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エリックとママがデクスターにとって最良の治療薬だった

この記事は映画「マイ・フレンド フォーエバー」のレビューです。

「怖い夢でも見たのかい?」

「違うよ。目が覚めて・・・真っ暗だと震えて汗をたくさんかくんだ。宇宙の直径は180億光年だって知ってる?その先をさらに180光年進むと・・・きっと何もない。その先を1兆倍進んだら。もう何も見えない。宇宙の光が届かない距離だから。死ぬほど寒くて死ぬほど暗い。時々夜中に目が覚めて・・・真っ暗だと・・・怖くなるんだ。僕は宇宙にいてもう戻れないような気が・・・」

「それを抱いて寝ろよ。目が覚めて怖くなったら・・・こう思うんだ。これはエリックの靴。僕はこんな臭いスニーカーを抱いてる。宇宙であるはずがない。ここは地球でエリックはすぐそばにいる。」

「いい考えだ!」

感動映画には必ずいくつかの伏線が張られています。上記の会話もその一つです。13歳のエリックの会話の相手は彼の隣家に越してきた11歳のデクスターです。彼はHIVで出生時の輸血が原因でした。孤独だった二人は趣味が合い遊ぶことで絆を深めて行きました。先の会話の場所はミシシッピ川の河川敷に張ったテントの中でした。彼らは親の同意を得ないまま船旅を続けていました。その目的はHIV特効薬を手に入れるためです。当時はHIVの治療薬がなく死の病と恐れられ伝染するなどのデマが横行していました。たまたまHIV特効薬発見”という見出しの雑誌を見つけママに相談しましたが、取り合ってもらえなかったため発見者の医師が住むルイジアナ州に二人で行くことにしました。ニューオーリンズに離婚したエリックのパパが住んでいるのでミシシッピ川を下ることにしたのです。しかし途中から乗船したクルーザーが停泊を続けたのでエリックはクルーザーから300ドル失敬して陸路に切り替えました。船主は怒って二人を追い詰めますが、デクスターはエリックのナイフを取り上げ自分の掌を切って出た血を相手に突きつけました。彼がHIVと知ると船主は一目散に逃げていきました。悲しみを伴う迫力のあるシーンです。エリックは疲労困憊したデクスターの様子を見て旅を諦め彼をママのもとに返すことにしました。

帰ってすぐデクスターは入院しました。雑誌にあった特効薬はインチキでした。エリックは彼のママの許しを得て毎日お見舞いに行き彼と遊びました。一番の遊びは医療従事者を驚かすことです。それはデクスターが死んだふりをして生き返るというものでした。その遊びは何日も続きました。いつもの通りエリックが「カモを探そうか?」と言うとデクスターはニコッとして頷きました。エリックがカモを見つけ「友達の様子がヘンなんです!」。エリックは病室の窓ガラスから様子を窺い爆笑の瞬間を待っていました。私の予想は当たっていました。デクスターは静かに旅立ったのです。

帰りの車の中で彼のママは大泣きしました。「ごめんなさい」と言うと「僕こそ。僕のせいです。」彼女が「どうして?」と訊くと「治療法を探せず・・・」彼女は涙を流すエリックを抱いて言いました。「精一杯やってくれたわ。病気と暮らしてたあの子・・・独りぼっちでつらい日々を・・・あなたが変えてくれた。いい友達ができて幸せだったわ。幸せだったのよ。」

お葬式の日、デクスターのママは二人きりにしてくれました。エリックが帰るとき彼女が「ねえ、時々遊びに来てね」と言うと、エリックは「25セント!」と言いました。彼女が髪の毛をいじくっていたからです。ママがこのしぐさをすると罰としてデクスターに25セント支払う約束になっていました。エリックの後ろ姿を見て片方の足が裸足であることに気付いたママは棺の中のデクスターを見て微笑みました。彼はエリックの靴を胸に抱いていました。デクスターの左足の靴を失敬したエリックは二人で旅立った川にその靴を流し二人だけのお別れをしました。

このシーンは泣けます。だから注目されてしまいます。でもこの映画の本当の良さは原題の通りだと思います。原題は「THE CURE」です。意味は治療法や救うです。だから死の恐怖と戦いながら希望を持って懸命に生きようとするデクスターやそれを助けるエリックの船旅の生き生きとした姿にこそこの映画の良さがあると思います。

HIVの治療薬を見つけることは叶わなかったけれどもエリックとママがデクスターにとって最良の治療薬だったかもしれません。

(See you)





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