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男子大学生によるエッセイNo.3「星野源」

男子大学生によるエッセイ「へばりつく暮らし」
No.3
「星野源」


 はじめて星野源さんのことを意識したのは、世間一般と同じく、「恋」の恋ダンスが日本中で一大ブームを巻き起こしたタイミングであった。
 当時小学五年生のぼくも、昼休みに女子たちがこぞって恋ダンスを踊っていて、CDプレイヤーから流れてくるアップテンポでのびやかで素敵な音に、なぜだか自然と腰が動く経験をした。
 音楽の授業でも、ピアノに合わせてみんなで「恋」を歌って踊ろう!という感じの回があって、当時仲の良かった友人と、フリこそ解らないものの、マクドナルドのドナルドみたいな動きをしてリズムに乗っていたのを覚えている。
 僕がダンスを好きになったきっかけが彼であった。

 その「恋」のCDをTSUTAYAで借りて、パソコンで空のCDに焼いたり、父の車の中のHDに音源を取り込んだりした。
けれども当時の僕にとってはまだ、恋ダンスの練習をするためにかける程度で、音楽を聴いている感覚ではなかったように思う。
 ある夏の日に、家族全員で海の方へと旅行に行く機会があった。その帰り道に高速道路を走っていると、車窓の中からとても綺麗な夕日が見えた。黒く大きな雲が泰然としてそこにあるのに、その暗雲に柔らかく包み込むようなオレンジの夕陽が反射して、見たこともないような色合いの、不気味で美しい空だった。
 子供心にうっとりと眺めていると、ちょうどカーオーディオから、源さんの「Continues」という曲が流れだした。「恋」のカップリング曲として車に取り込んでおいたのだけれど、たぶんしっかり聞いたのはあの日がはじめてであったと記憶している。
 その瞬間が、今翻ってみても、僕の人生におけるフェーズ1が終わった瞬間だったように思う。それほどまでに、不思議なほどこの景色と感動を覚えている。
 それからすぐに源さんの旧譜のCDをレンタルしまくって、中学三年の頃にはすべてのCDを買い揃えるほど、狂ったように音楽に夢中になっていった。
 僕が再び音楽を好きになったきっかけも彼であっ た。

 中学三年生の時に、ちょうど新型コロナウイルスのパンデミックが起こった。それまでの日常は瓦解して、そのタイミングでちょうど音楽にドハマりし、何かの思い付きで聴き始めた源さんのオールナイトニッポンを皮切りに、さまざまな深夜ラジオを聴き漁るようになっていった。
 そんな最中、以前にこのエッセイでも書いたが、友人だった人間からありもしない噂をバラ撒かれ、そのせいでひどいいじめに遭い、畢竟今なおそれが災いして誰かのことを心の底から信用しきれなくなってしまうということがあった。そのせいで高校でもクラスで孤立し、クラスの友人たちが気にかけてくれているのに、彼らも本当は心の中で僕のことを笑っているんじゃないか、とかそういうことばかり考えていた、それまでで最も苦しい二年だった。
 当時の僕のメンタルを支えてくれたのが星野源の作品や言葉であった。「うちで踊ろう」の「一人踊ろう」という短いフレーズに、「変わらないまま」の「さらば人気者の群れよ/僕は一人で行く」という共感に、「Cube」の中に詰め込まれた怒りに、ReAssemblyで一緒に歌えた「Continues」に、ラジオで話す言葉の一つ一つや「馬鹿じゃないの」という言葉に、沢山のねぶり棒に、僕はどれほど救われただろうか。

 そんな敬愛する源さんが、言われもない噂によって苦しめられている。ハングリーなインターネットの化け物のターゲットにされて、金儲けのために利用されているのを見るのが堪らなく心苦しい。
 前述したとおり、自分も噂によってひどく心が裂かれる思いになったことがある。片田舎の中学校で広まったちっぽけな噂がそれなら、SNSで発言力のある人間のバラ撒いてあっという間に燃え広がった噂はどれほどの鋭さを持っているのだろうか。
 想像だにできない苦しみを、今彼は味わっているのではないだろうか。

 ちょっと考えればわかることすらわからなくなってもハングリーなままでいる様な、考えることを放棄した人たちには想像もできないのだろう。言葉一つで人間の心は簡単に壊れてしまう。

 噂を信じてしまうのは、言葉を話す生命体である限り仕方ないことではあるが、少なくとも僕は、簡単に人が発する言葉を鵜吞みにするような人にはなりたくないと思うばかりだ。
 SNSをしばらく前からあまりやらなくなって正解だった。あれは文字通りの地獄、憶測とスパムとエロとグロが綯い交ぜになった混沌でしかない。
 またこれでSNSの醜く腐った部分に苦しめられた分、何かいいジングルを作って怒りを昇華して星野源ANNに送ろう。

 彼がいなければ僕はどれだけくだらない人間になっていただろう。考えたくもないほどバカみたいな人間だっただろう。
 
 あなたほど苦しんだ過去があって、優しくて素敵な人を僕は知らない。あなたのおかげで救われた人間がここにいるんですよ!!また笑顔で会って、馬鹿じゃないのの声を聴かせてくださいね!

*あまりにも大きな嵐になっているので、どうしても書かずにはいられませんでした。明日は人生初のピンボでのライブをやって来るので、じっくりと寝ます*

かつて書いて、源さんにいいねをいただけたファンアートです。あの時の感激たるや忘れられません。

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