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鮫島伝次郎をリアルタイムで目撃する2021年夏

 『おかえりモネ』がおもしろい。震災10周年プロジェクトの一環というのも頷けます。このドラマにはオリンピックが今までのところ、出ていない。主人公はむしろラグビーにも無関心だ。モネがラグビーに興味を示すのは、天候が関わるとわかったときのみ。五郎丸ポーズすら興味がなさそうに思えます。
 モネが今後東京に行けば、否応なしにオリンピックが出てくるとは思う。気象のプロとして「炎天下で競技はできない」と言い切る場面があれば痛快だけれども。
 
 現時点でもスッキリしてはいる。このドラマの被災者たちは、オリンピックに何にも希望なんか託していないってこと。及川新次に「オリンピックもあるし、立ち直れ!」なんて言おうものならどうなることやら。ここで思い出すのは、宮城はまだ五輪有観客の見通しを立てていること。水道民営化といい、大丈夫なんでしょうか?

『エール』で古賀政男をモデルにした役をあの人が演じた奇跡

 じゃあNHKが免罪かというと、そんなわけもない。ニュースでは土石流や豪雨について流れたあと、薄気味悪いアゲアゲな音楽と共にスポーツニュースが始まる。もう勘弁してくれと言いたい。
 「五輪に忖度したマスメディア」筆頭候補のNHK。ドラマについても無論、そろそろ反省は出ているんじゃないかと私も思ってはいました。

 まずは『エール』。序盤で見るのを断念しました。福島ことばの訛りがひどい。わずか数行のセリフなのに、標準語と福島ことばのイントネーションが混ざっていて、耳に悪いドラマでした。『おかえりモネ』はみんな宮城ことばがお上手なのに、なぜ?
 あのドラマで古賀政男をモデルにした人物を演じたミュージシャンのキャスティングには、唸らされたものです。何せ彼はあの『HINOMARU』。そして古賀政男はリアル鮫島伝次郎。あのドラマのメイン3名(古関裕而、古賀政男、山田耕筰)は全員そうです。日本歌謡界なんてそんなもん……というのは、軍人から「殺すぞ!」と脅されても屈しなかった淡谷のりこさんのことでも考えてから言ってくださいね。
 古賀についてはこんな記事を書いたこともあって、『HINOMARU』のミュージシャンが古賀を演じるなんて夢のコラボだと感動したわけです。インパクトに残っているから、引っ張ってきます。

◆朝ドラ『エール』野田洋次郎さん配役のモデル・古賀政男とは? https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2020/05/04/147322 #武将ジャパン @bushoojapanより
「日本は神の国だ!」
「いたずらにセンチな歌は否定されるべきです。大衆の低俗なセンチメンタリズム追従した曲は邪道です」
「日本人は多種多様な生活様式をもっているから、まずそれを一元化して一つの指導精神をあたへなければならない」
「あちらの“ジャズ”はおそろしく野放途なんですね。けしていい傾向ではありません。ここで問題になるのは魂です。信念ですね」
「いまのメロディの検閲にしても、ドンドン行ってくれたほうがかへってよいとおもふ。ぼくなどは少なくとも歓迎しますね。一定の方向が指示されるわけだから、非常に作曲しいい」

「新体制下における流行歌手は先刻もいったように、日本人としての認識をふか、音楽的大和魂をもって向上をめざすんだね」
「大和魂がこのまま世界にのびるかというと、それは入れられない。大和魂に全世界をみつめる度量がなければ、ぜんぜん入れられないのであります。それはたんに戦争好きな国であってだめだ」
「日本のよいものは犠牲的精神、子は親のために兄弟のために働く。延(ひ)いては天皇陛下のために働く。この犠牲的精神こそ人類の誇るべき宗教だ。この尊い宗教を日本人はぜんぶもっている。これを(アメリカの)新聞記者をあつめて吹く。いまにこの大和ダマシヒは世界に君臨する」
「これから日本の音楽家は日本内地のみとの狭い考えをすてなければならない。すでにわれらの同胞には(朝鮮)半島あり、台湾あり、また満州、支那あり、南洋あり広く五族も六族も飽和してかつこれをリードするべく使命を課せられている」
「日本はいま東亜共栄圏の確保を目ざして、世界に君臨せんとするときにあたって、日本精神の発揚がとなえられている。われわれ音楽家のすべてがこれに邁進するになんの躊躇もない。ただ曲をつけるとき日本の言葉を理解しておかねばならない」
「向ふでよく『あんな弱いシナをいぢめるのはおまえたち悪いじゃないか』とくる。それはシナ人が分からないのだ。戦争はしているけれどもその良民には日本から米を運んで食べさせているじゃないか。お前たちは本当にシナの人民の生活を知らないのだ。とにかく何も知らない無知蒙昧な人間だ。日本とは教育の程度がちがう。手を握って行かうといふのにさうしないから一つ擲(なぐ)らなければならぬ。決してシナをにくんで戦争しているのじゃない。人類の崇高なものは犠牲的な精神だ」

