡田さん 病気の発症時には、精神疾患の正しい情報を持つ機会がないので、うちの娘の時も大混乱でした。泣き叫びから始まり、どうしちゃったの…という感じで。そういう発症の仕方だったので、娘は早い時期に医療につなげました。ですが、引きこもるような形で病気が始まると、病気だと気づくまで長いと数年かかります。自分の生活や仕事がある中で、どうバランスをとっていくかが課題。いよいよ病気となって医療につなげなければと思った時に「自分はそんな病気じゃない。病院に行きたくない。」となると医療につなげるのが本当に難しい。ここで苦労する家族がすごく多い。全国組織の相談窓口では一日に十数件電話対応をしますが、その3~4割はどう医療につなげたらいいのかという相談。
暴れたり騒ぎ出されるのは怖いし、ご近所への迷惑も考えると無理やり連れていくのは難しい。病院や保健所に相談しても「本人を連れてきてくれないと何もできません。」と。これが現状です。かつては、お医者さんが往診して鎮静剤みたいな注射を打ち病院に連れていく仕組みがありましたが、人権擁護の観点で訴えられるという危惧からしなくなったと聞いています。確かな部分は分かりませんが、今は一切ないです。
では家族がどうするかというと、移送業者に安くて10万円、高いと数十万円~100万円ぐらいを支払い病院に連れて行ってもらう。そういう手段を取らざるを得ないです。

吉良 それは民間の会社ですか?

岡田さん 民間です。ただ、そうすると本人から恨まれる。「お前のせいであんなところに入れられた。」となる。まだまだ良くない病院もいっぱいあり、拘束されたり個室に閉じ込められたり。雑な扱いを受けると「二度と医者なんて行きたくない。」とまた医療から離れて引きこもる悪循環。
治療が開始されても、そこからがすごく長い。娘も、なんとか地域で生きていけると思えるところまで10年かかりました。2度再発もしました。
病気のことを本人も家族も理解することにすごく時間がかかります。それは正しい情報が得られない、医療につながっても病気のことをきちんと教えてくれる病院が少ないからです。娘の場合は「薬飲んでいれば大丈夫。」ぐらいしか言われなくて。家でどう過ごして、どう対応すればいいか教えてもらえなかった。それを聞くと「お母さんがそんなに心配したら、それが娘さんにうつって悪化しますよ。」と言われて…それから聞けなくなってしまいました。そういう思いをしている家族がすごく多いです。成人した患者さんの場合は本人の意思が大事ですから、家族を一切診察室に受け入れない医療機関もあり家族は情報が得られない状況になる。
家族も混乱しているので、いろいろ言ったりやってしまう場合もあると思いますが、家族が冷静になるまで情報提供したり、話を聞いてくれる仕組みがないからそうなるわけで。病院でなくても、家族に正しい情報を提供して、家族が安心して本人を支える心境になれる仕組みが必要です。
イギリスでは、家族の組織が病院の中に家族相談室を作って、そこで家族の話を聞いてケアする。日本では「みんなねっと」のような家族の全国組織が、精神科病院と連携して、このような支援の形を実施する取り組みが必要だと思います。

※「みんなねっと」とは:公益社団法人全国精神保健福祉会連合会の愛称。全国47都道府県連合会を正会員とする。およそ1200の家族会、約3万人の家族が全国で活動している。埼玉県精神保健福祉会連合会所属家族会は22家族会(令和2年4月時点)。  

