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返事をしないクミちゃん

小学1年生を何回も担任した中で返事をしない子どもが一人いた。

後藤久美子さん似のクミちゃんだ。朝の会では呼名しながら健康観察するのが慣わしだ。その呼名に彼女は返事をしない。朝から叱るのは得策ではないと考え、そのまま様子を見ることにした。

ところがいつまでも経っても返事をしない。そこで荒療治に打って出ることにした。彼女の席をベランダに出したのだ。

「クミちゃんは今日はお休みなんだ。」

さぁ、これからが大変‼️


彼女は泣きわめいて「お家に帰る」の一点張り。なだめすかしても何をしても一向に埒が明かない。このままでは解決しないと悟った私は彼女の要求を呑むことにした。帰りの支度をさせ、クラスの子ども達には自習を出し、隣のクラスの先生に監督を頼んで、学校を出た。

こんな時間帯に若い男の先生とランドセルを背負った女の子が歩く姿はそうお目にかかれるものじゃない。帰宅途中、彼女は落ち着きを取り戻し、私と手をつないで家族のことや家での出来事などを話してくれた。家に着いて呼び鈴を押したが応答がない。二人で家に誰もいないことを確認し、二人でどうするかを考えた。彼女が出した答えは「学校に帰る」だった。

「そうか、じゃあ、帰ろうか。」

翌日から、彼女は返事をするようになり、私はこの子に大切なことを教わったと思った。

20数年振りに彼女に会った。あるイベントに私が参加していることを知って、会いに来てくれたのだ。彼女の横にはあの時のクミちゃんと瓜二つの娘がいてびっくり。芝生の上を走り回る姿を見ているうちにタイムスリップしたような不思議な感覚に襲われ、改めて良い体験をさせてもらった、と感謝した。

結婚相手を聞いて二度びっくり。あの時のあのクラスにいたイケメンのあっちゃんだった。あの事件のことを彼はどう思っていたのだろう。それは未だ謎のままだ。

(See you)

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