 そういろいろと思っていたら、リアル鮫島伝次郎状態で。歴史とはこういうものかと感動しました。

◆「ロッキン中止ふざけんな」抑えきれなかった“同級生の父”菅義偉首相への不満(週刊女性PRIME)
https://news.yahoo.co.jp/articles/8992f40739d6e24b77ac587760065a7d031d80ee

 そして次。

オリンピックはただの運動会じゃないんじゃんねー!

 具体的に言いたくない。もう、名前すら出したくないのでぼかしますけど、2019年大河ドラマ。あの脚本家が週刊誌で連載をしているので、毎週チェックしています(陰険な動機で申し訳ない)。
 しかし、世間がオリンピックでこんな時期に、アホなタイトルの芝居をするとかなんとか云々。特にあのドラマについては振り返っていない。連載を読む範囲では、むしろあの作品への態度が冷たいようにも思えますが、果たして。

 しかし流石にファンが、ギルティープレジャーを感じていることだろうとは思いました。しかしそうではないようだ……。あのドラマでは「ただの運動会じゃんね!」と都合よくオリンピックから政治臭を消そうとするセリフをしつこく言わせておりましたが、何を言っていたのやら。オリンピックなんて白人優位思想の定番である古代ギリシャから取っている時点で、人種差別的で政治的じゃないですか。

 それにファンもといクラスタだって「今までオリンピックに興味なかったけど、このおかげで今はちがいます!」と元気に語っていたし。
「人見絹枝もつけていた旭日旗に反対するあなたの政党はなんなのですか!」
 と、某政党議員アカウントにウザがらみするクラスタの人も見かけましたよ……。そういうことをちょっとは考えてますかね?

 どう考えても、プロパガンダじゃないか? NHKはこのあいだニュースで中国の『覚醒年代』をプロバガンダと批判しておりましたが、まず己のしたことを反省したらどうかと言いたい。

 実際振り返ってみると、自分も含めてプロパガンダと指摘する人はいた。それがどうなったか? ファンとクラスタが罵倒しまくるからよほどタフでもなけりゃ「むむむ……」と黙るしかなかった。そうだったと記憶していますが。本当にあの攻撃力の高さはすごかった。
 
 そんなこと考えつつ検索していたら、こういう記事もありまして。引用させてくださいね。

『いだてん』の“オチ”は私たちが現実でつけるしかない SNSで熱狂的に語る人が絶えない理由 https://realsound.jp/movie/2019/12/post-465597.html
 第二部では、東京オリンピックを翌年に控えた私たちにとって既視感のある出来事が次々と起こる。「こんな時だからこそオリンピック」と言う嘉納治五郎の言葉に呆れながら田畑も五輪誘致に尽力するが、やがて返上を余儀なくされる。

 おそらく今の私たちの心境としては来年の東京オリンピックは、戦後復興とシンクロした1964年のアレよりも、政治状況を鑑みても1940年のソレと近いのではないかと思う。この第二部からSNSでの盛り上がりも大きく過熱していったが、それは他人事と思えないという気持ちを持った人が多かったからではないかと思う。

 逆に40話以降の戦後編を、どう受け止めていいのか自分にはまだわからない。ドラマとしてはもちろん面白かったのだが、ここで描かれたことをはっきりと理解できるようになるのは、来年の東京オリンピックを終えた後ではないかと思う。

 今読み返すと、なんともはや……ただ、事後諸葛亮じみてムカつくとは思いますけど、自分の2019年末でのことを思い出してみますと。
 あのドラマは禍根になりかねないと思っていました。
 2019年12月放映の『パラレル東京』で痛感させられた首都直下型地震の危険性。そもそも熱中症が発生する。トライアスロンの汚水問題。東京オリンピックを無事に開催でき、終わらせられる可能性は奇跡に近い。となれば、オリンピック喧伝したドラマとて、無事では済まない。大河や朝ドラ、ひいてはNHK。それに第二部主人公を先輩とする朝日新聞にまで災いが及びかねないと。
 