吉良 イギリスは進んでいますよね。ケアラーやヤングケアラーの先進事例でも話題に上がりますし。

Aさん ケアラー支援法がありますよね。人権意識が違うのと、家族の中でもこの人とこの人とそれぞれ人権があるっていう考え方。

岡田さん 18歳になったら親元から離れて一人で生活するのが当たり前という考え方や文化がすごくある。

Aさん 大人にしていくというか大人になっていくというか。
イギリスについて興味深かったのは、立正大学の森田先生に伺ったのですが、メリデン版訪問家族支援(ファミリーワーク)です。本人・家族・支援者の三者協働を目指しており、統合失調症などの診断がつくと特に初期の支援をするそうです。半年から一年の間に10回から15回、訓練を受けた専門職が家庭を訪問して、個々の家族員のアセスメントと目標設定、コミュニケーションスキルのトレーニング、家族ミーティング等を行い、本人も家族も一緒に、例えばどうしてバイトに行けなくなったのかとか、具体的な問題に支援者と家族が取り組んで、だんだん自分たちで解決できることを目指しているということでした。第三者が入ることによって、家族同士の会話も成り立っていくとのことで成果も上がっているようです。
この間、ブレイブキッズ(きょうだいケアラー支援の会)さんに行った時、障がい児のお母さんが、育て方を何にも教えてもらわなかったと困ってらっしゃいましたね。
中村ユキさんの漫画で読みましたが、彼女もお母さんの病気(統合失調症)をちゃんと知ったのは30歳を過ぎてからですよね。

生きるということ

岡田さん 病気の人が生きるという視点が医療の中では考えられていない。悪い所だけを治療する。その人は病気を持ちながら生きていくのに、生きることについては何も情報がない。病状が安定したら病院を追い出される
そうすると、家族はどうしたらいいか分からないから、かわいそうね…偏見もあるし…と抱え込み親子で高齢化していく。息子娘の人生どうなるのって思い悩みながら。

吉良 以前の岡田さんとのお話で心に残っているのが「啓発」の話です。ケアラー週間で啓発していきたいとお伝えした時、「社会的啓発と自己啓発」の両輪が必要だとおっしゃられて。当事者も変わらないと大変なんだと。その言葉が忘れられませんでした。

岡田さん 自己啓発の重要な活動として、「家族による家族学習会プログラム」を2007年に専門家と立ち上げました。みんなねっとが全国に普及しており、今は統合失調症のテキストを使っています。テキストを読みながら内容にそった想いや体験を語り合い進んでいく学習スタイル。精神障害者の家族が実施します。実施する側は専門的な知識を学ばなくてもテキストを読めば大丈夫。グループワークの手法を学んで、心が傷ついた家族が更にその場で傷つくことがないよう、元気を取り戻せるようにしていこうというプログラムです。今は、子ども同士の学習会、配偶者、兄弟姉妹と広がっています。
使用するテキストを変えることで発達障害や鬱、認知症の方たちなど対象を広げていけるプログラムだと思います。

吉良 兄弟姉妹のお話がありましたが、先日、4人のきょうだいの方がご自身の体験を座談会形式でお話するオンラインセミナーがありました。私が驚いたのは申込者が1500人以上だったことです。同じ立場の人がそれほど多いということ。声なき声があると感じました。

Aさん SOSを出してもいい社会であれば、みんなそこまで追い詰められない。そこを出すなと、精神障害の場合は特に家族の責任だと法律で言われてきたわけですから。

岡田さん 私も保育士をやってきて、生きてきたことをすべて否定された気持ちになりました。家族会の中では、旦那さんからお前のせいだと毎日言われる方もいます。

本当の実態

吉良 実態が分からないことが問題だと思います。この実態をいかに把握するかが推進計画を立てる上でも非常に重要。今まで2回の有識者会議でも議論してきました。次回、11月26日の第3回有識者会議では実態調査の結果が出ます。
調査対象は、県内の地域包括支援センター283箇所、介護者サロン34箇所、障害者相談支援事業所等441箇所、家族の会等関連団体21箇所です。

Aさん アンケートは簡単な内容でしたが、お書きになってどう思われましたか?

岡田さん あれだけでは実態は伝えきれないというもどかしさがありました。
本当に困っている実態を書きようがなかったので。

良くなる兆しがない

吉良 要望書をいただいておりますが、行政の結論は「お金がないからできません。」とのこと。でもそれで終わってしまうとこれからもずっと改善されないまま。良くなる兆しを感じませんでした。

岡田さん 障がい者としての社会的認識が、精神障害の場合は後付けなんです。身体障害や知的障害は早い段階からさまざまな福祉制度の対象でした。医療費助成も身体障害や知的障害は中度までが対象で無料。しかし、精神障害は1級だけ。1級は本当に重度の方。2級は、日常生活はなんとかできても就労はハードルが高い。仕事ができるまで力を回復できる人は本当にわずか。2級の人たちはなかなか仕事につけず、老齢年金で暮らしている親と自分の障害年金で暮らしている方が多い。
身体障害や知的障害の方が就労率は高い。精神障害の方が就労できていない。助成制度の目的としたら逆の状況。就労できている人たちに手厚くて、就労できていない人たちに薄くなっている。逆転の状況を同等にしてもらいたい。

