春待つ霜畑

来た。3月。就職解禁の4文字熟語がデカデカとTwitterトレンドに書いてある3月。こんなに憂鬱な春が人生にあってたまるか。

大好きな写真家のお姉さんに会うために電車に乗ると、トレンチコートに黒スーツの女の子が点在していた。反射的に発狂しそうになる衝動を抑えてスマホの音楽だけに集中し、気がつくと暴風が吹き荒れる下北沢に流れ着いた。春の風は厳しい。気温よりもずっと冷たい風に耐えながら、この間行った占いで『あなた今冬の時期だからねえ…』と言われたことを思い出した。世間の春についていけてない。

東京21年人生、1度も触れてこなかったサブカルの聖地は確かに東京ど真ん中といった出で立ちだった。どこ切りとってもPOPEYE。改札を出てくる人みんなマガジンハウスの差し金。

やりたいことをなにも分解できないまま大学4年を迎えようとしている。何一つ定まらないまま選択を迫られ、ただ漠然とポートフォリオの制作をせねばならず……しかしお見せできる作品は何もなくて……(以下省略)というまァしょうもない相談をお姉さんは目を見て聴いてくれた。やってもいいものになるかどうか分からないのに、ただ手を動かさなければならない現実が不安だった。

「畑作って、冬に畑耕さないといけないんですよ」と教えてくれたのは京王線に並んで座っている時だった。「畑耕すのってめちゃくちゃ寒くてしんどくて見た目に出る成果なんにもないんですけど、でもやると絶対作物の出来が良くなるんですよ」と続いた言葉で、自分の今がわかった気がした。

元気が出るもの食べましょう!と言って連れて行かれた幡ヶ谷のカレー屋はちゃんと野菜が入っていてとても美味しかった。本当は辛いものが苦手な私にはやや強めのスパイスが、夜の風に負けないほかほかの体を作ってくれた。

20時前なのに「おやすみなさい」と言って別れた改札で見たお姉さんの笑顔はとても明るくて、森見登美彦の小説の女の子によく似ていた。短い夜は歩いた方がいい。心地よい疲れを足にこさえ、種の芽吹きを待ちながら明るい心で家路についた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?