 そしてもうひとつ、答え合わせができた。

 そんなことを考えていたら、『あまちゃん』で主演を務めた、のん(能年玲奈)が、2020年オリンピックの岩手県聖火ランナーに選ばれたというニュースが入ってきた。何とアクロバティックな超展開だろうか。『あまちゃん』も『いだてん』も、ドラマが終わっても各登場人物の日常が続いているような開かれた手触りが残っていたが、まさか現実の方がフィクションに寄せて来るとは。

 是非とも『あまちゃん』のキャラクターで『いだてん』の続編『あまてん』を制作してほしい。というのは冗談だが、結局このお噺のオチは、私たちが現実でつけるしかないのだろう。だからこそSNSで熱狂的に語る人が絶えないのである。

 答えはわかっていたんじゃないですか? ノスタルジーだと。
 東京オリンピックは、前回の熱狂を再度味わいたい、現首相同年代向けのノスタルジーだ。あの大河では、決して褒められたものじゃない東洋の魔女推しをしていましたね。現首相も東洋の魔女を推してくる。答え合わせができた。

 そして結局、あの熱狂は『あまちゃん』で味わったSNSでのバズりと陶酔を再現した層のものだったことも明かされた。放映時から、あの大河レビューなのに、前段でやたらと長く『あまちゃん』のことを語る人が多くて辟易させられました。

 のんさんは、聖火リレーを辞退しました。

◆「のんさん」聖火ランナー辞退 感染拡大防止など理由に 岩手 | NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210604/k10013068501000.html

 流石だと思います。そんな聡明な彼女は、あの大河には関わっていません。それなのに、『あまちゃん』ロスをこじらせたファンが、まるであのオリンピックプロバガンダ大河にまで出演していたかのように語り続けることは何なのでしょうか? 迷惑なのではありませんか? だって彼女は、あの大河には出ていませんよ。いつまであまロスこじらせているんでしょうか? のんさんはもう次のステージに向かっているのに、ファンが足を引っ張っているようで見ていて切なくなってきます。

 そして『おかえりモネ』がらみでまたも答えが出た。 

業界人は何を待つべきか?

◆ NHK朝ドラ『おかえりモネ』に業界人から厳しい評価「コケる要素が多すぎる」 https://nikkan-spa.jp/1759672
「東日本大震災から10年の節目にあたることから舞台が宮城県になったそうですが、隣県の岩手を舞台にし、震災についても描いた『あまちゃん』の印象が強すぎて、「またか」「今やるべきドラマか?」といった声も多い。  もちろん震災のことは風化させてはいけないと思いますが、コロナ禍に描くドラマとしてふさわしい舞台だったかというと疑問が残ります。また、ロケ地である宮城県の人々もコロナ禍ということもあり、撮影自体に歓迎ムードがなく地元の盛り上がりもやや欠けているようです」

 一応、「風化させてはいけない」とおべんちゃら言いつつ、『あまちゃん』のことを持ち出す。あのドラマは復興支援だったのか? それともAKB商法をお茶の間に浸透させるものだったのか? あの朝ドラと被るキャストとスタッフは、復興五輪という名目を後押しするものではなかったのか? そういう不信感が頂点に達しました。
 そしてこの「業界人」という言葉にも既視感が。

◆ 阿部サダヲ、『いだてん』業界人からの高評価に喜び「誇りに思う」 | マイナビニュース https://news.mynavi.jp/article/20200206-968824/

一年を通して優秀な活躍をした俳優や映画・ドラマ等を表彰する同賞で、『いだてん』のプロデューサー陣が表彰され、阿部は「業界の方が選んでくれている賞らしいので、すごく誇りに思う。業界の方がすごく褒めてくれて、昨日も別の現場で褒めてくれる方がいて、熱狂的な方たちがすごくいっぱいいらっしゃるドラマでうれしいです」と笑顔を見せた。

 それって忖度では?

 業界人評価何するものぞ、ってやつですよ。業界人評価と実際の反響なり数字が乖離していたら、そんなもん、革命前のダンス踊っている貴族になっているってことじゃないですかね。IOCのバッハがあれだけ嫌われていることを、明日は我が身と思った方がよろしいのでは?

 オリンピックは色々なものをあらわにした。業界人やテレビ、マスメディアの嘘も暴いた。覚悟はしておいたほうがよろしいのでは?


 以下、どうでもいい投げ銭追記。

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