吉良 国がしっかり支援しなければいけない。ケアラー支援もそうですが、国が法制化すれば地方も動ける部分がすごく大きい。お金の問題ですから。

岡田さん 医療費助成の問題は都道府県の事業として制度設計されているので、都道府県によって本当にばらつきがある。精神障害が全く対象になっていない都道府県もある。

吉良 埼玉県では、2級は1級の8倍近くいるんじゃないかと言われています。多すぎてお金がかかるからできないと諦めず、8倍ある中でどこから支援を始めるだとか、この規模の支援ならできるだとか掘り下げることが必要。だからこそ精神障害の実態調査を国が実施してほしい。

Aさん 実態調査もどこまで知る気があるかによって、何をどう聞くかが全く変わります
精神保健センターは、医療につなげたり困った時に一緒に行動してくれますか?

岡田さん 保健所にその機能があるはずですが、保健所統廃合が進み広域になっているので。さいたま市は保健所が身近にあるので行く家族も多いです。でも、医療拒否して困っていることを相談すると、多くの家族は医療機関を紹介されて「あとはご家族で頑張ってください。」と言われる。それができないから困って相談に行くのですが。

Aさん 総合相談支援窓口で、何でも受け入れて支援につなげる仕組みが必要ですね。縦割りだと、当てはまらないものは聞いてもらえない。総合相談支援で窓口が動くべき。

岡田さん 家族がどこかに相談するのは一大決心です。そこで「うちはできません。」と言われてしまうと…。保健所も話は聞いてくれますが、また悪くなったら来てくださいという感じで。悪くなるのが困るから相談しに行くのですが。

助けてくれる場所がなかった

Aさん 実態調査のアンケートだけでは実態は把握できないと聞けたことがすごい収穫です。一度に全部は難しいですが、差別・偏見の軽減に対して啓発はとても大切ですよね。社会全体でケアラーを支援する時に、こういう方がいて、こういう問題があると社会全体が知ること。本人とケアしている家族も学ばないと。介護を始めるのは、泳ぎ方を知らないで海に入るようなものだと。だから教えてもらわないと溺れてしまう。

岡田さん 本人や家族の心理教育が海外では普及しています。どんな病気で、どんな経過をたどって回復して、日常生活で何に気をつければ悪化しないかなど。家族としてどう対応すればいいか、効果があるのか、それを学ぶ仕組みがあります。日本では保健所がやっている家族教室。ただ、一方的な講義だけなので一般的な知識は得られてもそれぞれ症状の出方も違うので。自分のうちの場合はどうなのか確認する手立てがなく、聞くだけで終わってまた同じことの繰り返し。家族会に参加すると、一般的にはこうだけど自分はこうだったと話が聞けるので、腑に落ちるところがある。海外のプログラムは、講義後に個別面接が組み込まれていて、困っていることを聞きとりフォローしてくれる。
家族が学んで生活に活かせて、その後も相談できる仕組みが必要。

吉良 ただ我慢するところから、踏み出せるってことですよね。個別対応できる家族相談室のような窓口があれば。

ケア全体を支援する

Aさん 家族構成員全員を支援対象にする、アウトリーチ体制に家族支援も含むとか。ケア関係にある双方を対象にしないと。

※アウトリーチとは:支援が必要であるにも関わらず届いていない人に対し、行政や支援機関などが積極的に働きかけて情報と支援を届けること。

吉良 アウトリーチについて、さらに具体的に聞かせいただきたいです。どういうイメージですか?

岡田さん 私たちが最初に学んだのは、ACTという重度の精神障害を持っていても地域で生活できる支援の仕組みです。アメリカで開発されたのですが、ドクターを含む医療者、福祉の専門家(精神保健福祉士)、作業療法士、薬剤師など、いろんな職種の人がチームを組んで、地域で生活する重度の精神障害者を支援する仕組みです。病気が発症した時点、様子がおかしいと分かった時点で連絡するとチームが訪問して治療してくれる。退院後も、医療と福祉チームが訪問してくれて、やがては自分の力で地域とつながりながら生きていくところまで支援してくれる。
そこに家族支援の視点が必要です。家族は、一時期は病気の症状からわけのわからない言動や時には暴力を振るわれたり、様々な経験をして恐怖心があるため、家でじっとしていてくれれば…という考えに行きがちです。
でも、正しい情報が提供されてこう回復していくと分かれば、心配な時に相談できるところがあれば、家族の安心感を支えてくれれば頑張れる。今、訪問支援(訪問看護)もだいぶ増えてきましたが、家族支援の視点をもっているところは少ない
今そこがなかなかうまくいっていないのかなと。

できないという視点

Aさん 専門職はいろんな人を見ているので、その視点でアドバイスをもらえれば。前にヘルパーさんに「高齢者をケアしている家族はできないところばかり気になって先にやってしまう。それは本人の能力を奪う。本人が持っている力を見極めるんです。」と言われて。教えてもらわないと分からないですよね。

吉良 障がい者の法定雇用も、それを抜きにして雇用と言われても。結果的に精神障害者はなかなか雇用されない。それは分からない存在だから怖いんですよね。

Aさん アドバイザーなど、雇った後のフォロー体制がないと雇う側も不安だと思う。

岡田さん ある会社の社長さんは、発達障害のことをよく勉強していて「責任者が分かっていてもだめで、隣の席に座る人が理解していないと。」とおっしゃっていました。その感覚がすごく大切だなと。

吉良 日本の場合は、学校でも教えないのでみんな知識も経験ももっていない。分からない存在で怖いというのが最初にある。企業は国から言われて雇っているけど、隣の席の人への支援はないわけです。

無いのではない

Aさん ある精神疾患の女性は、コミュニケーションはとれないけれどメールで指示をもらえば働けると言っていました。会社も彼女を理解して雇っています。

岡田さん 普通の会話だと、要点以外にいろんな話や情報が入ってくるので整理がつかなくなるみたいで。でも、メールだと要点を読み取りやすい。うちの娘も、同じ理由で私と話すのを嫌がってメールでやりとりする時期がありました。こういった特徴を分かってもらえれば。精神障害は分かりにくいですよね。

Aさん 能力が欠けているわけではないですからね。

岡田さん 経験値が低い人も多いです。中学や高校で発症すると数年社会と断絶した状態で過ごすため、知識や友達関係などが欠落したまま大人になる。その欠けた部分を埋め合わせる場所がどこにもない。だから、能力が低いと思われてしまうのかも。

肌感覚

Aさん イギリスのヤングケアラーの子どもたちは、障がいなどについて授業の中で「学びたい。知らせてもらいたい。先生にも学んでもらいたい。」と言うそうです。そこで偏見をなくしていくのでしょうね。

岡田さん 教育はすごく大事だと思います。

Aさん 大きな声を出したり、物を投げたりするのも病気がさせていることであって、その人が悪い人ではないってどうしたら理解してもらえるのか。

吉良 私が開催している「寺子屋きらきら☆こども塾」は、大学生が先生になり小学生を教えていますが、最近は障がい児も参加します。そのため大学生に、特別支援学校の先生が障がいについて事前にレクチャーをします。そうすることで、壁が徐々になくなっていく。

岡田さん 私も保育園で障がいのあるお子さんを見てきましたが、大人がどう関わるかを子どもたちはよく見ています。大人が大切に関わっていくと、子どもたちも真似して仲間として大事にする。姿を見せて理解してもらう機会も大事かなと。

吉良 子どもたちは肌で感じるというか。

岡田さん 精神障害の場合は、大人になって病気になるのでそこの理解が難しい。見た目では分からないし、知識だけを与えることで偏見が強まる可能性もある。できれば本人が姿を見せて「自分はこういう経験をしてきて、こんな大変さがあったけど結婚して就職していますよ」といった話を聞く機会があればいいなと。

目の前にある、差別と偏見

吉良 精神障害のことを本当に理解している人は、実は少ないと思います。

岡田さん 街中で大きな声を上げていたりすると精神障害者だと分かりますよね。でも逆にそういうイメージがついている。大変なところしか見えていないから。でも落ち着いて環境が整えば、仕事や結婚、子育てをしている人もいます。
精神障害者への理解は課題が多い。

Aさん 「義務教育の中で精神疾患教育を実施してください」という要望に対して、「保健体育でやっています」という回答ですが、どう思われますか?

岡田さん 高校の授業では、2022年度から保健体育に精神疾患の項目が設けられます。やっとですね。でも、私たちは高校からでは遅いと思っています。理想的には小学生中学年くらいから少しずつ情報を伝えて、その積み重ねで年齢にそった内容で分かるような形で。中学生で発症する子が多いので。お会いした中で一番年齢が低い子は8歳でした。

Aさん 思春期は精神疾患が発症しやすく、三重大学で思春期の若者の心の不調の調査をした時に、思春期精神病様体験者が15%いることが分かっています。ニーズの最も高い若年層(12~25歳)の精神疾患を早期に発見し、タイムリーに支援を開始すれば、その後の症状をより良好にし、自殺を含む個人的・社会的・経済的損失を最小限にとどめることが明らかになりました。さらに精神疾患は発症後の5年間が、その中・長期的予後を決定づける重要な時期と言われているそうです。2010年のこころの健康構想会議の頃、そのようなデータが出ていました。
発達の過程で、みんながかかる可能性があると思いました。

吉良 そのあたりの啓発、教育は大切ですよね。
共生社会の魅力とメッセージ性が必要だと思い、県議会の一般質問では「わからない存在とわかりあえたら、新しい世界がひろがる。」というテーマを掲げました。そういう社会にしていきたいです。

Aさん 以前バスの中で、大きい声を出している人がいました。植木鉢を持っていたので、きっとこの人嬉しいんだろうなと私は思っていて。でも、バスの運転手さんが「騒ぐと降ろすぞ!」って言ったんです。彼はしゅん…となってしまって。運転手さんはきっと言い方が分からなかったんだと思う。

吉良 触れ合う機会があるとコミュニケーションを取りやすいのかなと。議員はよく駅立ちをします。2時間駅に立つと、大抵の駅で大きい声を出す方がいます。皆さんは目をそらしながら通勤して行くんですけど、数年駅に立っていると、その人と少しずつコミュニケーションを取れるようになるんです。触れ合う機会が全くないと難しいですよね。そこをいかに縮めていくか。

Aさん お互いの安心度を少しずつ高めていくことが必要です。そのためには、最低限の知識が必要で。

解決策はある

吉良 専門職にきっちりつなげる。教育で心の距離を縮めていく。心のケアも含めて、ご家族や周辺の方々をフォローする体制。具体的な解決法はあると感じます。

岡田さん これだけ長時間、精神障害者やその家族の実態について、議員さんに話を聞いてもらったのは初めての経験。これから私たちが何をしていくべきか、整理していきたい。全部お任せではなく自分たちにできることはやりながら、できないところをフォローしていただけたら。

Aさん 問題がすごく多いので、県の推進計画も注意しなければいけない。
ケアラー支援の場合には、①ケアラーの立場から見て、それについて学ぶこと。②家族全体への支援の視点は持たないといけない。③社会が何を準備するのか。これら3つの視点から考えないと。
障がい者本人へのサービスが足りなかったり、精神障害者への偏見についてはこの3つを注意しないとケアラー支援をまとめるのは難しい。
本筋はケアラー支援ですが、ケアラーにとっていいことは障がい者にとってもいいし、障がい者にとっていいことはケアラーにとってもいいので。
でも今回はケアラー支援という点から見る。そこを特に気をつけていきたいです。

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吉良英敏。46歳。 埼玉県議会 企画財政委員長。 全国初「ケアラー支援条例」提案者代表。 真言宗のお坊さん。 19歳の時、長谷寺(奈良県)で40日間の山籠り修行のあと、17日間歩いて地元に帰ってきました。その時の経験がきっかけで政治家を志しました。 座右の名は一隅を照らす。